作戦会議
「エヴァ先輩とルイは、魔王がどんな姿をしてるか、見たことがあるの?」
「うーん……見たっていうか、正確には絵を見たことあるって感じかなあ」
私が答えると、みんなが首をかしげた。
「魔王の絵があったの?」
「うん。知的生命体の画面みたいなのがあって、そこに魔王の絵が表示されていて、画面の中で動いたりするんだよね。なんだか紫色の悪魔みたいな姿だったけど、実際の大きさはわからない」
「そう。紫色の身体に、黒い翼が生えてた。それがたぶん、第一形態」
エヴァ先輩が補足する。
「第一形態ってどういうこと?……変身するの?」
「うん。第二形態になると、身体がどんどん大きくなって……鋼鉄の鎧で覆われたような見た目になるんだよね。そうなってからはめちゃくちゃ強かった」
「どんなスキルや攻撃なんだ?」
マルクが身を乗り出すように聞いてくる。
「第二形態になると、物理で切っても切っても再生する。どこを切っても生えてくる」
「そういえば前に戦った魔神も、すぐに生えてきてたな……」
そうそう。クリス先輩が戦っていた魔神もそうだったっけ。
同じ種族なのかも。
「あと、回復魔法が全回復。いくらダメージ与えても、すぐに満タンになるってやつ」
「……それじゃ倒せないじゃん……」
レアナが青ざめた顔になった。
「さらに、こっちの結界を無効化する特殊魔法も持ってた。だから、結界には頼れない」
エヴァ先輩の言葉に、今度はオーグストが顔をしかめた。
「しかも、魔王と戦う前に、その側近の魔神兄弟と戦わないといけないんだ。赤と青の双子の兄弟で、それぞれ違う属性とスキルを持ってる」
「最悪だな……魔王だけでも最強なのに、さらに魔神が二体か……」
マルクがつぶやくと、全員が黙り込んでしまった。
「そういえば、試験でダンジョンに行ったときに、二人連れの魔神みたいなやつ、見たよな? あれがそうかな?」
ふいに思い出したようにオーグストが口を開く。
そういえば、そんなヤツがいたよね。
あのときは……確か至急リリトへ向かうとか言いながら、消えたっけ。
「ゼルゼア様に報告を……とかなんとか言ってたよね?」
「そうそう、封印の祠に行ったときも、あのオブジェになってるやつらも、ゼルゼア様って言ってた」
「多分、それ、魔王城にいる魔神のふたりのうちのどっちかだと思うな……ゼルゼアっていうの」
エヴァ先輩の顔を見ると、同意するように頷いた。
「そうだね。魔王の名前はアグノゼスだ。だから、ゼルゼアは魔王の側近だと思う」
「そいつらの特徴は?」
マルクが真剣な顔で尋ねると、エヴァ先輩はしばらく考え込んだ。
私もラスボスと戦うときに二体の側近がいたのは覚えてるけど、特徴までは思い出せない……
「片方は明らかに知能型。おそらくそっちがゼルゼアだと思う。部下を使って指示を出すくらいだから、かなり戦略的なんだ。こっちの行動を読んで、罠を仕掛けてくるタイプだよ。」
「魔法主体ってこと?」
ニコラくんが確認すると、エヴァ先輩はうなずいた。
「そう。体力だけで比べれば、こっちの方が少し弱い。ただ、防御力は異常に高いけど」
「ふーん……で、もう一体は?」
「で、もう一体は完全に脳筋。真正面から殴り合いするスタイルだから、動きは読みやすい。マルクなら、正面から受け止められるかもな?」
エヴァ先輩は笑いながら、マルクの肩をパシっと叩いた。
「ただ、僕が知ってるのは単なる知識にすぎない。実際にどれくらい強いのかは未知数だ。でも、相手を知っておくだけでも、生き残る確率は上がる」
「……やるしかないもんね」
レアナが小さな声で言った。
その言葉に、全員が、無言でうなずいた。
「だったら、いっそ大人数で魔王城へ攻め込むってわけにはいかねえのかよ?」
「うん……それは確かにできなくはないかもしれない。でも、魔王城の中は罠が多いし、道がわかるのは僕とルイちゃんだけだ。被害が拡大する可能性が高い。それと、僕は赤の部屋でやることを終えたら、二度と使えないように破壊したいと思ってる。魔王を倒すことができたら、帰る前に城ごとメテオで吹っ飛ばしておくのがいいと思う」
「なるほど。そうなると、あまり大人数は足手まといになるってわけだな?」
「その通り。大体の作戦、分かってもらえたかな?」
しばらくみんな黙って考え込んでいたけれど、レアナがあくびをしたのをきっかけに、クスっと笑いがでた。
今日は一日忙しかったから、疲れてるよね、ほんとは。
「みんな……そろそろ寝るかー」
マルクがごろんと布団に倒れ込んで、腕を大の字に広げる。
「ほんとだよ、明日は出発だもんね」
レアナも大きく伸びをして、毛布にもぐりこんだ。
ニコラくんは魔法で照明を落とし、オーグストは小さく祈りの言葉を唱える。
エヴァ先輩とクリス先輩はしばらく作戦会議を続けていたけど、そのうち布団に横になった。
出発は明日の正午。
今夜だけは……みんなゆっくり眠れる夜でありますように。