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リリト本部にて

「はあ……やっと帰ってこれた。疲れたあ……」

 レアナがぐったりした様子で、食堂にある長椅子にごろんと転がった。

 わかるよ……さすがに今日は疲れた。

 レアナが一番活躍したよね。

 私たちが戻ってくるまでの間、あの巨大サソリやクモと戦ってたんだもん。

 もちろんマルクやオーグストも頑張ってたけど、火魔法で敵を焼き払ってたのはレアナだ。

 お疲れ様。

 それから、みんなで丸テーブルを囲んで、食事タイムが始まった。


「あの巨大なサソリさあ……」

 マルクが鶏の丸焼きにかぶりつきながら、口を開いた。 

「黒焦げになってたやつ……あれ食えるのかな?」

 レアナがスプーンを持った手を止めて、怪訝な顔をしてマルクを見た。

「あれ、食べたいの? 気持ち悪い」

「いや、だって百足ヘビの焼いたやつだって食うだろ? サソリだって、案外エビみたいなもんかも?」

「……いやいやいや! 一瞬食べる想像しちゃったじゃない!」

 レアナが妄想を振り払うように、頭を振ってる。

 このふたり、ほんと面白いよなあ。

 夫婦漫才みたい。

 最初の頃、レアナはマルクにちょっと遠慮してたのにね。

 今はもう大親友みたいになってる。


 私たち、確実にメンタルは強くなったよね。

 さっきまで強敵と戦ってたのに、今はご飯食べて笑ってる。

 

 戦いたくないと思っていた頃もあった。

 でも……今はもう。

 逃げることなんかできないって、みんなわかってる。


「俺たち、本当に魔王を倒しに行くのかな? 夢とかじゃなくて」

「行きますよ……もうさっさと終わらせたい気分です、僕は」

「へへっ本当に勇者の仲間って感じだな?」

「……って感じじゃなくて、仲間なんですよ!」


 オーグストとニコラくん。

 このふたりも、最初は仲が悪かったっけ。

 ふたりとも魔術科Bクラスで。

 ニコラくんもずいぶん変わった。

 学年一位のガリ勉くんだったのが、今ではずいぶんたくましくなったなあと思う。 


「日本は……私が覚えている頃よりも、ずいぶん文明が発達したんだな? エヴァ殿」

「まあ、クリスが生きてた時代よりはね。さっきの知的生命体みたいなのが、当たり前の時代になったんだ」

「クリス先輩は、当時の日本のことを、どれぐらい覚えているんですか?」

「そうだなあ……もうほとんど忘れてしまったが、ひらがなぐらいなら覚えてるな」


 クリストフ先輩は、テーブルの上に指でひらがなを書いてみせてくれた。

 いろはにほへと……か。

 あいうえお、じゃないんだ。

 本当にクリス先輩が遠い昔からやってきた人だとわかる。

 この世界に転生して、それから数百年もの間封印されていて。

 今ここで一緒にご飯食べてるなんて、本人もびっくりだよね。

 よく馴染めたな、って思う。


 ほんの短い、つかの間の時間。

 仲間と笑い合える時間が、私たちの守りたいもの。

 これから大変だとは思うけど、きっと平和を取り戻して……

 ……また学園に戻れるといいな。



 その晩、ふと家族はどうしてるだろうって思った。

 お父さんはいきなり貴族に昇進して、きっと忙しくしてるんだろうな。

 結婚したお姉ちゃん、子どもできたりして……

 連絡してみようかな……

 そういえば、リリトでレベル上げを初めてから、全然連絡をとっていなかった。


 久しぶりに転移メモを取り出してペンをとる。

 今では当たり前にメッセージを送れるようになったけど、これってニコラくんの発明だった。

 まだ大賢者になる前だったのに、普通にすごいと思う。


『お母さんへ

 みんな元気にしていますか?

 私は元気です。

 クラスメイトたちと一緒に頑張っています。

 お父さんは、少しは貴族っぽくなってきた?

 早く帰りたいけど、もう少し待っていてね!

 マリアンヌ姉さんや、エレナにも、私は元気だって伝えてね。

 ルイーズ』


 なんとなく……話したいことはいっぱいあるけど、それは帰ってからでいいかな。

 今は、生きているということを知らせるだけで。

 エレナも大きくなったかな……ずいぶん長く会っていない気がする。

 お風呂に入って、寝る用意をしていると、母からの返信が届いた。


『ルイーズへ

 元気そうでよかったわ。心配していました。

 お父さんは相変わらず元気よ。

 貴族の集まりが苦手で、すぐに逃げ出して狩りに行っているわ。

 でも、あなたの話だけは、すごく自慢げに語るのよ。

 うちの娘は勇者なんだって。

 ちょっと照れながら、でも嬉しそうです。

 マリアンヌもエレナも元気です。

 またみんなで食卓を囲める日が来るといいわね。

 体に気をつけて。無理はしないようにね。

 お母さんより』


 お父さんも、お母さんも、元気そうでよかった。

 私がこれから魔王と戦いに行くなんて、想像もしていないんだろうな。

 でも、今はそれでいい。

 ちゃんと全部終わらせたら、そのときに全部話そうと思う。


 ベッドに横になると、カーテンの隙間からまん丸なお月様が見えた。

 外は静かで、平和そのものという感じで。

 ふと、子どもの頃、お姉ちゃんやエレナと遊んでいたときのことを思い出した。

 あの頃は、まさか自分が剣を持って戦うようになるなんて、夢にも思わなかった。


 でも今は違う。

 この先の未来を変えていけるのは、私とエヴァ先輩しかいない。

 

 大丈夫。

 だって、前世のゲームで私はちゃんと魔王に勝った。

 エヴァ先輩だって最後まで攻略したって言ってた。

 しかも、今回は裏技アリだよ?

 さすがに勝てるよね?


 うん。

 ちゃんとやり遂げて、家に帰ろう。

 ──絶対に、帰るんだ。



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