パジャマパーティー
大広間に布団を敷いて、輪になって座った。
男子はなんとなく居心地悪そうにしていて、お互いのパジャマ姿を見て笑ったりしている。
私とレアナはおやつの残りをつまみながら、ゴロゴロしておしゃべりをしていた。
男子もそのうちその空気に慣れてきたみたい。
布団の上で枕を投げ合ったり、取っ組み合いをしたりしている。
「ねえ、パジャマパーティーといえば、やっぱ恋バナじゃない?」
レアナが大きな声でみんなに声をかける。
そら来た、と言わんばかりに、マルクは身構えた。
オーグストは一瞬手に持っていた紅茶を吹きそうになって、そっぽを向いた。
ニコラくんは、無表情で静かに目をそらす。
「……あれ? なんで?」
みんなのウケが悪そうで、レアナは不思議そうだ。
まあ、女子は恋バナするけど、男子はねえ……
「いやいや、ここで実はずっと好きな人がいて……みたいな告白、ないの?」
「ないと思います……」
ニコラくんが即答する。
「ほんとか?」
マルクがからかうように、ニコラくんを肘でつつく。
「だって……僕ら、そもそも訓練漬けだったじゃないですか?」
ニコラくんがちょっと困った顔で笑った。
「確かにな」
マルクが腕を組んで、うんうんとうなずく。
「学園生活って言っても、俺ら、一年の途中で追い出されたしな?」
「そうそう、特AとかSクラスって隔離されてたしね?」
オーグストの追加情報に、みんな苦笑した。
「恋なんかしてるヒマなかったよねえ……」
レアナが肩をすくめた。
「クリス先輩はどうなんですか? 魔神を倒しに行く前に、好きだった人とか……」
「そ、そのようなことは……ゴホン。決してなかったぞ」
なんか、ちょっと赤くなるクリス先輩。
まあねえ…先輩の場合、生い立ちが特殊というか。
古竜さまと暮らしてたんだもんね。
「ルイとエヴァ先輩は、前世の記憶があるんでしょ? 好きな人とかいなかったの?」
「前世かあ……」
もう遠い昔のように色あせてしまった記憶を思い出す。
恋人なんていたっけ……
──いたな。そういえば。
あんまり優しい恋人ではなかったな……思い出しちゃった。
「私は、普通の大学生だったよ。二十歳だった」
「えー、二十歳? 年上じゃん」
レアナが目を丸くする。
「大学生というのは何ですか?」
ニコラくんが興味深そうな顔で聞いてくる。
「ああ、大学っていうのは、上級の学園ね。十八歳以上の人が通う学校」
「そこではどんな勉強してたんですか?」
「私は語学かな。外国の言葉を勉強する学科だったの」
「へえ……ルイは前世でも真面目に勉強してたんだろうね。で、エヴァ先輩は? やっぱり大学行ってたの?」
「僕はもう卒業して、会社員になってた。あの知的生命体の小型みたいなやつを使う仕事だったんだ」
だんだんとみんなが私のまわりに集まってきて、輪になった。
そういえば、こうやって誰かに前世の話をするのは初めてだ。
「それで、あの知的生命体と会話をすることができたんですね」
ニコラくんが納得したように、頷いている。
「ちょちょ、ちょっと待って、私たち、その知的生命体っていうの見てないもん。どんなのだった?」
あ、そうか。
あの時、レアナとマルクとオーグストは外で戦ってたもんね。
それじゃあ、イメージできないよね。
「知的生命体っていうのはね。簡単に言うとすごく高度な……コンピューターっていう機械だったんだ」
エヴァ先輩が、ゆっくりと思い出しながら説明を始める。
「そう。私たちの前世ってね。魔法がない世界だったの。だから、機械がいろんなことを人間の代わりにやってたんだよ」
「ふえー……魔法がない世界って、ちょっと想像できないけど」
レアナは目を丸くして驚いている。
そうだよね、私も今では魔法なしの生活なんてかんがえられないけど。
「そのコンピューターは、人間が書いた命令に従って、いろんな判断をするんだ。あの知的生命体の目的は、当初はアイギス島を守ることだった。でも……あるとき誰かが命令を書き換えたせいで、人類を排除しろって動き始めちゃったんだ」
「えっ、そんなことできるの?」
マルクが眉をひそめて声を上げた。
みんな真剣な顔でエヴァ先輩の話を聞いている。
「できるんだ。システムの裏側から命令を操作できる方法がある……特別なアクセス権限を持ってる人だけがね」
「それが、魔王城にいる……誰か?」
「うん。アイギス島の人間を滅ぼすようにと命令を出した場所が、魔王城にあるRedZone――赤の部屋だった」
「それって、つまり魔王がその……裏の操作をしてるってこと?」
レアナが口を挟む。
「その可能性は高いけど……あるいは、もっと別の存在かもしれない。とにかく、まずRedZoneに行かないとわからないことが多いんだ」
ふう……と誰かが息を吐いた。
なんだか話を聞いているだけで、緊張感が高まっている。
エヴァ先輩の話は、軍部の人たちも知らない、魔王城の真実に迫る話だから。
「それで、作戦だけど──魔王城内部は正面からのルートと、RedZoneへ通じる裏ルートに分かれてる。僕は裏ルートから単独でレッドゾーンを目指す。正規のルートはルイちゃんが覚えてるよね?」
「うん……たぶん。自信ないけど、行けば思い出すと思う。何度も攻略したし」
「二手に分かれるのか……」
マルクが低い声でつぶやく。
「分散しないと成功率は下がる。魔王の本体は、たぶんRedZoneにリンクしてる。だから……確実に勝つためには、僕が赤の部屋に行くのが一番なんだ」
確実に勝つために──エヴァ先輩のその言葉が、とても心強い。