魔獣襲来
山頂へ続く一本道を上り始める。
道はどんどん険しく、細くなっていく。
ゴーレム1体がギリギリ通れるぐらいの道なので、少し怖い。
ジェットコースターがゆっくり登っていくときの気分に近い。
「このあたり、何か注意することありますか?」
ニコラくんが振り返って、エヴァ先輩に声をかける。
「ああ、魔王城の守りが厳しくなっている場所だから、敵がいるかも……!」
エヴァ先輩が大きな声で注意をした瞬間、突然、前方から異常な音が響いてきた。
ヴォンヴォンという音が鳴り響き、土煙が上がった。
気持ち悪い音を立てて何か大きなものが落下したような響き。
──巨大な虫の魔獣だ!
「来たか!」
マルクとワルデック先生が大剣を握りしめ、皆を制止、前へ出た。
黒光りするつやつやした身体が、巨大なアレを思い出させてぞっとする……
前世にも今世にもいた、人類の敵Gみたい……
「ビートル系の魔獣ですか……」
ニコラくんが冷静に言う。
「たぶん物理攻撃系ですが、固そうですね」
エヴァがその言葉にすぐに反応し、氷紋剣を引き抜いた。
「大丈夫、この程度ならみんなで撃破できる。まずは角をねらえ!」
「了解!」
マルクがゴーレムから飛び降りて、大剣をふりあげて駆けていく。
同時にワルデック先生も後を追った。
私たちはゴーレムから魔法で後方支援だ。
「マルク、気をつけろ!」
エヴァが叫ぶが、マルクはすでに地面を駆ける。
マルクが大剣を振り下ろし、ビートルの角を狙って一撃を放つ。
が、その一撃が角にかすった瞬間、ビートルが飛び立って、前足でマルクに襲いかかる。
「くっ、そ……飛ぶのかよ!」
ワルデック先生がマルクを庇うように、ビートルの足元を狙って斬撃を繰り出す。
「みんな、援護だ! アイスブレイク!」
エヴァが放った魔法がビートルに直撃すると、少し動きが鈍くなった。
「いける! 効いてる!」
ニコラくんが魔法陣を展開し、アイスランスをビートルに向けて放つ。
「いかづち!」
雷魔法をぶつけると、ビートルはビリビリしびれたように動きを止めた。
「うおおっ!」
マルクが大剣を振り下ろし、ビートルの角を切り落とす。
角が大きな音を立てて、地面に落ちた。
ビートルはじわり、と後退してバランスを崩している。
動きが明らかに鈍い。
「やはり角が弱点ですね」
ニコラくんが冷静に分析しながら、さらにアイスランスを追加した。
ビートルはもだえ苦しんでいるようだ。
あと少しで倒せる……と確信したとき、さらに別のビートルが現れた。
「また来やがった!」
マルクが叫んだその瞬間、空を覆うほどの数のビートルたちが、やってくるのが見えた。
「まずい! 全員で魔法攻撃を!」
エヴァ先輩が声をあげる。
こちらに向かって突撃してくる群れに、一斉に魔法を放つ。
初撃はエヴァ先輩のアイスブレイク。
ニコラくんが連射魔方陣を展開して、機関銃のようにアイスランスを発射する。
当たった敵には、私が雷攻撃で追撃。
ズシーーンと音がして、数匹のビートルが地面に落ちてくる。
クリス先輩がゴーレムから飛び降りて、マルクたちの加勢に向かった。
「くそっ、避ける暇もない!」
マルクが前に出て、剣を構える。
その後ろで、ワルデック先生が大剣を振り回し、ビートルたちを切り裂く。
「大丈夫だ! 一匹ずつ確実に仕留めろ!」
ワルデック先生の指示で、後方支援は一体ずつ落としていく作戦に切り替える。
「炎のブレス!」
「煉獄浄化!」
じゃまになっている死体は、レアナとオーグストが焼き払っていく。
少しずつだけど、敵が片付いて、優勢になっていくのがわかる。
大丈夫だ、いける!
弱ったビートルの角を、マルクとワルデック先生が次々と切り落としていく。
いつ見ても、マルクはすごい馬鹿力だ。
マルクが大剣を振るたびに、周囲の岩まで削れて、狭い道が広がっていく。
「これで最後だ、みんな!」
マルクが大剣を高くあげて、最後の一体に飛びかかった。
角がはじけ飛んで、地面に突き刺さる。
すかさず全員が魔法攻撃を仕掛けて……ワルデック先生が最後はまっぷたつに切り裂いた。
「これで全滅だな」
ワルデック先生が大剣を軽々と振り回して、倒れたビートルたちのとどめをさして回っている。
先生、さすが戦鬼です。かっこいいです。
ついに、ビートルたちは全滅した
しばらく気配を探っていたが、追加の敵がくる物音はしない。
暗闇の山道に、静けさが戻った。
「相変わらず派手に燃やしましたね」
ニコラくんがぶつぶつ言いながら、レアナたちが燃やした火に水をかけて後始末をしている。
いつものニコラくんの仕事だ。
ビートルの角は何かの素材に使えるらしく、異空間収納に放り込んでいる。
「よし、片付いたな」
マルクたちが戻ってきた。
「全員無事か?」
「はい!!」
ワルデック先生が周囲を見渡し、無事を確認する。
最初はどうなることかと緊張したけど、終わってみればたいしたことなかった。
身体がほぐれて、準備運動になったかも。
オクラマで訓練をしていたときのほうが、よほど大変だった。
あのときは、尽きることなく、裂け目から魔獣がわいてたもんね。
「よし、次に行こう」
飲み物を飲んだりして一息つき、再び行軍が始まる。