表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

171/192

軍部会議

 厳かな会議室の空気が張り詰めていた。

 長テーブルの周囲には軍部の幹部、各国の代表者、そして聖教会の大神官たち。

 その最上席に、枢機卿の姿もある。


 スワンソン先生が前に立ち、これまでの出来事を時系列に説明していく。


「……アイギス遺跡の知的生命体は、本来島を守るための中枢でした。しかし外部からの不正な命令により、人類を排除するように命令されていたのです」

「そ、そんなことが現実に起こりえるのですか!!」

 

 どよめきが走る。

 顔を見合わせる人、驚きのあまり口をぽかんとあけている人……


「知的生命体と対話を試み、その命令を止めてくれたのは、勇者エヴァリスト・ディ・ベルジュです。彼は中枢の管理者として新たに登録されました」

「つまり、世界の中枢を――その一介の騎士に渡したということか?」

 

 わずかに怒気を含んだ声をあげたのは、マリアナ正教会の枢機卿だ。

 会議室の温度が一気に下がる

 どこまで権力を持っているのかわからない、古狸。

 私やエヴァ先輩を、封印の祠にふたたび封印させようとした黒幕は、コイツだ。


「知的生命体などと……そんな危険な存在を、なぜ破壊しなかったのです? 今からでも封印すべきでは……」

「勇者などと言っているが、本当はその者が魔王の手先ではないと、どうして証明できるのです?」

「そうだ! 怪しいではないか!」


 マリアナ正教会の大神官たちの騒ぐ声を聞いても、エヴァ先輩は黙って前を見据えていた。

 あの人たちに何を言っても無駄だということ、私たちはよく知っている。


「──だったら、あなたが行けばいいじゃないですか!」


 声を上げたのは、クリス先輩だった。

 ガタンと椅子を倒して立ち上がり、まっすぐに枢機卿を指さした。


「あなたが魔王城に行って、封印でもなんでもすればいい。けど、どうせ行かないだろう? 誰か命がけで行くという人がいるなら、我々は喜んでその役目を譲るぞ?」


 凜としたクリス先輩の声が響き渡る。

 先輩はゆっくりと会議室を見回したけど、誰も返事をする人はいなかった。 

 やがて、枢機卿が目を閉じ、もっともらしく口を開く。


「……神の加護が、彼らと共にあることを祈りましょう」


 ふん。

 最初からそう言えばいいものを。

 クリス先輩の大勝利!


「あの次元の裂け目から先は未踏領域だが、本当に魔王城へはたどり着けるのか?」


 声を上げたのは、バスティアン王国第一騎士団のモルガン団長だ。

 現在、軍部ではリーダー的なポジションになっている。


「それについては、現在アイギス島から引き上げてきたゴーレムの解析が進んでいます。それを利用すれば、かなり速くたどり着けるでしょう」

「往復のエネルギー源は足りているのか?」

「帰途については、転移魔方陣の解析がほぼ終わっています。討伐メンバーのニコラ・デルビーが、すでに実現にむけて訓練しています。次元の裂け目付近で、私が帰還用の魔方陣を展開します」

「なるほど。では、後は食料などの物資ですな……」


 隣にいるニコラくんは、緊張した面持ちで、スワンソン先生の話を聞いている。

 私も初めて聞いたけど、もう転移魔方陣は実現化しそうなんだね。

 ニコラくん、すごい。

 私たちが帰ってこれるかどうかは、ニコラくんにかかっているのかもしれない。


「その……ベルジュ騎士やクリストフ殿はともかく、他のメンバーは学生ではないのか。本当に任せても大丈夫なのか?親御さんたちは……その事実を知っているのか?」


 静かに声をあげたのは、リリトの国王様だ。

 穏やかで優しくて、私たちにもとてもよくしてくれた平和主義の王様。

 その言葉に、スワンソン先生が手をあげて答えた。


「確かに、彼らはまだ若い──しかし今、魔王を止められるのは、彼らしかいないのです」


 先生は私たちに視線を送り、ふたたびリリト国王様の方へ向き直った。


「彼らより優秀なメンバーを私は他に知りません。私は学者として、そして教師として断言します──この子たちが、真の勇者です」



 会議の後半は、部隊の編成や補給物資の確認に移っていった。

 そのやり取りを聞きながら、どこか遠い世界の話のように感じていた。

 実際に行くのは私たちなのに、なんだか置いてけぼりにされたみたいな気分。


「いよいよ、行くんだね……」

 隣に座っていたレアナが、ぽつりと小さくつぶやく。

 いつもは明るくて、冗談ばかり言ってるレアナが、真剣な顔をしている。

 そうだね……もう笑っていられないよね。


「……以上が、討伐作戦の全容です。諸国の皆さま、ご確認をお願いいたします」

 スワンソン先生がそう締めくくると、各国の代表者たちがうなずき合った。

「リリト王国は、この計画に全面的に同意します」

「バスティアン王国も同意する」

「マリアナ正教国も──彼らにすべてを託そう」


 ひとり、またひとりと首を縦に振る。

 そして、静かに拍手が広がった。

 

 ……なんでこういうときって、拍手なんかするんだろう。

 全然、おめでたくなんかないのに。

 そんなことを、ぼんやりと思った。

 

 会議室を出るとき、私はモルガン団長と話し合っているエヴァ先輩の背中を見た。

 私よりも、国の騎士としていろんなものを背負ってる先輩。

 私だって……先輩を支える覚悟はできてます。


 さあ、あとは行くだけだよね。

 魔王城へ。

 私たちの、最後の戦いが始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ