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舞踏会

 ついに学園祭も最終日。

 楽しいことって、本当にあっという間に過ぎてしまうんだなあ。

 午前中は昨晩ニコラくんが必死で作ってくれた、カード販売。

 噂を聞いた人たちがさらにたくさん押し寄せてしまって、2時間ほどで完売してしまった。

 そして、ついに学園の購買部が、学園祭が終わった後も販売させてほしいと言ってきた。

 父兄や別の学園から問い合わせが相次いでいるらしい。

 王女様はダメだけど、私たち6人のは好きにしてくれていい、ということにした。

 サインはしないけどね。


 学園生は学生寮が隣にあるから、いったん寮に戻って着替えてから、団体で王宮へ向かう。

 私たちもクランハウスに戻って、王宮に向かうことにした。

 今日はドレスを着ていくので、さすがに馬車で行くことになっていて、ニコラくんが実家の馬車を回してくれた。


「うわあ、レアのドレス可愛い! やっぱり赤いのが似合うよねえ」

「うん、マルクも赤いのが似合うって言ったんだ!」


 ふーん。

 マルクがねえ。

 ドレスに興味のありそうな人じゃないのになー。


 私は色々迷ったけど、ラベンダー色のシンプルなドレスにした。

 アクセサリーは、ずっと前に骨董屋さんでニコラくんが見つけてくれた、碧玉のネックレス。

 いつも身に付けているアクセサリーじゃないと、なんとなく落ち着かなくて。


「おう! レアナ、準備できたか?」

「うん、どう? 似合う?」

「お、おう……似合うぞ」


 ひらり、と回ってみせたレアナを見て、マルクはちょっと赤くなって固まっている。

 マルクは服装を考えるのが面倒くさいとか言って、騎士服だ。


「ルイーズさんも、よく似合ってます。キレイですよ」


 ニコラくんがまたエヴァ先輩みたいな笑顔を張り付けている。

 お世辞なんて言わなくていいのに。

 今日のニコラくんは貴族様風のスーツ。

 やっぱり育ちがいいからか、似合ってるなあ。

 

「ニコラくんは、王子様みたいだよ!」

「そ、そんなことは……い、行きますよ!」


 ニコラくん、赤くなってそっぽを向きながら、エスコートの手を差し出してくれた。

 うふふふふ。

 女子として扱われる、この快感!

 やみつきになりそう。


「あ、そうだ。忘れるところでした。これを」


 ニコラくんがポケットから小さな箱を取り出した。

 開けてみると、シルバーに青い宝石がついた、ゴージャスなネックレスだ。

 ピアスもセットになってる。

 でも、なんで?


「私、前にもらったネックレス、気に入ってるからよかったのに」

「そう言うと思ったんですけど、今日はルイーズさんが主役なので、そのぐらいの宝石をと」

「ニコラくんが買ったの?」

「……すみません。父上の宝石商に押し付けられました。気にせずもらっといてください。今日のドレスに合うと思います」


 もごもごとバツが悪そうなニコラくん。

 なんかヘンだと思ったら、あの強烈な父上のさしがねだったのか。

 結構高級そうな宝石みたいなんだけど、身に付けてみると確かにドレスにすごく似合う。


「ありがとう。ニコラくん。今日は虫除け頑張るねっ」

「なんですか? その虫除けって」

「なんでもないの。気にしないで」


 思い出したけど、私はニコラくんの虫除けだもん。

 ちょっとぐらい頑張って貴族女子っぽい雰囲気出した方がいいよね。

 

 馬車のところに行ってみると、オーグストは高位神官の衣装を着ている。

 なんでそんな服装なのかと聞いたら、ダンスに誘われるのが面倒くさいからだって。

 たしかに、この服装は神々し過ぎて、誘いにくいかも。

 クリス先輩は、エヴァ先輩に借りたという、黒のスーツ姿だ。


 王宮に到着して、案内係の人にぞろぞろついていくと、会場にはすでに生徒たちが到着していた。


「Sクラス6名様、ご到着でございます!」


 入り口で紹介されると、ざざーっと生徒たちがよけて、道ができてしまった。

 ひええ。

 もっと早く来ておけばよかった。

 カード売りまくったから、もう顔も覚えられてるだろうなあ。


「本年度は、マリアナ正教国から留学生を迎えております。Sクラス、クリストフ様!」


 わっと歓声があがって、クリス先輩が片手を上げて挨拶をした。

 礼儀作法とか全然無視だけど、クリス先輩って不思議と様になってるんだよなあ。


「そして、もうひとり。北の国セルディア王国より、アナスタシア王女殿下!」


 壇上にまばゆいばかりの美しいドレスに身を包んで、王女様が登場した。

 誰がエスコートしてるのかと思ったら、これまたキラッキラ王子様バージョンのエヴァ先輩だ!

 この国の独身男性で一番高位の貴族が、エヴァ先輩ってことか。

 今更だけど、すっごく遠い人のように思えてきた。


 そして舞踏会は始まった。

 まずは身分の高い人から踊るのが通例みたいで、エヴァ先輩と王女様が中央で踊った。

 もう、なんて絵になるふたりなんだろう。

 みんな見とれていて、静まり返っている。

 あんな人たちの横で踊る勇気なんてないよね。誰も。


 1曲目が終わって、一般の人もパートナーとフロアに出る。

 私はそんなに踊る気もなかったので、レアナたちと飲み物でも……と思ったら。

 王女様がエヴァ先輩のエスコートで、まっすぐにこちらにやってくるのが見えた。


「ニコラ様! どうか、私と……」


 え?

 ニコラくん、いきなり王女様に誘われちゃった。

 周りの人も驚いて、ふたりに注目している。

 いやいや、いくら私が虫除けでも、これに割って入る勇気はない。


「光栄です、王女殿下」


 ニコラくんは、あの嘘くさい笑顔をばっちりと貼り付けて、王女様の手をとった。

 さすがに王女様に恥をかかせるわけにはいかないよね。


「じゃあ、ルイちゃんは僕と踊ろう」

「エヴァ先輩……」


 周囲の女子の目が怖い。

 キラキラエヴァ先輩のダンスの相手が、王女様の次に私って、どんな拷問だ。

 頑張ってお洒落してきたつもりだったけど、自分が酷く地味に思えるよ。


「先輩は元日本人なのに、どうしてこんなに自然に貴族として振る舞えるんですか?」

「うーん、僕は確かに前世の記憶があるけど、今の人生も十分長く生きてるからね。ルイちゃんだってそうだろ?」

「それはそうなんですけど……」


 そう言われてみれば、エヴァ先輩に出会うまで、私は前世の記憶なんてほとんど忘れかけてた。

 先輩に日本の話をたくさん聞いたから、記憶が補完されてるだけだ。

 でも、なんでだろう。

 ダメダメだった前世の劣等感みたいなものが、いまだにふっと出てくる。

 こんな風にドレスを着て踊っている自分が、どこか自分じゃないみたいで。


 

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