表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

155/192

向こう側の世界

 スワンソン先生は、即席でちょうど人間ぐらいの大きさのパペットを作成した。

 トコトコとまっすぐ歩いて、10歩ぐらい歩いたらくるりと方向転換して戻ってくる。

 ただそれだけの人形だ。

 これを、次元の裂け目から歩かせて、戻ってくるかどうかの実験だ。


 魔物が出てこなくなった大結界を解除して、裂け目の前に集まった。

 ここから向こう側は真っ暗で何も見えない。

 人形を裂け目のところに設置して、背中を押すと、トコトコと歩いて裂け目の向こうに消えた。

 そして、数秒後、人形は戻ってきた。

 全員がホッとため息をつく。


「ちょっと見に行ってみるか? いずれ行くにしても、どんなところが知っておきたいだろう?」

「しかし……人の身体にどんな影響があるかもわからないのですよ?」

「なあに、デーモンタウロスがウロウロできるなら、人間だってウロウロできるだろうよ」


 ワルデック先生は楽観的だ。

 わざと明るくそう言ってるんだろうけど。


 多分、向こう側の世界は、人間が行けないような場所じゃない。

 あんまり気分のいい場所ではないと思うけど、少なくとも、私たちは魔王の城まではたどり着けるはずだ。

 ゲームのストーリー通りなら。


「俺が行ってみるか。代表して」

「トニ、あなたが行くなら私も……」

「いや、お前はここで待ってろよ。俺はどうせ、あの時死んでたはずの人間だ。今更怖いもんなんてないからな」

「待ってください」


 スワンソン先生が、ワルデック先生の手をつかんで引き止めた。

 そして、しっかりと手をつないだ。


「何かあったら私が引き戻しますから、一歩だけ踏み入れてみてください」

「おう、頼んだぞ」


 スワンソン先生と手をつないだまま、ワルデック先生の姿が裂け目の向こう側に消えた。

 そして、またひょい、と戻ってきた。


「一歩ぐらいじゃ、何にも見えねえぞ。真っ暗だ」

「そうですか……でも、戻ってはこれましたね」

「スワンソン先生、私が先生の手を握っているので、ワルデック先生ともう少し進んでみては?」

「わかりました、そうしましょう」


 私がスワンソン先生の手を握ると、反対側の手をニコラくんが握ってくれた。

 ニコラくんの手をレアナが、レアナの手をマルクが、マルクの手をオーグストが。

 その後にはエヴァ先輩とクリス先輩もいる。

 

「よし、もう一度行くぞ」


 ワルデック先生を先頭に、手をしっかりつないだままひとりずつ裂け目に入っていく。

 スワンソン先生が、大丈夫、という感じで私の手を引っ張ったので、私も思い切って入ってみた。

 たしかに暗闇なんだけど、ぼんやりと先の方は明るい。

 

「おい、見えたぞ!」


 ワルデック先生の声で、後ろの人を引っ張って、少しずつ進んだ。

 眼の前に広がる光景は、私の想像と少し違っていた。

 果てしなく広がる荒れ地に魔物はまったくいなくて、シンと静まり返っている。

 紫がかった太陽とも月とも違う丸い天体が空に浮かんでいて、満月の月夜ぐらいの明るさだ。

 今が昼なのか夜なのかもわからないけど。


 かなり遠くに、山が連なっていて、その上に明かりが見える。

 多分、あれが魔王の城だ。

 

 後から入ってきたメンバーも、呆然と眼の前に広がる光景を見ている。

 最後に入ってきたクリス先輩の先も、騎士団の人たちが手をつないでくれているようだ。


「とにかく、戻りましょう。これ以上は準備しないと進めません」


 スワンソン先生の声で、みんな裂け目へ戻った。

 手をつないで入ってきたのは正解だ。

 境目あたりが真っ暗なので、魔界側からはどこに裂け目があるのかわかりにくい。


 こちら側に戻ってきたら、緊張が解けて、どっと疲れが襲ってきた。

 とりあえず、大神官たちが大結界を張り直した。


 裂け目に入ってみてわかったことは、魔王の城が思っていたより遠いということ。

 歩いて行こうと思ったら何日もかかるかもしれない。

 しかも、山を登らないといけない。

 ということは、魔界で野営しないといけないということだ。

 あの、何もないだだっ広い荒れ地で。

 さすがに古竜様は裂け目に入れないしなあ。


「魔物、全然いなかったね」

「僕たちが全部倒しちゃったということでしょうか」

「静かだったよね」

「とにかく、あの山の上を目指すというなら、戻ってくる時のことを考えなければなりません」


 スワンソン先生の言う通りだ。

 あんな遠いところまで行ったら、戻ってきても裂け目を見つけるのは至難の業だと思う。

 例えば、誰かが大きな篝火でも燃やし続けて待っていてくれたら、見つけられるかもしれないけど。

 

 実際に魔界と魔王の城を見たのは、衝撃だった。

 想像はしていたけど、想像と実際見るのは大違いだ。

 あんなところを目指すのかと思うと、逃げ出したくなる。


「あと少し……3ヶ月もあれば、転移魔法陣を完成させられます。せめてその間、敵が動かなければいいのですが」


 スワンソン先生は、あちこちで見つけた古代魔法の転移魔法陣を研究して、それを現代の魔法陣に転用する研究をしているんだそうだ。

 古代魔法陣は、必要な魔力が多すぎて、ひとりでは起動できない。

 それを効率化して、人間の魔力でも瞬間移動できる魔法陣が、あと少しで完成するという。

 完成したら、ニコラくんがいれば、瞬間移動で戻ってこれるらしい。


 3ヶ月か。

 敵が出てこなくなった今、ここでこれ以上のレベル上げは難しい。

 レベルをカンストしてるかというと、まだだと思う。

 魔力や体力の上限値の伸びが頭打ちしている感じがない。

 まだ伸びる気がする。


 転移魔法陣が完成するまでに、装備の方もなんとかしたい。

 レベル上げができて、装備品を探せるような場所がないか、情報収集をしてみることになった。


 セルディアからここへ来て、3ヶ月以上休みなく戦ってきた。

 今すぐ魔界へ行くわけじゃないなら、少しでいいからここを離れて休みたい。

 私たちはスワンソン先生にお願いして、いったんリリトの王宮で休憩させてもらうことになった。

 

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!

これでセルディア編は終わりです。(まだ物語は続きます)

もしよかったら、ブックマークとか評価とかいれていただけると、心臓バクバクするぐらいうれしいです。

月末は本業の方が修羅場で、更新が滞ることがあるかもしれませんが、ごめんなさい。

必ず完結することを目標にしていますので、最後までよろしくお願いします!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ