作戦の鍵
「二体いっぺんに出てきたら、戦えるかな……」
レアナの不安そうな声に、ちょっと全員が考え込む。
「対策はあるよ」
エヴァ先輩が力強く言い切った。
「兄弟魔神の弟のほうは脳筋タイプ。物理一辺倒で、防御もごり押しだから戦いやすい。こっちはワルデック先生やマルクが向いてる。魔法攻撃してこないから、力業でもなんとかなるよ」
「あの封印の祠で私が戦っていたようなタイプだな?」
「そう。クリスも剣が得意だから、戦いやすい相手だと思う」
なるほど。じゃあ、物理組が弟の方担当。
「もう一体の方はどんなタイプ? 魔法とかスキルとか」
「この兄のほうがちょっとやっかい。とにかく攻撃が速いんだ。魔法をいっぺんに二種類放つこともある、頭脳派。対抗できるのは、オーグストとニコラ。たぶん、魔法展開の速さや種類で言えば、ニコラが勝てる相手だと思う」
「……大丈夫でしょうか? 僕はそれほど魔方陣の展開が速いほうではないと思うのですが……」
「何言ってんの! ニコちゃんほど魔法展開が速い人なんて、スワンソン先生ぐらいしかいないよ?」
「そうだそうだ! おい、ニコラ、自信もてよ!」
レアナとマルクが、ふたりして援護射撃をする。
みんなが笑う。
「……有効な魔法の種類はわかりますか?」
「あっちは火魔法中心だから。逆に氷とか効くと思う。動きをにぶくするだけでも効果あるし」
「そっか。じゃあ、私の雷系とも相性いいよね? 先に氷で一撃入れてもらえたら」
「うん、僕も加勢するし」
エヴァ先輩とニコラくんが、目を合わせてうなずく。
エヴァ先輩の氷紋剣と私の雷撃のコンボは、今まで何度も使ってきた。
それで勝てるといいんだけどな……
「僕は、二体の魔神を倒したら、パーティーから離脱してレッドゾーンに向かう。あとはルイちゃんとクリス、頼むよ」
「えっ、ひとりで行くんですか?」
思わず立ち上がってしまった。
いやいや、それは無謀というものでしょ。
万が一のことがあったら、誰が先輩を助けるの?
「そんなのダメです! この作戦の鍵はエヴァ先輩でしょう? 少なくとも先輩が作業をする間、背中を預けられる人が同行すべきです!」
「……心配いらないよ。僕がめざすレッドゾーンに、恐らく敵はいない。管理ルームだからね」
「そんなの、わかんないじゃないですか! 重要なゾーンだから、何かしかけがあるかも……」
「なら、私が行こう」
クリス先輩が立ち上がった。
「エヴァはこの作戦の重要人物。護衛は必要だ。誰かひとりがつくとしたら、私が適任だろう?」
クリス先輩がエヴァ先輩の肩をぽんぽん、と叩く。
エヴァ先輩は少し困ったような顔で、視線をそらした。
「……クリスは勇者だ。魔王の方へ行くべきだよ」
「エヴァ先輩! 勇者なら私がいるじゃないですか! 時間稼ぎぐらいできます。みんながいるし」
「ルイちゃん……でも、きみは……」
「大丈夫です。それに、魔王だって、勇者がひとりだと思ったら、油断するかもしれないじゃないですか。作戦ですよ!」
「……わかった。じゃあ、レッドゾーンへは僕とクリスが向かう」
「はい! 待ってますから、絶対レッドゾーンから戻ってきて、合流してください」
不安だけどひとりじゃない。
きっと大丈夫。
「じゃあ、僕らが離脱した後、なるべく時間を稼ぎながら、魔王部屋へ向かってほしい。無理に突入しなくていいから。もし問答無用で戦闘になってしまった場合は……まかせる。できるだけ早く合流するから」
「大丈夫ですよ、先輩! 俺たちにまかせてください! 先輩は任務のほうをよろしくお願いします!」
「よし、決まりだな」
ワルデック先生がうなずき、全員の顔をぐるっと見渡した。
――いよいよ、最終決戦だ。
雑談をしながらデザートを食べて、焚き火の火を小さくして。
地面に寝袋を敷いただけの、簡素な寝床にもぐり込む。
すぐに誰かのイビキが聞こえてきて、なんだかそれが落ち着く。
たぶん、マルクかワルデック先生だよね。
魔界で地面に寝ているなんて、私たちもずいぶん肝っ玉が強くなったもんだなあ。
「さあ、そろそろ準備するぞ」
ワルデック先生の声で、みんな起き上がった。
実はちょっと前から目はさめてたんだけど、起きたら魔王城へ行かないといけないから、もうちょっと寝ていたい……なんて思ってて。
どうやらこの世界に朝は来ないみたいだけど、時間は確実に進んでいる。
ぐずぐずしていても仕方ないよね。
パンと飲み物で軽く食事をして、荷物を片付ける。
「結界、解きますよ~」
オーグストが柱を一本ずつ消すと、結界がゆっくりと消えていく。
その瞬間、肌寒さが一気に戻ってきた。
しっかり目がさめた感じ。
「ニコラくん、準備はどう?」
「万全ですよ。転移魔法陣も再チェックしたし。帰りは任せてください!」
いつもの穏やかな笑顔に、少しだけ安心する。
全員がゴーレムに乗り込み、魔王城への登山に踏み出した。
先頭はニコラくんで、索敵をかけながら、罠や敵に注意してくれている。
私やレアナは隊列の真ん中あたりにいて、最後列がワルデック先生だ。
後ろから見守ってくれているようで、心強いな。