神殿を目指す
「サソリだっ! サソリが出たぞっ!」
「気をつけろ! 火炎を吐くぞ!」
黒い大きなサソリの魔獣。
見ただけでゾッとする。
私たちは一応解毒の腕輪を装備しているけれど、あくまでも体内に入った毒を解毒する腕輪なので、即死レベルの毒には効果が間に合わない。
あの尻尾で刺されたら終わりだ。
「アイスブレイク!」
「いかずち!」
麻痺したサソリの尻尾をマルクが切り落とした。
ワルデック先生がとどめをさす。
黒光りしていてなんとも気持ち悪い。
レベル上げするにしても、虫系は嫌だな……
「夕暮れになったら、出てきやがったな」
このあたりのサソリやタランチュラは、夜になると砂地の巣穴から出てくるらしい。
遺跡のあたりは床が石畳なので大丈夫みたいだけど。
念のため、ニコラくんが周辺の索敵を始めた。
「このあたりは大丈夫みたいなので、ここに城壁を作っておきましょう」
遺跡の入り口あたりで遮るように、ニコラくんが高い城壁を作ってくれた。
野営する砦には結界も張ってるから、これなら安心して寝られそう。
オクラマ島にいたときには駐屯所があったので、野営は久しぶりだ。
スワンソン先生と一緒に古竜様のところに行ったとき以来かな。
ニコラくんが異空間収納を使えるようになったので、食材などは豊富に持ってきている。
リリトの宮殿で作ってもらった料理を並べて、かなり贅沢な晩餐だ。
作りたてのように温かい料理が出てくるのがうれしい。
やっぱり異空間収納とマジカルバッグでは全然レベルが違うなあ。
食事が済んだら交代で見張りをすることになり、私とワルデック先生以外はみんな早めに休んだ。
あたりは静寂に包まれていて、パチパチと燃える焚き火の音だけが響いている。
無人島ってこんなに静かなんだ。
ずっとオクラマ島でドンパチやってたから、静かすぎるとかえって緊張する感じ。
「またここへ来ることになるとはな……」
ワルデック先生が、ごろんと寝転がって、星空を眺めながらつぶやいた。
「先生たちが来たときは、船で来たんですよね?」
「ああ。50人ほどの発掘調査隊が派遣されて、スワンソン先生は調査隊のリーダーだった。俺は護衛だ」
「先生にも仲間がいたんですよね……」
「俺以外にあと3人。そのうち2人は今でも元気に冒険者やってるみたいだけどな。1人は……あそこらへんから落っこちたんだ。海側に落ちたからか、遺体も見つからなかった」
ワルデック先生が指さしたのは、神殿のあたりだ。
海側が断崖絶壁になっていて、高所恐怖症の私としては、絶対近寄りたくないような場所。
「明日、あそこへ行くんですよね……」
「あのあたりへ行ったら、花でも供えてやるさ」
そうか。
ワルデック先生、最初からそのつもりだったんだ。
マジカルバッグにお花が入ってるのかな。
だったら、もう一度来れてよかったのかもしれない。
朝が来て、古竜様が私たちを迎えに来てくれた。
山の中腹ぐらいに降りられる場所があったので、そこまでは連れていってくれると言う。
かなり標高の高い山なので、それだけでもずいぶん助かる。
黒くそびえ立つ神殿の岩山は、植物もなく魔獣もいない。
本当に、どうやってこんなところに神殿をつくったのか、謎の文明だ。
ゴーレムを使役していたぐらいだから、高度な魔法技術があったんだろうか。
それにしても、降ろしてもらった場所から神殿に向かうには、人がひとりやっと通れるぐらいの絶壁を伝っていかないといけない。
絶対に無理だ。
足がすくんで、一歩も進めそうな気がしない。
「少し時間がかかるかもしれませんが、安全に行きましょうか」
ニコラくんが、土系の魔法を駆使して、神殿まで階段をつくってくれるというので、それについていくことにした。
本当に、こういう時頼りになるのはニコラくんだ。
一列になって狭い石段を一歩ずつ上っていく。
急な階段なので、後ろは振り返りたくない感じだけど、絶壁を伝うよりだいぶマシだ。
途中でワルデック先生は、海の方に向かって花束を投げていた。
供えにいけなくてごめんなさい。
ようやく神殿のある場所まで登ると、目を疑うような光景が広がっている。
芝生のような緑があって、花が咲いている。
湧き水が流れ出ている泉もある。
まるで砂漠のオアシスだ。
そこに、2体の黒光りするゴーレムがいた。
メタルゴーレムだ。
金属のトゲトゲハンマーを持っている。
防御力が異常に高いらしいから、倒すのは無理としても、なんとかして止めないといけない。
こんなところで派手に戦って、落ちたら死んでしまうから、そっちが心配だ。
ニコラくんがアースウォールで下半身を埋めようとしたけど、簡単に蹴り壊してこちらへ向かってくる。
「ウォーターウェイブ!」
「いかづち!」
濡らして雷を落とすと、金属だからかよく効いたようだ。
ビリビリと震えて動きを止めている。
だけど、完全に動けないわけではなく、ヨロヨロしている感じだ。
ハンマーを持っているので、近寄るのは危ないかも。
神殿はもう目の前だ。
正面の大きな扉は開いたままになっている。
神殿を砦代わりにして戦うことにして、メタルゴーレムが痺れている間に神殿まで走った。