魔獣戦争
その晩、大結界の見張りを騎士団に任せて、泥のように眠った。
朝になり、様子を見に行くと、すでに結界の内側は魔物でパンパンになっている。
小さい魔物ぐらいは結界に当たると消えてしまうんだけど、デーモンタウロスは身体強化を持っているせいか、弾き飛ばされても生きている。
ミシミシと音をたてて、大結界は今にも破裂しそうだ。
破裂したら、再び戦闘開始。
周辺各国から援軍が来ると聞いたけど、到着までなんとか持ちこたえないと。
昨日、なぜメテオが大爆発を起こしてしまったのか、その理由は後からわかった。
スキル欄に『グランメテオ』という新しいスキルが表示されたからだ。
このスキルは、ひとりで剣に魔力をためても、使えるようにならない。
3人とも魔力をためると、スキル名が点灯して、使えるようになる。
つまり、勇者が3人揃っていないと使えないスキルみたい。
昨晩みんなに、ここでできるだけレベル上げをしようという話をした。
いずれ、あの裂け目の向こう側に行かなくてはいけないなら、裂け目から出てくるザコぐらいは簡単に倒せるぐらいにならないといけない。
やっとこさデーモンタウロスを倒せるぐらいでは、魔神や魔王は多分倒せない。
全員訓練不足は感じていたので、ちょうどいい機会だということになった。
レベル上げのための魔獣が次々出てくる場所なんて、他にないし。
考えようによってはラッキーな状況ともいえる。
目的が決まったので、今の私たちに迷いはない。
出てくる魔物は、レベル上げのエサになってもらう。
そのことは、スワンソン先生もワルデック先生にも伝えた。
『もっと強くなるしかない』という私たちの考えに、先生たちは反対しなかった。
ついに大結界が音をたてて崩れ、魔物たちが一気に溢れ出てきた。
私の弱点は剣スキルが弱いこと。
物理攻撃しか効かないデーモンタウロスは、ちょうどいい練習台だ。
丸一日戦っていれば、かなりの経験値が稼げる。
ニコラくんの援護があれば、いかづちで麻痺させられるから、それほど怖くない。
全員、必死で戦った。
夜になって、再び魔獣の数が減ってきたところで、裂け目はまた大結界でふさいだ。
それから、ちょっと作戦を考えて、次元の裂け目からまっすぐに2、3メートルの深さの大きな溝をつくることになった。
スワンソン先生とニコラくんが土魔法でがんがん掘っていく。
敵が溝の中にいる限り、溝の上にいる騎士団の人たちは安全だ。
裂け目から離れたところまで追い込んだ魔獣は、溝の上からメテオでふっ飛ばせばいい。
弓が使える騎士の人が集められて、溝の両側に配置されることになった。
翌日から、戦いは少し楽になった。
デーモンタウロスは知能がそれほど高くない。
次元の裂け目を出たら、何も考えずに溝の中をまっすぐに進んでいく。
私とエヴァ先輩とクリス先輩は、裂け目からかなり離れた地点で待ち伏せして、交代でメテオを使った。
マルク達が前線で戦って、こっちに敵を送り込んでくれる。
問題は魔力切れだ。
メテオは今のところ3人とも2回ずつしか使えない。
魔力を使い果たしては、魔力回復ポーションを飲んで横になる。
回復したら交代する。その繰り返しだ。
1日にそれを何度もやっていると、魔力量の最大値はかなり増えていく。
魔王と戦うときに、私たち3人の魔力量が勝負に直結するから、今のうちに増やしていくしかない。
ほんのわずかに魔力が足りなくて、メテオを発動できないということもあるんだから。
それにしても、この魔力回復ポーションというのは、何度も飲んでいると魔力酔いする。
まるで二日酔いみたいになるので、状態異常耐性の腕輪が必須だ。
一日が終わる頃には、エヴァ先輩もクリス先輩も顔色が悪い。
数日たつと、敵も作戦を変えたのか、大量の骸骨騎士やスケルトンが出てくるようになった。
スケルトンは強くはないが、ふわふわ浮くので溝から上にバラバラと出ていってしまう。
次元の裂け目の近くで、火で焼き払う作戦に変わった。
倒しきれなかった骸骨騎士は、マルクやワルデック先生が倒して回る。
敵がデーモンタウロスだけだったときより、戦いにくい。
戦いが始まってから三ヶ月が経った。
バスティアンとリリト、マリアナから、約5000人の騎士が派遣されている。
私たちは来る日も来る日も、休むことなく最前線で戦った。
辛いとか考える余裕もなくて、ただひたすらステータスの数値が上がっていくのを見ながら戦った。
最初は2回で魔力が枯渇していたメテオも、10回ぐらい撃てるようになった。
デーモンタウロスも一撃で倒せるようになった。
騎士団の人たちもだんだんと戦いに慣れてきて、怪我人が出ることも少なくなった。
そんなある日のこと。
いつものように朝、大結界に向かうと、魔物がいなかった。
どういうことだろう。
次元の裂け目からは1体も出てこない。
これまで出てきた魔物はすべて倒したので、敵も作戦を変えたんだろうか。
それから2日たっても3日たっても、裂け目から魔物は出てこなかった。
私たちは、本当に久しぶりに身体を休めることができたけど。
「エヴァ先輩、どう思います?」
「なんだか、あっちに誘われてるような気がするよね」
「あれって、あっちに行ったら、戻ってこれるのかなあ」
魔獣が出たり入ったりしているのは見たことあるけど、私たちがむこうに行っても出てこれるんだろうか。
「実験してみてもいいかもしれませんね……今のうちに」
スワンソン先生が腕組みをして何かを考えているようだ。