王家のダンジョン
結局夜になってしまって、食事をしていったん休むことになった。
翌日、早朝に出発の準備をする。
スワンソン先生から連絡が入って、無事リリトへついたようだ。
エヴァ先輩とオーグストとバスティアンの第一騎士団、魔導士団がオクラマ島へ向かっている。
大結界はクレール神官とリリト騎士団が包囲しているが、今のところ無事らしい。
こっちで転移魔法陣跡を発見したことは知らせたので、向こうでもすぐに魔法陣捜索を始めるようだ。
「よし、出発するぞ」
セルディアの王宮で、登山靴を用意してくれた。
地面が凍っていて危ないというので、助かる。
防寒用のアンダーシャツも用意してくれたので、かなり寒さもマシだ。
勇者の加護持ちメンバーは氷結耐性を持っているので寒さに強いんだけど、クリス先輩やワルデック先生は寒そう。
山のふもとまでは馬車で移動して、登山口から徒歩で登る。
山の中腹あたりに王家の紋章が大きく見えていて、それを目指していけば道に迷うことはない。
王女様が『それほど攻略が難しいダンジョンではない』と言っていた通り、王家の男子にとっては行き慣れた場所のようだ。
もっとも、王女様にとっては初攻略になるんだけど。
ダンジョンの入り口に到着すると、立派な門が作られていて、その前に文字が刻まれた石碑が立てられている。
古代文字だとニコラくんが言った。
その前に立って、王女様が手をかざして封印を解くと、重そうな扉が音を立てて開いた。
「さて。お前ら、王女様のサポートをするんだぞ。いいな?」
訓練不足の王女様の練習のため、弱い敵は王女様に戦ってもらう。
王女様の話の通りなら、この中にいるザコは物理攻撃で倒せる魔物ばかりらしい。
最後にボスを倒せば秘宝にたどり着ける、という簡単なダンジョンだ。
秘宝を手にした者は王位を継承し、その後、また後継者に王位を譲るときに元の場所へ戻しに行く。
そのため、国王は体力があるうちに譲位しなければいけない。
中へ入ってみると、思ったより広い洞窟だ。
横幅も広く高い天井が続いている。
最初に出てきた魔獣は、スノーウルフ。
中型犬ぐらいの大きさで、真っ白に赤い目の狼系魔獣だ。
シルバーウルフの下位互換みたいな感じで、スキルもない。
このダンジョンにたどり着く前にも、道端で何度か見かけた。
「炎のブレス!」
王女様は片手剣を両手で重そうに持って、スキルを放つ。
一瞬でスノーウルフは黒焦げになり、王女様はホッとした表情になった。
火魔法が有効な敵なら問題ないよね。
ただ、この様子だと竜王剣スキルは使えないだろうなあ。
スノーラビットという真っ白な可愛いウサギ魔獣も出てきたりしたけど、無害そうなので放置して進む。
小さい角が2本あるけど、角ラビの下位互換みたいな感じだ。
1階の敵はそれだけみたい。
王女様が覚えてきた道筋の通り進むと、最奥に下へ降りる階段があった。
なんだか、バスティアンの試験ダンジョンを思い出す。
階段を降りると、スノウベアファングがいた。
バスティアンにいたベアファングより体は少し小さいけど、スキル持ちらしい。
2足で立ち上がると、口から吹雪を吐いてきた。
氷結耐性を持っている私たちが囮になって、王女様の炎のブレスで地道に倒してもらう。
口から吹雪を吐くので、顔を狙ってしまえば問題ない。
出てくる敵を見ると、王女様が何が何でも火魔法を使えるようになりたいと思った気持ちもわかる。
こんなダンジョンなら、そこそこの火魔法さえあれば誰でも攻略できそう。
しかし、地下3階に降りると、様相が変わった。
スケルトンがウロウロしている。
「聖十字剣!」
王女様が怯えた顔を見せたので、代わりに倒す。
スケルトンは別に強敵ではないけど、火魔法だけで倒すのは時間がかかって面倒だ。
オーグストがいないので、群れで来られるとちょっとやっかい。
「ルイーズ殿、その聖十字剣というのは、私でも使えるのだろうか?」
「使えますよ! 聖騎士のスキルです」
「では……聖十字剣! こんな感じだろうか」
おお。初めてなのに、2体同時攻撃!
さすがクリス先輩。
私は久しぶりに使ったので、1体を倒すのがやっとこさな感じ。
「このような骸骨が出るという話は聞いたことがありません……」
「だとすると、この奥に奴らがいるかもね。ニコラくん索敵はどう?」
「魔力の強いやつが奥に1体いるみたいですが、それほど強いというわけでもなさそうですよ」
「スケルトンが湧いてきてる場所はわかる?」
「多分この先の分かれ道の右方向です。そっちが圧倒的に数が多そうなので」
王女様によると、目的の方向は分かれ道を左。
マルクやワルデック先生が一撃で頭を叩きつぶして、胴体だけでウロウロしているやつは放置して進む。
次々湧いてくるやつは倒してもキリがないし、先を急いだ方がいい。
途中で骸骨騎士が出てきたが、マルクとクリス先輩が軽く倒した。
最奥部にたどりつくと、大きな扉の部屋があって、壁に魔法陣が描かれている。
「ここですね……試練の場所は」
王女様が魔法陣に触れると、どこからともなく声が聞こえてきた。
「名を名乗れ。王家の血筋を引く者よ」
「私はセルディア王国第一王女、アナスタシア・ミラ・セルディア」
「この先に進みたくば、我と戦って鍵を手にせよ」
人間とライオンをかけ合わせたような魔獣が現れた。
マンティコアだ。
圧倒的な威圧感に、王女様は手が震えている。
王女様に身体強化と炎耐性をかけておく。
「他の者は下がれ。手出しをすればやり直しだ」
「王女様、私の短剣を! 火魔法強化してます、爆裂剣も使えるし」
「ありがとう、レアナさん」
王女様は素直にレアナの短剣を受け取った。
そして、まっすぐに短剣をマンティコアに向ける。
「炎のブレス!」
レアナの短剣からは、いつもの王女様の倍ぐらいの炎が出た。
緋色の宝珠の効果だ。
マンティコアはじりじりと後ずさっているが、ダメージは大きくない。
「大丈夫! 効いてるよ! 壁際に追い詰めて!」
「焼き尽くせ!」
マンティコアは壁際まで追い詰められると、咆哮をあげて王女様に飛びかかった。
「危ないっ!」
「爆裂剣っ!」
王女様の捨て身の爆裂剣が、マンティコアの顔面を直撃した。
爆竹が弾けるような音がして、マンティコアがのけぞった!
目をつぶしたらしい!
「いける! 焼いてしまえ!」
「炎のブレス!」
目が見えなくなってしまえば、こっちのものだ。
王女様は回り込むように動き回りながら、炎の攻撃でマンティコアの体を焼き始めた。
たてがみが燃え上がり、倒れたマンティコアに短剣でとどめを刺す。
「やったー! 王女様! 勝った!」
「力を示した者よ。鍵を受け取るがよい」
倒れたマンティコアが消えて、部屋の入り口に魔法陣が浮かび上がった。