大盛況
学園祭二日目に異変が起きた。
朝、準備をしていると、教室の外がガヤガヤしている。
何だろうと思って見に行ったら、行列ができていた。
どうやら、一日目に演劇やら合唱やらで来れなかった生徒たちが、詰めかけたようだ。
あわてて在庫を全部並べる。
開店の合図とともに、生徒たちがなだれ込んできた。
何が目当てかと思ったら、解毒ブレスレットと、ブロマイドだった。
解毒ブレスレットは、親から頼まれたとかいう人が多くて、5本10本と買っていく。
この調子だったら、あっという間に売り切れだ。
「クリストフ様とルイーズさんを!」
「俺は剣豪マルクさんを買う!」
「レアナちゃんのも、かわいいよなあ」
「早く買わないとオーグスト様がなくなってしまうわ!」
奪い合うようにカードを買いに来ている人たち。
なんだろう、この騒ぎは。
行列は途切れることなく、人が増えていく。
仕方ないので、マルクが外へ出て、行列を整理し始めた。
「あの、ここに『ジャン様へ』って書いてくれませんか?」
「あ、お前だけずるいぞ! 俺も書いてください。ピエールです!」
名前を書いてあげると、その男子生徒は嬉しそうにカードを学生証入れにしまった。
話を聞いてみると、学生証入れにSクラスのメンバーのカードを入れると、ステイタスが上がるという都市伝説が広がってしまったようだ。
昨日まで全然売れていなかったマルクのカードが、急に売れだした。
男子生徒が目指すのはマルク、ということか。
魔力がない人だと、マルクは目指しやすいかもね。
みんなが名前を書いて欲しがるので、サイン会みたいになってしまった。
ドリンクコーナーを一時閉鎖して、全員並んで必死で名前を書いてカードを売った。
で、握手して帰ってもらう。
思っていたよりSクラスって人気あったんだなあ。
普段、食堂とかにいても誰も近寄ってこないから、気付いてなかったけど。
「ええっ、もう売り切れちゃったんですかあ? ショック」
「友達にもたくさん頼まれてたのに……」
「ごめんなさいね。午前中にすごくたくさん人が来たので」
カードを買いにくる人が後を絶たないので、教室の入り口に『カード売り切れました』と貼り出した。
解毒ブレスレットもあっと言う間に売れてしまったし、スカーフや巾着も残り少ない。
ドリンクもみんな買っていくので、作っても作っても間に合わない。
ニコラくんも王女様も、かなりお疲れの様子。
「ねえ、もう今日は閉店して、他のクラス見に行かない? 売るものないし」
「だよなあ。ちょっとぐらい他も見に行きてえしな?」
このままだと、学園祭を全然見ないで終わってしまうので、早めに閉店することにした。
明日、最終日は朝からカードだけ売ることにして、それは今晩作ることに。
教室の外に『本日品切れのため閉店します。明日午前中カード売ります』と貼っておいた。
やっと他のクラスを見にいける!
中庭には生徒たちが出店している屋台や、王都の店が出張してきた屋台が並んでいる。
男子たちには、角ラビの串焼きが人気だ。
「アナ王女様。あのお店、王都で有名なカフェなんですよ! ケーキ食べませんか?」
「それはうれしいですわ。少し疲れてしまったので、いただきましょう」
レアナとたまに行ってたカフェが出店していたので、ケーキを食べることにした。
王女様は、普段屋台で買い食いすることなんかないよね。
留学の思い出になったらいいな。
紙のお皿に入れてもらって、ベンチに座る。
ハーブティーを買ってきたら、王女様が薔薇の氷を入れてくれた!
「私は学園でこのような体験ができるとは思っていませんでした。留学して本当によかったです」
「セルディアでは学園に通ったりしてなかったんですか?」
「王族は家庭教師がついていますので、王宮から出ることはほとんどありません」
セルディアの王女様は、本当に箱入りみたいだ。
こんな遠い国にひとりで来るなんて、勇気が要っただろうなと思う。
楽しそうにカフェのお手伝いをしてくれていたけど、心の中ではお兄さんの失踪が気になってるだろうな。
「あまりいつまでも皆さんにご迷惑をおかけしていてはいけないと思うのですが……その、楽しくて帰りたくないと思ってしまって。私には、早く帰ってやらなければいけないことがありますのに」
「ぜんっぜん、迷惑なんかじゃないよね! ルイ!」
「うんうん。楽しむときは楽しまないと! 私たちだって、いつ死ぬかわからないんですもん。今のうちにめいっぱい遊びましょう!」
「いつ死ぬかわからない……?」
「だって、ねえ? 私たちまた魔神が出たら戦わないといけないとだしぃ」
「Sクラスはみんな、国から魔神討伐依頼が出るので、遊んでいられるのも今のうちなんです」
「そうでしたか……皆さんのことが少しうらやましいと思っていた自分が恥ずかしいです」
「学園祭が終わったら、また頑張って一緒に訓練しましょう!」
それから私たちは、王女様と一緒に回れるだけ見て回った。
女子が少ないので、女子向けのお店は少ないんだけど、それでも王女様にとってはめずらしいものがたくさんあったみたい。
魔導士科の上級生が、『選択のコイン』というのを売っていたので、私たちはそれをいくつか買った。
先輩たちの自信作で、迷ったときに投げると、表裏で正しい選択肢を教えてくれるらしい。
どういう魔法がかかってるのかわからないんだけど、本心で強く願っている方の選択肢が出るんだそうだ。
今は特に悩みとかないけど、大事にしまっておこうと思う。