管理者の謎
「……エヴァ先輩、ひとつききたいんですけど」
ニコラくんが先生に質問するような様子で、手をあげた。
「うん。何?」
「僕たちがアイギス島の魔晶石のコアを見に行ったとき……壁に明らかに魔力が遮断されているような場所がありました。索敵をかけてみようとしたのですが、魔力が吸い込まれてしまうというか、無反応で……理由はわかりますか?」
「なるほど。アクセス拒否、ってやつだね」
「え?」
ニコラくんがきょとんとする。
たぶん、アクセス権限がないとか、パスワードを入れないと開かないとかだよね?
私はパソコンに詳しくなかったけど、なんとなくイメージはできる。
「要は権限がない者が入ろうとしでもダメなんだ。ユーザーIDが違うと認識されると、管理システムには入れない」
「……じゃあ、どうすれば?」
「まず、管理者権限を取得すること。日記によると、最初の管理者がいなくなったあと、管理者はクレアさんという人に引き継がれているよね? ということは、管理者権限は書き換えができるということなんだ」
「……そうですか。それは僕で難しそうですね。エヴァ先輩の説明もよくわからないので」
「……いや、望みはあるよ。アクセスの手順さえ合えば、必ず扉は開く。管理者コードのようなものさえ見つかれば……」
エヴァ先輩の言葉で、スワンソン先生がまた日記のページをめくり始める。
何かそれっぽい記述があったんだろうか。
「ベルジュ騎士、その管理者コードというのは文字の羅列のようなものですか?」
「そうですね。その可能性は高いです」
「解読しているときに、どうしてもわからない単語があったのです。ここを見てもらえますか?」
スワンソン先生は、日記の一ページをめくりながら、ある箇所に指をとめた。
「ここなのですが……」
『No.3741_Seq:X-αΩ Key:Clare.VA-002』と書かれた箇所を、スワンソン先生は指さした。
「あなたはこれを見てわかりますか?」
「これは……やっぱりコードだ。命令と識別キー……このClareって名前ですよね?」
「そうですね。この日記を書いていた管理者助手の名前でしょう」
「Clare.VA-002というのは、クレアに割り振られた管理者IDだと思います。002ということは多分2代目の登録者。つまり管理者コードは継承することができるはず……」
「なるほど。日記からもクレアは管理者助手だったことが判明していますから、その前の管理者がいたと考えるほうが自然ですね」
エヴァ先輩は手元のノートを取り出し、何かを書きながら考えをまとめている。
「名前……識別コード……僕が仮に管理者になれるとすれば、『Eva.BJ-147』とか、そういう形だ……だけど、どうやって書き換えを……一時的に外部からアクセスするためのアクセスキーがあったらいいんだけど……」
「あの、エヴァ先輩。ここで考えているより、もう一度アイギス島に行きませんか? 古竜さまに協力してもらったら、すぐに行けるんだし」
「僕も賛成です。記憶があいまいなまま考えていても、良い案がでるとは思えませんし」
ニコラくんはパタンと自分のノートを閉じると立ち上がった。
スワンソン先生も同意しているようで、大きくうなずいた。
「今回は私も同行しましょう。日記を解読できる者が必要でしょうから」
「先生……いいんですか? ここを離れても?」
「大丈夫ですよ。今は謎の解明が先決です。それにベルジュ騎士……もしその、管理者の権限というものを継承できたら、アイギス島の文明は復活できる可能性があるのですよね? 違いますか?」
「その通りです。管理者権限があれば、島のシステムを元通りにすることは可能だと思います」
スワンソン先生はうれしそうに目を輝かせている。
もともと古代文明の研究者だもん。
それは、ぜひ謎解きに参加したいはずだよね。
準備を急ごうという話になり、その場は解散となった。
アイギス島へ、もう一度……
今回はさらに深いところへ踏み込むことになる。
魔晶石のコアの奥、知的生命体と接触するために。
みんなちょっと緊張した面持ちになっていた。
「エヴァ先輩、私、先輩が本当の勇者だなって……そんな気がします」
「違うよ、僕はただ単に前世の仕事で、プログラムに詳しかっただけさ」
「それでも、先輩がいなかったら、私だけじゃダメでした。少しは希望が出てきましたよね?」
「そうだな……例のバグが存在したままだといいんだけど。こればっかりは行ってみないとわからないよ」
「ですね……」
……今度こそ、魔王討伐の鍵にたどり着けるといいな。
何か切り札を見つけられなければ、パーティーが全滅してしまう可能性がある。
ゲームじゃないんだから、リセットしてやり直すことはできない。
行くしかないよね。
この世界が、何なのかを知るために。