ふたりの秘密
魔導戦士なんて、聖騎士よりもめずらしい。
10年に1人出てくるかどうかだと聞いたことがある。
でも、私はなんだかそれって、素質はあっても気付いていない人が多いということなんじゃないかと思ってしまう。
教会の職業判定って、絶対ではないような気がする。
魔力量が少なくても火魔法を使えたレアナには、才能の芽みたいなものが最初からあったのかも。
「これ…どういうことかな。なんか怖い」
レアナは自分に起きていることが信じられなくて、座り込んでしまった。
無理やり攻撃魔法を使わせてしまったのは私なので、申し訳ない気持ちになる。
私も(勇者)でさんざん悩んだ。
今のレアナの気持ちをわかってあげられるのは、きっと私だけだよね。
「ねえ…レア。私、ずっと隠してたことあるの。誰にも言ってない。親にも。それを話すね」
「秘密?」
「うん。職業ってさ。将来変わる可能性あると思ってるんだ、私」
「私が将来魔導戦士に変わるっていう意味? なんで? そんな話聞いたことないよ」
「あくまでも、可能性ね。目指さなかったら変わらないんだと思う。レアも、今後一切魔法使わなかったら、ずっと騎士でいられるんじゃないかな。選べるんだと思う」
「ちょっと待って…レアも、って今言ったよね。もしかしてルイもそうなの?」
「うん…これはちょっと人に言うのは勇気がいるんだけど…」
話すべきか一瞬迷う。
でも、信じてくれる人はレアナしかいないような気がして。
「私も聖騎士だけど、その後ろに(勇者)って表示されてるの」
「えええーっ! 勇者っ?」
レアナは自分の心配など吹っ飛んだような顔をして、驚いている。
そりゃそうだよね。勇者ってなると、100年に1度、とかのレベルじゃないだろうか。
「私、このこと、誰にも知られたくないし、できれば勇者になんかなりたくない。だから、できるだけ強くなんかなりたくないって思ってた。ある日突然勇者になってしまったら、怖いじゃない?」
「もしかして…さっきのエアスラッシュって、勇者のスキル?」
「わからないけど、そういうのが増えていくと、そのうち勇者にバージョンアップしてしまうかもって思ってる」
「そっか…でも、ルイは勇者にはなりたくない、と」
レアナは一生懸命に頭を整理するように、何かを考えている。
「私も、レアが魔導戦士になる可能性があること、絶対に誰にも言わない。魔法が使えることも言わない。だから、ふたりだけの秘密にしよ? レアがどんな道を選んでもいいよ」
レアナは、少し考えてからすっと立ち上がって、手のひらを的の方に向けた。
「ファイアーボム!!」
さっきより大きめの火の玉が、的の手前ぐらいまで飛んだ。
確かめるように手のひらを見て、それから、レアナはすっきりした顔で笑った。
「私は、魔導戦士目指すことにする! だって、かっこいいじゃない!」
「本当? そんなに簡単に決めていいの?」
「うん、実は聖騎士ってかっこいいなーってずっと思ってたもん。ステイタスにはっきり出たんだし、せっかくの攻撃魔法、使わないともったいないよね?」
「レアがそれでいいなら、応援する!」
それから、ふたりで攻撃魔法の話で盛り上がった。
どこかでふたりでこっそり練習しようって約束した。
先日冒険者登録を急いだのも、職業が変わる前にカードを作っておきたかったという事情を話したら、レアナは納得していた。
私は、この先、表向きは聖騎士という身分でいたいから。
レアナも当面、学園では魔法は使わず、騎士の訓練だけをするみたい。
バレると面倒なことになりそうだ、という私の気持ちはよくわかってくれた。