暗黒の山道
ゴーレムの足音が、ドシンドシンと響く。
8体のゴーレムが行進してるから、さすがに轟音だ。
遠くにいる敵にもすぐに見つかってしまうんじゃないかと思うけど、意外に敵は襲ってこない。
というか、見渡す限り何もない荒野だ。
遠くの方に、たまに野犬のような魔獣が見えるけど、近寄ってくる気配はない。
私たちが、オクラマで数ヶ月間、裂け目からあふれてくる魔獣を倒しまくった。
結構、全部倒したのかも?と思えるぐらいの静けさだ。
紫っぽい空に、赤みを帯びた月のような光がずっと浮かんでいる。
太陽はないのかな?
時間の経過があまり感じられない。
「ニコラくん、方角は合ってる?」
「はい。方角はばっちり。ちゃんと方位計があるから大丈夫ですよ」
山が近づくにつれ、魔王城の光が見えにくくなって、大丈夫かな?と心配になった。
でも、ニコラくんが大丈夫というなら、多分大丈夫。
黙々と進むゴーレムの背に揺られていると、なんだか眠たくなってきた。
人間って、騒音にも慣れるものなのね。
自動運転にできるなら、ちょっと寝たいなあ……と思っていたら、ワルデック先生が行進を止めた。
「そろそろ休憩するか?」
「そうですね……みんな疲れも出てきたようですし」
ニコラくんがちらっと私の顔を見た。
あくびしてたの、バレたかな。
風もないし、魔獣の声もない。
静かすぎて、かえって不気味だ。
「……うーん。魔物の反応は、ないようですね」
ニコラくんが索敵魔法を発動して、周囲を確認してくれた。
ここで本格的に野営するのかな?
「あのあたりがいいんじゃないか?」
ワルデック先生が指さした方向には、岩のくぼみのような、洞窟の入り口のようなものが見えている。
「行ってみましょう」
ゴーレムは待機させたまま、周囲を調べてみることになった。
洞窟のように見えていた場所は、それほど深い穴ではなく、魔獣もいないみたい。
この世界で雨が降るのかどうかはわからないが、岩が屋根みたいになってるから休むにはちょうどよさそう。
「ここなら、夜を越せそうです」
「そうだな。休めるときに休んでおこう。明日は本格的な登山になるし」
夜を越すって……ずっと夜なんだけど、とちょっと思ったけど。
ワルデック先生のかけ声で、私たちは野営の準備にとりかかることにした。
ニコラくんが野営場所をぐるっと取り囲むようにゴーレムを配置して、魔導ランプの灯りを調整してくれた。
オーグストは結界の柱を何本も立てて、大きな結界をはってくれている。
さすが大神官。
食事の支度をするために、ニコラくんが異空間収納から大きな鍋や魔導コンロを出してくれた。
「とりあえず、まずは腹ごしらえをしよう。作戦会議はそのあとでいいだろう」
「やったー! ごはんだー!」
レアナが元気よく返事をして、食器を並べ始めた。
私たちはマジックバッグの中が、ほとんど食料だ。
パンや食後のデザートなどをどっさり並べる。
十日は食べられるぐらい、食料は持ってきてるからね。
手の空いている男子たちは、寝床の準備をしてくれている。
大鍋の中では、シチューがぐつぐつ煮え始める。
美味しそうなニオイに吸い寄せられるように、マルクが近寄ってきた。
「ん? この匂いは……あ、これはリリトの宿舎で出てたシチューだな」
「そうだ。お前たちが好きそうだったから、食堂に頼んでおいたんだぞ」
「うわー、ありがたいです!」
ワルデック先生が鍋の中をかき混ぜながら、ちょっと得意げな顔をしている。
全然家庭的なイメージなかったけど、割と似合ってますよ、お料理する姿。
もう家庭があるんだもんね!
焚き火を囲むように全員で腰を下ろす。
肌寒い夜だけれど、結界の中は暖かい。
つかの間の平和という感じ。
「じゃあ、ニコラ。明日の作戦、みんなに説明してくれ」
ワルデック先生の声に、パンをもぐもぐしながら、ニコラくんが立ち上がった。
「はい。明日は、あの山の中腹を通って、魔王城へと向かいます」
ニコラくんは、すでに魔王城へ向かう道を、索敵魔法で調べてくれたようだ。
私はゲームの中の知識しかないけど、確か、魔王城へは一本道だ。
途中で迷うようなギミックはなかったはず。
エヴァ先輩も、特に気にすることなく、ニコラくんの話を聞いている。
「僕はメタルゴーレムから、みんなのゴーレムを常に監視してます。何かあっても、即座に自動運転にして連れていくので安心してください」
出発前夜の、不安そうだったニコラくんを思い出す。
……でも、今は自信にあふれた声だ。
「俺は結界を担当する。あまり戦闘には役立たないかもしれないけど、後方支援はまかせろ」
オーグストが笑顔を見せて言った。
「エヴァ先輩からは何かありますか?」
ニコラくんが問いかけると、エヴァ先輩が立ち上がった。
「まず全員で正面の門を突破する。その門なんだけど、確か魔法攻撃が効かない……ルイちゃん、覚えてる?」
「はい。一定以上のステータスを持った人が、物理攻撃で突破するんですよね?」
「そう。ワルデック先生と、マルクなら余裕でいけると思う」
「よっしゃ! まかせとけ!」
マルクが嬉しそうな顔で、棍棒を振り回すような動きをした。
ワルデック先生も、ニヤリと余裕の微笑みを浮かべた。
「その後の動きなんだけど、恐らく城内には二体の魔神がいる。これが、魔王の部下だ」
「四大魔神のうちの残りふたりだな?」
クリス先輩が深刻な顔になった。
これまでの戦いでも、魔神はダントツの強さだったから。
二体いっぺんに出てきたら、戦えるんだろうか……と不安になる。