道具屋カフェ開店!
「ルイーズ先輩! おはようございます!」
待ち構えていたように、朝一番にやってきたのはアリスちゃんだ。
後ろに、聖女様らしき友達が10人ほどついてきている。
新学期が始まった頃は騎士科でひとりぼっちだと言ってたけど、最近聖女様たちと仲良くなったみたい。
「約束通り、カード買いにきました。お小遣い全部持ってきたんです!」
アリスちゃんは、他のものにまったく目を向けずに、まっすぐカードのテーブルに行った。
目を輝かせて1枚ずつ手に取っている。
「みんな格好いいですう! 全部買います!」
「え、全部買うの? 14000ダルだよ?」
「もちろんです! 今日のためにお昼ごはん抜いてお金貯めてました」
「ありがとう! アリスちゃんがお客様第1号だよ!」
このためにお昼ご飯抜くなんて……
なんかサービスしてあげないと申し訳ないので、こっそり解毒ブレスレットを1本あげることにした。
うしろで様子を見ていた聖女様たちも、いっせいにカードに手を伸ばし始めた。
「オーグスト様が2枚あるわ!」
「私もオーグスト様を!」
みんなオーグスト狙いだった。
オーグストのカードの山だけ、ごっそり減ってしまった。
一番最後におずおずとカードを手にした女の子だけは、ニコラくんのカードを買った。
やっぱり魔導士科の人って、魔導士に憧れるんだろうなあ。
アリスちゃんたちの団体は、ふたつのテーブルに分かれて、お茶も注文してくれた。
ひとりを除いて全員王女様の薔薇の氷で注文だ。
やっぱり女子だよね、みんな目をキラキラさせて喜んでいる。
最後のひとりだけは、ニコラくんのハート型を注文していて、なんだか可愛い。
オーグストがカードを買ってくれたお礼を言いにテーブルに近寄ると、女子たちはキャーキャー騒ぎ始めた。
青春だよねえ……と遠い目で眺めてしまう。
推しがいるってうらやましい。
なかなか次のお客さんが来ないな、と思っていたら、遠慮がちに男子生徒がひとり入ってきた。
女子でにぎわってるから、男子が入りにくいのかな?
「あ、あの。Sクラスのカード、売ってるって聞いたから」
「こっちにありますよ! 誰のやつですか?」
「クリストフ様……とルイーズ先輩」
「え? 私も?」
「母さんが、勇者様を見たいって言うから」
「あ、お母さんにプレゼントするんだ」
一瞬、私にも男子生徒のファンができたかと思ったけど、勘違いだった。
でも、こういうパターンってうれしいな。
男子生徒は、クリス先輩と私のカードを1枚ずつ選んだ。
剣で戦ってるやつ。
「お母さん、名前なんていうの?」
「ポーラだけど、名前聞いてどうするの?」
私はサインの上に、ペンで『ポーラさんへ』と付け足した。
なんか、前世で本の著者にサインしてもらった時に、こうやって名前書いてもらったの思い出して。
男子生徒はめちゃくちゃ喜んで、クリス先輩に握手してもらって帰っていった。
わざわざカードだけ買いにきたんだね。
これ、意外と売れるのかも。
しばらくはそんな感じで、ポツポツと売ってるものを見に来る人がいたけど、1人で暇だからっていう感じの人が多かった。
売っているものの中でカードが一番安いからか、記念に買っていく人もいる。
オーグストが最初に勇者グッズを売ろうって言い出しただけあって、クリス先輩のカードの売れ行きがいい。
まあ、私たちとは知名度が全然違うもんね。
歴史上の人物だし、ほとんどの国民が知ってる。
クリス先輩は、売上に貢献しているのがうれしいようだ。
買ってくれた人とニコニコ握手をしている。
お昼ぐらいになって、レアナとマルクのご両親が差し入れを持ってきてくれた。
先日のパーティーで仲良くなったみたい。
レアナのお母さんは、私たちがつくったマジカル巾着ポーチをすごく気に入ってくれて、たくさん作ったら店で買い取ってくれると言う。
レアナの実家は野菜を売ってるお店だけど、雑貨も売れるらしい。
オーダーまでもらってしまった。
卒業後はそういう仕事をするのもいいかもしれないなあ。
午後になると、演劇などの出し物が終わったようで、だんだん人が増えてきた。
カフェの方は常に満席に近いぐらいだ。
王女様が大変そうだけど、嫌な顔ひとつせずに薔薇の氷を作ってくれている。
と、そこへ、見覚えのある女子が3人でやってきた。
サンドラお嬢様だ。
「ルイーズさん、お久しぶりね」
「はい、サンドラ様もお元気そうで」
声をかけられてしまったので、軽く挨拶をする。
後ろの女子2人は、たぶん魔導士科の聖女様だ。
「セルディアの王女殿下にご挨拶を、と思いましたのよ」
「アナ王女様なら、あちらでドリンクを作ってます。薔薇の氷を作るのがお得意なんですよ」
「あら、王女様がそのようなことを?」
サンドラ様たちは、少し驚いたような顔をして、ドリンクコーナーへ行ってしまった。
なんだか仰々しいご挨拶をしていたけど、王女様は軽く相手をしているようだ。
セルディアのスカーフを売っていると聞いたのか、戻ってきて全員スカーフと王女様カードを買っていった。
さすが貴族様たち。
王女様からじきじきに紹介されたら、買うしかないよね。
「ブレスレット、案外売れないねえ」
「可愛いのにね。もしかしたら、宣伝が足りないのかも?」
「ちょっと、廊下で宣伝してみる?」
よく、お店の外にワゴンセールを並べて、お客さんを呼び込んだりするよね。
あれをやってみよう。
レアナとふたりで、入り口の横にテーブルを置いて、解毒ブレスレットを売ってみることにした。
「これは何?」
「解毒のブレスレットです! どんな毒でも解毒します。二日酔いにもバッチリ!」
「そうなの? じゃあ、買っていくわ。2本」
「ありがとうございまーす!」
二日酔いに効く、という言葉で、知らない父兄が買ってくれた。
そして、急にわらわらと人が集まってきた。
「これは、どうやって作ってるの?」
「Sクラスの大賢者が錬金で作りました! ここでしか買えませんよ!」
「えっ、じゃあ買う! 5本買うよ!」
「俺も買う!」
ふっふっふ。
大賢者の錬金、と言っただけで、あっという間に完売した。
やっぱり宣伝が足りなかったんだ。
ブレスレットを買った人は、ついでに中に入って他のものも買ってくれた。
セルディアのスカーフとハンカチは大人に人気だ。
学園祭一日目、終わってみたら、予想よりも結構よく売れた。
カードの方も、用意していた半分ぐらいは売れたので、帰ってからニコラくんが追加を作ってくれた。
明日は少し他のクラスを見に行く時間があるといいな。