地下への入り口
「どうしよう……泳げる人、いる?」
皆、首を横に振っている。
学園に水泳の授業なんかなかったもんね。
「メテオで湖の水を異空間へ飛ばすというのはどうだろうか?」
「クリス先輩、ナイスアイデア。それ、いけるかもしれませんね。」
「この広さだったら、3人でやらないと無理かな?」
古代の人はどうやって湖の底へ潜っていたのか謎だけど。
私たちには他に手段がなさそうなので、メテオを使ってみることにした。
他のみんなには危ないので離れていてもらって、3人で剣を湖に向ける。
「グランメテオ!」
大きな爆音とともに、湖のあった場所が吹き飛んだ。
近寄ってのぞきこんでみると、水は底の方に少し残っているが、降りていけそうだ。
「あっ、あった! あれじゃない?」
向こう岸の底の方に、ぽっかりと横穴が開いている箇所がある。
扉はメテオで吹き飛ばされてしまったのかもしれない。
人ひとりがやっと通れるぐらいの入り口から、下へ降りる階段が見えている。
「入ってみます?」
「真っ暗だな……」
恐らく何百年も誰も入ったことのない、湖の底の洞窟だ。
じめじめした空気が漂っていて、できれば入りたくない感じ。
「私が行こう」
クリス先輩が手に小さな火を灯して、真っ先に足を踏み入れた。
クリス先輩って本当に勇気があるよなあ。
こういう時に一番頼りになる。
火魔法が使える人は、皆ロウソク程度に火を灯しながら、後に続いた。
20段ほど降りると、踊り場のような場所があって少し広くなっている。
そこからはなだらかに下へ傾斜する洞窟が続いている。
先へ進もうとすると、驚いたことに洞窟の壁には至る所に照明があって、それが次々と自動的に灯った。
いったい古代の文明はどれほど進んでいたんだろう。
照明があるということは、やっぱりここに出入りしていた人がいたということだ。
自動で人を感知する照明なんて、バスティアンの王宮ですら見たことない。
魔獣を警戒しながら進んだが、さすがに湖の底の洞窟に生き物はいないようだ。
少し下りながら洞窟を進むと、突き当たりに鉄の扉があった。
押してみたけれど、古いせいかびくともしない。
「破壊するか?」
「いや、もしこの先に魔晶石のコアがあったら危険です」
「どうするよ?」
「開ける方法がありそうな気がするんですけどね」
ニコラくんは扉の回りの壁に魔法陣がないか探している。
すると、壁の一箇所に手のひらサイズの小さな魔法陣があるのが見つかった。
こんな小さな魔法陣は初めて見た。
ぎっしりと古代文字が刻まれている。
ニコラくんが魔力を流してみると、鉄の扉は大きな音をたてて、あっさりと開いた。
「なんだここは……」
その先の部屋は、一面が魔晶石の結晶で覆われたキラキラの部屋だった。
中央に大きなガラスのドームのようなものがある。
のぞきこんでみると、さらに地下に大きな魔晶石の塊が見えた。
「あれがコアかなあ?」
「そうかもしれません。それより……この結界はいったいどうなってるのか」
ニコラくんがガラスドームのような結界を見て驚いている。
数百年もの間、結界がそのまま存在していることが、脅威的だと言う。
床を調べると、この部屋自体が大きな魔法陣になっているようだ。
この結界を突破してさらに地下へ降りるのは無理だということになった。
「いずれにしても、コアを破壊してしまうと、この島自体がどうなってしまうかわかりません」
「ゴーレムを動かすのに、どれぐらいの大きさの魔晶石が必要?」
「そうですね……」
ニコラくんはぐるりと周りを見回して、握りこぶしぐらいの魔晶石を指さした。
「これぐらいあれば、数日は動くかもしれませんね」
「だったら、とりあえず、壁にある魔晶石だけ採掘して持っていかない?」
コアは地下にあるんだし、部屋の壁にある分ぐらいなら採っていっても大丈夫ではないかという話になった。
地下で壁を崩すのは危ないので、ここは手作業で採掘することにする。
レアナとニコラくんに鉄のアイスピックのようなものを作ってもらって、みんなで掘った。
キラキラ輝く結晶を採掘するのは、案外楽しい。
宝石を集めているような感じだ。
それから数時間かけて、壁に見えている大きめの結晶はすべて採掘してしまった。
「そろそろ戻った方がいいんじゃない?」
夜になるとサソリとタランチュラがわいてくる。
こんな狭い洞窟内で出会いたくない。
足りなければまた採掘しにくればいいので、ここはいったん引き上げることにした。
地上へ戻るとすでに太陽が傾いていて、危ないところだった。
夜になる前に遺跡へ戻らなくては。
「その前に……ここは塞いでおきましょう」
中に魔獣が入り込まないように、ニコラくんが入り口を土の壁で塞いだ。
さらに、オーグストが聖結界をかける。
「用事が済んだのであれば、もう古竜殿を呼べばいいのではないか?」
「確かに。クロエさんも早く帰りたいだろうしね」
ゴーレムは捕獲できたし、魔晶石もかなり採った。
この島にこれ以上長くいる必要はなさそうだ。
発掘の専門家でもない私たちに、できることはない。
遺跡まで歩いて戻ると、2時間はかかる。
それなら古竜様を呼ぼうというクリス先輩の提案に、皆賛成した。
古竜様はどうせ迎えに来なければいけないので、神殿のあたりの山でウロウロしていたようだ。
呼笛ですぐに飛んできてくれた。
そして、私たちはワルデック先生とクロエさんを迎えにいって、そのままリリトへ戻ることになった。