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報告

「ジル‼」

「クロエ!……よくぞ無事で」

「ごめんなさい、心配をかけて」

「いいんですよ、生きていてくれただけで」


 スワンソン先生がクロエさんを抱きしめて、涙を流している。

 スワンソン先生は調査隊のリーダーだったので、クロエさんが死んだことで責任を取って、研究を打ち切ったと聞いた。

 責任を取ったというよりは、心情的に続けることができなかったというのが本当のところらしいけど。


「ワルデック先生も、お疲れ様でしたね」 

「クロエはバスティアンへ送っていこうと思ったんだが、どうしてもお前に会いたいっていうからこっちへ連れてきた」

「でしたら、明日にでも騎士団の馬車でバスティアンへ送らせましょう」

「いいの。私、ここにいるわ。国に戻ってもすることなんてないし」

「でも、ご両親が待っているのではないですか?」

「両親にはトニオと一緒に会いにいくから」

「ああ、それなんだが……俺はクロエと一緒になることにした」


 ワルデック先生が、照れくさそうに頭をかきながらスワンソン先生に報告する。

 スワンソン先生は驚くような様子もなく、微笑んでいる。


「悪いな、お前には申し訳ない」

「なぜです? 私は2人が幸せになってくれたら嬉しいですよ」

「トニオ、ジルは私に恋愛感情なんかないわよ? あなたの盛大な勘違い。そう言ったじゃない」

「そんな勘違いしていたのですか? 神に誓ってクロエに恋愛感情はありませんよ。教え子のようなものです」

「そ、そうか。ならいいんだが……」


 一瞬3人が三角関係だったのかと、妙な空気になったけど、ワルデック先生の長年の勘違いだったようだ。

 クロエさんがいなくなってから、2人ともずっと独身だったからかな。


「クロエ、後でゆっくり話を聞かせてくださいね。みんな疲れているとは思いますが、報告をお願いします」


 私たちはしばらく離宮で待機することになった。

 クロエさんとワルデック先生にとっては、バスティアンに戻るより、離宮でのんびりする方がいいかもね。

 ハネムーンには最高の場所だし。


 

 食事をとってから、報告会になった。

 モルガン騎士団長とクロード魔導士団長も同席している。

 元々、アイギス島の発掘調査はバスティアンが中心になっていたらしく、今回のゴーレム捕獲に関しては興味津々のようだ。


「では、報告していただけますか?」

「捕獲したゴーレムは全部で10体。うち2体はメタルゴーレムです」

「 10体もですか。大変でしたね」

「ニコラくんが頭の魔法陣を解除してくれたので、戦わずに済んだんです」

「なるほど……よくメタルゴーレムを回収できましたね」

「メタルゴーレムの使役方法は、クロエさんが詳しいと思います。」

「そうなんですか?」

「はい。7年間の間、ゴーレムを使役して生き延びていたらしいんです。」

「そうだったんですね。では使役方法についてはクロエに確認するとして。魔晶石の方は?」

「これが、採掘してきた魔晶石です」


ニコラくんがマジカルバッグから、大量の魔晶石を取り出すと、スワンソン先生は目を輝かせた。


「こんなに採掘できたとは……」

「これだけあったら、10体のゴーレムを動かせそうですか?」

「それは実験してみないとなんとも言えませんね」

「もし足りないようなら、まだその場所には魔晶石が残っていたので、採掘は可能だと思います」

「わかりました、取り急ぎ魔晶石の魔力量の検査と、ゴーレムの使役方法の解析を急ぎましょう」


 スワンソン先生は、大きな魔晶石をひとつ手に取り、満足そうに眺めている。

 この石があれだけのゴーレムたちをずっと動かし続けていたなんて、すごいなあ。

 文明が滅んでもなお、機能し続けていたなんて。

 ニコラくんは、ノートにメモしていたことを読み返しながら、報告した順にチェックを入れている。


「スワンソン先生、発見された古代語の日記の解析はどうしますか?」

「ああ……そうでしたね。私のほうでも解析を進めていますが、やはりクロエに協力を頼んだほうがいいでしょう」

「わかりました。では、僕は転移魔法の研究に戻りたいと思います」

「デルビー、あなたも疲れているでしょう。今日ぐらいはゆっくり休みなさい」

「でも……急がないと……」

「転移魔法については、私が構築した部分を明日説明しますから。今日は、寝るように」

「……わかりました」


 報告会が終わると、食堂には豪華な食事が用意されていた。

 懐かしいな……

 ずっと以前にリリトの宮殿に滞在したときは、一週間毎日こんな食事をしていて、夢のように楽しかった。

 リリトの国王様に、また宮殿に滞在する権利をもらったんだっけ。

 こんな形でふたたび滞在するなんて、あの時は想像もしていなかったけど。

 

 レアナはソファで脚を投げ出し、「これでようやく甘いもの解禁だね」と言って、テーブルのスイーツに手を伸ばしている。

 マルクとふざけてお菓子の取り合いをしたりしているレアナに癒やされる。

 疲れていても、レアナはいつも元気そうで、ムードメーカーだなあ。

 

 せっかくの食事を目の前にしていても、みんなどこか疲れたような顔をしている。

 スワンソン先生の顔を見てほっとした反面、現実が一気に見えてきてしまった。

 もうすぐ、きっと最後の戦いが待ってる。

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