再びオクラマ島へ
「ワルデック先生……私の判断はあれで良かったんでしょうか」
「ん? ああ、気にすることないぞ。俺が『やれ』と命令しなかったんだからな」
「でも、ソウルリーパーが……」
「オクラマ島で倒しきらなかったのがミスだったよなあ。まあ、また戦って倒せばいいだけのことだ」
オクラマ島の戦いで、部屋ごと燃やせと指示したのは、ワルデック先生だった。
そのことをちょっと後悔しているようだ。
でも、あの時倒していたとしても、別の魔人が来たよね。たぶん。
「こっちが全員生きてりゃ、それだけで上等だ。またチャンスはある」
クリス先輩が古竜様を呼ぶと、一緒に水神竜様が舞い降りてきた!
古竜様よりひとまわり小さく、青い竜だ。
「この者たちは、世界を守るために戦っておる勇者たちじゃ。ワシが加護を与えておる」
「勇者たちよ、私はこのホラス山脈を守る水神竜だ。竜王様の加護を持つ者はいつでも歓迎するぞ」
水神竜様は、声の感じから若者の竜みたいだ。
といっても、数百歳とかかもしれないけど。
「はじめまして、水神竜様! アナ王女様と一緒にこの国に来ました!」
「なんとまだ子どもではないですか。本当にこの者たちが魔神討伐を?」
「そう思うじゃろうが、なかなかの働きをしておるぞ。そこのクリストフは100年来のワシの親友じゃ」
「そうでしたか。では、お役に立つかわかりませんが、これを」
水神竜様は、翼の間から籠のようなものを口でくわえて、私たちの前に置いた。
「何ですか、これ?」
「金剛石のかけらじゃよ。お前たちが探しているというので、水神竜に聞いてみたのじゃが、今はこれしかないそうじゃ」
のぞいてみると、5ミリぐらいの小さな石がたくさん入っていた。
この大きさでも王女様が身に着けていたブレスレットの石と、そんなに変わらないかも。
「これならソウルリーパー対策になりますね」
ニコラくんがうれしそうだ。
そういえば、金剛石、ソウルリーパーの魔法攻撃跳ね返してたもんね。
錬金で腕輪、作ってくれるといいな。
古竜様、頼んだわけじゃないのに気が利くなあ。
「さて、ワシを呼んだということは、次はどこへ行くのじゃな?」
「リリトのオクラマ島までお願いします! 魔人が逃げたので!」
「それは急がねばならぬな。では、背に乗るがよい。水神竜よ、お前もたまには山から降りて世界を見るといいぞ」
「はい、一度は竜王様のお住まいに行かせてもらおうと思います」
「水神竜様! ありがとうございました!」
再び古竜様の背中にのって、超特急でオクラマ島に向かう。
もう二度とセルディアに来ることはないかもしれないけど。
王女様が幸せになりますように……
オクラマ島に着く頃には、すでに夕方になっていた。
状況は連絡してあったので、大結界周辺は騎士団が警戒している。
今のところ、目立った動きは起きていないようだ。
あのソウルリーパー、どこへ転移したんだろう。
「スワンソン先生、すみませんでした。私……」
「いいのですよ。全員無事だったのですから。どうせ奴らはここへ来るでしょうから、ここで迎え撃てば同じことです」
あのソウルリーパーは元々ゾルディアク教本部にいたから、オクラマ島の地形には詳しい。
それで、万が一に備えて、今オクラマ島全部を囲うように結界を張る準備をしているらしい。
そのために、マリアナ正教国から大神官8人がこちらへ向かっているという。
よくあの枢機卿が承諾したな、と思ったけど、バスティアンの国王が例の件をほのめかして脅したそうだ。
例の件というのは、枢機卿がバスティアンの勇者を犠牲にしようとした、というやつね。
大神官を送らないなら、今後魔神が復活したときにマリアナ正教国だけ見捨てる、と言ったみたい。
勇者がふたりいるから強気だな。国王陛下。
「あ、スワンソン先生。 私たち、金剛石のかけらっていうのを手に入れてきたんですけど」
「これは……素晴らしいですね。これだけあれば、かなり装備品が作れるでしょう」
「それで、私気になってることがあるんですけど。メテオで金剛石を本当に吹き飛ばせるのか、実験してみてもいいでしょうか?」
「ああ、そうですね。魔力の質が違うので、できるのではないかと推測していたのですが、試してみましょう」
もらってきた金剛石を一粒、少し離れたところに置いてメテオを放ってみた。
すると、音もなくすっと消えてしまった。
やっぱり、メテオは跳ね返さないみたいだ。
もう一粒置いて、スワンソン先生が色々な攻撃魔法を放ってみたが、それらは全部跳ね返す。
ただし、何度も実験していたらそのうちにくだけてしまった。
寿命があるみたい。
「致命的な攻撃魔法を一度でも弾いてくれるなら、装備する価値がありますね。デルビー、錬金をお願いしてもいいですか?」
「はい! 大丈夫です! 作れるだけ作っておきます」
元々ゾルディアクが使っていた施設のひとつが、今は騎士団の駐屯場になっているらしい。
ニコラくんは錬金に部屋が必要なので、そこへ行ってしまった。
私たちはオーグストの様子を見に、大結界へ向かう。
あの日、聖女様たちがたくさん死んだ石舞台だ。
思い出すだけで、気持ちが暗くなってくる。
相変わらず次元の裂け目からは、時々魔物が現れては、結界に接触して消えていく。
ただ、時々結界には触れずに、また裂け目の向こう側に戻っていく魔物もいるらしい。
ということは、次元の裂け目は一方通行ではないということだ。
出たり入ったりできるんだよね。たぶん。
それがわかっていると、少しだけ気が楽だ。
いずれ、私たちがあの向こう側へ行くことになるだろうから。
今は大結界があるから裂け目には近づけないけど、一度実験してみたいなあ。
例えば、首輪と紐をつけた動物を裂け目の向こう側に行かせて、戻ってこれるかどうか見てみたい。
でないと、あそこへ飛び込む勇気が出ないかも。