王家の秘宝
「レアナさん、ありがとうございました、剣をお返しします」
「よかったね! これが最後の敵だよね?」
「そのはずですが……」
王女様が現れた魔法陣に触れると、扉が音を立てて開いた。
かなり広い部屋の奥に、大きな宝箱のようなものが見えている。
王女様が箱を開けると、中には大きな金剛石がついた王冠があった。
「これがあるということは、お兄様たちはここへは来なかったのですね……」
「どこかに囚われているのかもしれん。とにかく、奴らが来る前に早く撤退だ」
ワルデック先生の指示で、急いで王冠を持って部屋を出ようとしたら、目の前に突然黒マントが現れた。
黒い大鎌を持った死霊だ。
やっぱり来たか。
「ほっほっほ、まさが王女が一番強いとは、予想外でしたね」
「何者だ!」
クリス先輩が前へ出て、ワルデック先生が王女様を隠す。
黒マントの目が赤く光ると、心臓がドクンと音を立てて、体から力が抜けていく。
「ソウルリーパーか……」
オクラマ島の本部にいたやつだ。
焼き払ったつもりだったけど、生きてたんだ。
急いで全員に回復魔法をかける。
王女様だけが、王冠を持っているので、攻撃を跳ね返したようだ。
「さて、死にたくなければ、王冠を渡してもらいましょうかね」
「お、お兄様は! お兄様をどこへやったのです!」
「ああ、先に来ていた王子ですか。それなら……」
黒マントが手をあげると、空中の魔法陣からドサッと人が落ちてきた。
「ゼノンお兄様‼」
「まだ、息があるようですねえ。王冠を渡せば助けてもいいですよ」
黒マントが大鎌の柄で背中をつつくと、かすかにうめき声をあげた。
生きてる。
「お兄様!」
王女様はワルデック先生の静止を振り切って、第二王子に駆け寄った。
王冠を奪い取る黒マント。
まあ別に王冠はいい。ここまでは想定内だから。
私は第二王子に回復魔法をかけて、剣に魔力を溜めた。
「ファウロスお兄様は? もうひとりここに来たはずです!」
「ああ、最初に来た人間は死にましたね、そういえば。素直に王冠を渡せばいいものを、愚かにも戦いを拒否したので、マンティコアに食われていましたよ」
「そんな……ファウロスお兄様が……」
クリス先輩に合図を出したいんだけど、クリス先輩は王女様に気をとられていて、全然こっちを見てくれない。
私がメテオをはずしてしまったときに、フォローしてほしいのに。
こんな時にエヴァ先輩がいてくれたら……
やるなら今しかない。
王冠ごと吹き飛ばす!
他のメンバーに合図を送って、剣を抜いたその時に。
「渡すものか! これは王家のものだ!」
第二王子が黒マントに飛びかかって、王冠の奪い合いになってしまった。
まずい、回復魔法かけたのが裏目に出た。
第二王子が邪魔で、メテオが撃てない。
「アナ王女様! 王冠は諦めて、王子をそいつから離してください! お願いします!」
私は剣をまっすぐ黒マントの方へ向けて、王女様に懇願した。
第二王子がいなければ、今すぐ吹っ飛ばすのに。
「お兄様! 王冠などもうよいのです! 逃げてください!」
「何を言う! 絶対に渡すものか!」
「お願いです! 離れなければ、私はあなたごとそいつを貫きます!」
「ルイーズさんっ! 待って! それだけは……」
「ほほう? 面白いことを言うな。この王冠を貫けると? やってみるがいい」
黒マントが王冠を抱えた第二王子の首をつかんで持ち上げた。
王子は首を閉められて、じたばたもがいている。
メテオはいつでも発動できる。
……でも、無理だ。
アナ王女様のお兄さんを犠牲にして吹き飛ばすなんて、私にはできない。
どうしよう。
「どうした? やらぬのなら、頂いていくぞ?」
黒マントの後ろに、魔法陣が浮かび上がる。
まずい。逃げられる。
ああ……オーグストがいれば。
黒マントが王子から手を離し、王冠を奪い取って魔法陣に飛び込もうとした瞬間。
「メテオ!」
間に合わない……
魔法陣に飛び込んだ黒マントを追うように、メテオの閃光は魔法陣に吸い込まれた。
ドサリ、と第二王子だけが地面に落ちた。
「お兄様‼」
「この不届き者! お前たちは何者だ! この私に剣を向けるとは!」
「お兄様、この方たちは助けに来てくれたのです!」
「こいつらのせいで、王冠が……王家の秘宝が……」
えーっと。私たちのせいなんでしょうか。
言わせてもらうなら、王冠を奪われたのも逃げられたのも、アナタのせいなんですけど!
「撤退だ! すぐにリリトへ向かうぞ。金剛石を持って行かれたから、あっちが危ない」
「ニコラくん、スワンソン先生に連絡を!」
ニコラくんが転移魔法陣の痕跡を消したので、ここはもう大丈夫。
王冠を持っていったので、もう戻ってくる用事はないだろうし。
「王女様、悪いがすぐに奴を追いかけないといけないので、自力で下山してほしい。ダンジョンの中の敵は片付けておく」
「はい。ワルデック先生にも、皆様にも、本当にお世話になりました。このご恩は決して忘れません」
「奴を追うというなら、私も行くぞ!」
「お兄様! お兄様が行って役に立つとは思えません! マンティコアすら倒せなかったのではないですか!」
王女様に痛いところをつかれて、第二王子はしゅんとしてしまった。
でも、倒せなかった方がよかったんだよ。
倒せてたら、今頃生きていない。
「ニコラ様……またいつか、お会いできるでしょうか」
「そうですね、僕たちが生きていたら、会えるかもしれません」
「ご武運をお祈りしています……」
ニコラくんは王女様に笑顔を見せなかった。
あそこで黒マントを取り逃がしたのは痛恨のミスだ。
みんな思うことは同じだけど、王女様が悪いわけじゃない。
それより、オーグストとエヴァ先輩たちが心配だ。
アナ王女様に短い別れを告げて、私たちはリリトへ飛ぶことになった。