非公開エリア
そうか……
人間を滅ぼしてしまった知的生命体?も、後継者を選ぶという命令には従っていたんだね。
だから、クレアさんは生き残って日記を書いていた。
つじつまは合ってる。
だけど島に誰もいなくなった今、島の管理者は誰になってるんだろう。
それにしても……島を守るためのちょっとした命令の間違いが原因で、文明が滅んでしまうなんて。
それって、もしかして私たちの世界にも、同じようなことがあるんじゃないだろうか。
この世界がゲームの世界だと考えたら……
「ねえ、エヴァ先輩……管理者、なんてゲームの中で出てきましたっけ?」
「うん、今僕も同じことを考えていた。ひっかかるよね。この世界に、自動的に人類を滅ぼしてしまうような管理システムが存在しているなんて……本当にアイギス島には古代にそんな文明があったのかな?」
「日記に書かれている情報だけだから、なんとも言えないよね……」
エヴァ先輩は真剣な顔をして、何かを思い出そうとしている。
私は前世のゲームの知識なんてほとんど覚えていなくて、『アイギス島にはゴーレムがいた』ぐらいの知識しかないんだけど。
「先輩、何か思い出したことがあるんですか?」
「いや……魔王を倒しに行くときのことを考えていたんだけど……あのゲーム、初期には致命的なバグがあったはずなんだ」
「バグ……ですか?」
「隠し開発ルート。通常プレイヤーには開放されていない非公開システムエリアが、魔王城の中にあったんだ……」
「それって、裏技的な?」
「そう、勇者の剣が最強の剣になって、あっさり魔王を倒せる……みたいなルートがあったんだよ、確か。だけどアクセスキーがなんだったか思い出せなくて……」
「知的生命体って……」
「そうだな。接触してみるべきだと思う」
こそこそ話していると、スワンソン先生が私たちのほうへ目を向けた。
「ベルジュ騎士、何か気になることでもあるのですか?」
「あ……はい、確信ではないのですが……その知的生命体が島の管理をしていたということなら、そこから魔王城の情報にアクセスできる方法があるのではないかと」
「なぜ、そう思うのですか?」
「アイギス島は高度な文明があって、知的生命体がゴーレムを使役していた。それなのに人類が滅んだということは、誰かがその知的生命体にアクセスした可能性がありますよね?」
「アクセス、というのは?」
「つまり、知的生命体への命令を書き換えたのではないかと推測します」
「なるほど……ちょっと待ってくださいね」
スワンソン先生は、日記のページを最初からめくり始めた。
何か、思い当たる情報があるのだろうか。
「……アイギスは穏やかな島だった。ゴーレムは私たちの友であり、労働を担う守人であった。けれど、あの日を境に、なぜか彼らは自律行動を始めた……そして管理者が消えた……という記述がありますね」
「やっぱり……ゴーレムが人間を敵だと認識し始めたのには、理由があると思います」
「その後、アイギス島には魔物がどんどん増えて、砂漠が広がり始めた……ということのようですね」
スワンソン先生は真剣な眼差しで、日記のページを読んでいる。
話を聞く限り、私もエヴァ先輩の考えが正しいように思う。
もし、バグが存在していて裏技があるなら、絶対にやってみる価値はあるよね!
エヴァ先輩の話に、皆が黙り込んでいると、ニコラくんがふと何かを思いついたようだ。
いつもメモ書きにしている自分のノートを、パラパラとめくっている。
「……そういえば、ひとつ気になることを思い出しました。僕たちが、地下のコアの部屋に入ったとき……壁の奥に、明らかに封じられているような場所があったんです」
「封じられているとは?」
「魔晶石を採取しているときに、魔力を遮断しているような箇所があったんです。結界というか……外部からの魔力の干渉を遮断する感じの。その向こうに何かがあるのかと思いましたが、その時は時間がなかったので」
スワンソン先生が目を細めて、腕を組む。
私たちは気付かなかったけど、ニコラくんは魔力の残滓を感じ取ることができる。
「その奥に、何かを感じたのですか?」
「……いえ、何かというほど明確なものでは……しかし、拒絶されているような感覚がありました」
「それだ……!」
エヴァ先輩が立ち上がるると、勢いよく声をあげた。
「非公開システムエリア……! ゲームの中で、あの場所にだけ“プレイヤーが干渉できない空間あったんだ。そこに、システムの本体が隠されていたって噂されてたんだ」
……非公開エリア。
この世界のすべてを、コントロールしている場所。
それが何なのか、私にはわかる。
「ベルジュ騎士、ルイーズさん、あなたがたは転生者なのですよね? 前世の記憶があると言っていましたが、私にもわかるように説明してもらえますか? そのシステムエリアというものを」
「……信じてもらえるかどうかわかりませんが、僕らの前世の世界では、この世界は物語だったんです。そして、その物語の世界の登場人物……勇者になって冒険をするという遊びでした」
「遊び……その中であなたは勇者になったということですか?」
「そうです。ルイーズもそうです。誰でも勇者になって戦えるというゲームの世界だったんです」
「……ルイーズさん、あなたも覚えているのですか?」
「はい。私も勇者になって遊んだ記憶があります。ただ……エヴァ先輩ほどはっきりは覚えてないんですけど……」
「そうですか。ではあなたがたが勇者になれたのは、その前世があったから、ということなのでしょうね」
スワンソン先生は信じられないという顔をしているが、それでも私たちの言うことを信じてくれるようだ。