レベルを上げたい
その晩は駐屯場で待機することになって、軽い食事をとって寝ることに。
騎士団が警備してくれているので、安心して寝られるのがうれしい。
エヴァ先輩を見つけたので、お互いに状況報告をした。
エヴァ先輩の予想では、私たちがセルディアで魔人を倒して金剛石を入手してくるのかと思っていたらしい。
でも、一応金剛石のかけらはもらって来れたので、今のところは結果オーライという感じだ。
実験してみて、金剛石がメテオを跳ね返さないことは伝えておいた。
「この先……どうなると思います?」
「いずれあの大結界は破られるような気がするけどね。それが今なのか数年後なのかはわからないけど」
「数十年後とかだったら、私たちもう戦えないですよね」
「そんなに先ではないだろうな。それだと、勇者が誕生した時期が間違ってたことになるし」
「……向こう側のこと、教えてもらえますか? ゲームの記憶」
「魔界、だろ。ルイちゃんは記憶ないの?」
「魔王の城みたいなところにラスボスがいた記憶はあるけど。すごく強くて、倒しても何度か復活してさらに強くなるんですよね?」
「そうそう。ラスボスってだいたい変身するよね」
「私、死ぬの嫌なんで、レベルカンストしたんです。それは覚えてます。そしたら倒せた」
「僕はそこまではやり込んでなかったなあ」
「この世界でも……カンストしたら確実に勝てるのかな」
「どこまでレベル上げたらカンストなのか、よくわかんないけどね」
そう。どこまで強くなれば勝てるのか、よくわからない。
でも、今じゃない気がする。
まだ、全然力が足りないような気がする。
だって、たとえばラスボスと一緒に4大魔神が出てきたとして。
私たちのひとりひとりが4大魔神に打撃を与えられるぐらい強くないと、絶対勝てないよね?
私はメテオは使えるけど、それ以外の攻撃力はそれほど強くない。
魔力切れ起こしたら、全然役立たずになってしまう。
「ねえ、先輩。この事件が片付いたら、レベル上げしませんか?」
「レベル上げ?」
「毎日毎日ウロウロして、モンスター倒しまくって、一年ぐらいひたすらレベル上げるんです」
「そうだなあ。ラスボスの前に一度はレベル上げ必要だよね。僕も死にたくないし」
「どこでやるのがいいと思います?」
「そりゃあ、ここじゃない? あの裂け目からいくらでも魔獣出てくるんだし。魔界にいる魔獣がある程度わかるだろうし」
「でも、あそこから4大魔神とか出てこないかな?」
「それはわからない。でも、魔王は出てこないんじゃないかな」
「どうして?」
「ストーリー的に、魔界の城でおとなしく僕らが来るのを待ってる気がするな。僕らが向こうへ行かないと、魔界を消滅させられないだろ?」
必ずしもゲームの通りに進むとは限らないけど、でも、今まである程度はエヴァ先輩の予想通りに進んでる。
だとしたら、ラスボスの前に少しレベル上げする時間があるといいんだけど。
もう少し、ちゃんと準備したい。
最後だけは絶対失敗できないから。
一発で誰も死なせず勝つために、レベルを上げたい。
「ルイちゃんたちがレベル上げをするなら、僕は騎士団に長期休暇を申請するよ。早めに知らせて」
「わかりました。私、今回の失敗で、やっぱり先輩とオーグストがいないとダメだってわかったんです。私たちのパーティーは分断していると勝てない」
「ソウルリーパーってそんなに強敵?」
「金剛石持ってるからメテオしか効かないです。物理攻撃が効くかどうかはわかんないですけど」
でも、今ニコラくんが金剛石で腕輪作ってくれてるから、あれができたらきっと勝てる。
装備品ももうちょっとレベルアップしたいなあ。
主に防御の方を。
「先輩、装備品の方は何か心当たりあります? 普通、『勇者の装備』とかあると思いません?」
「だよなあ。行ってない国にあるのかなあ。ちょっと調べてみるよ」
「お願いします! できることは何でもやってみましょう!」
エヴァ先輩はいつも優しい。
頼んだことは何でもやってくれる。
だけど、なんだか今日は少し元気がない気がする。
「僕はさ。この間ルイちゃんのドレス姿を見たときに、心の底から勇者辞めたいって思ったよ。これ、本音だけど」
「まあ……私もしょっちゅう逃げ出したいとは思ってますけど。勇者あるあるですよね」
そういえば、二日前まで学園祭だったっけ。
もう遠い昔のことみたいになってる。
先輩は、あの翌日にひとりでこっちに来たんだった。
「もう戦わなくていいよ、って言ってあげたいんだけど、残念ながら僕にはその力がなくて……ごめんね」
「何言ってるんですか! 先輩がいなかったら、私とっくに逃げてたかもです。きっとこんなの、ずっと続かないですよ。平和な世の中になったら、私、一生遊んで暮らすんです! だからもうちょっと頑張らないと」
「そうだなあ。とりあえずレベルカンストするか……」
「そうしましょう! レベル上げ、ここじゃなくてもいいじゃないですか。勇者の装備とか探しに行きましょうよ」
「それは、少し楽しいかもしれないな」
どうせレベル上げするなら、パーティーメンバーでどこか知らない国に行ってみるのもいいかもしれない。
なんたってSランクパーティーだから、どこの国でも行けるし!
落ち着いたら、調べてみよう。