水神竜様
学園祭の準備も順調に進み、数日たったある日。
めずらしく、アナ王女様が私たちと一緒に訓練に参加すると言う。
「火魔法を実際に戦いで使っている人を見た方がいいと、ニコラ様がおっしゃるので」
なるほどね。
戦いで火魔法を使ってるのは、主にレアナだけど、私やクリス先輩も一応使える。
ルディアの剣があるからだけど。
そういえば、特殊だけどオーグストも煉獄の炎使えるよね。
それで、スワンソン先生に許可を貰って、魔導士科が使っている訓練場を借りることにした。
「ファイヤーボム!」
レアナは控えめにやってるつもりだけど、レアナのボムは直径が1メートル級だ。
爆発するときの破壊力も、初期の頃から比べると桁違いに大きくなってる。
「まあ! こんなに大きな火の玉は、お兄様でも出せません。レアナさんは体が小さいのに、魔力量が多いのですね」
「魔力量は、毎日戦ってたら自然と増えるよ。毎日魔力をからっぽにして寝ると、次の日にちょっと増えてる」
「そうなのですね。知りませんでした。私も今日からそうしてみようと思います」
私とクリス先輩も、剣から炎を出すスキルを持っているので、実演して見せた。
まあ、パーティーにレアナがいると、ほとんど使う機会はないけど。
王女様にとって元々火属性が得意なレアナの火魔法は参考にならなかったようで、私やクリス先輩の方に興味を示した。
「ルイーズさんは、元々火魔法は得意ではないとおっしゃっていましたよね? 剣を使わなければ、どの程度の火が出せるのでしょうか」
「私は手から火を出すのが全然得意じゃなくて、このぐらい」
手のひらから直径15cmぐらいの火を出してみる。
クリス先輩も似たようなものだ。
「では、なぜ剣を使うとあのような大きな炎を出すことができるのですか?」
「それは、私とクリス先輩の剣は、古竜様の加護をもらってるからなんだけど」
「古竜様というのは?」
「マリアナ正教国のバルディア山というところに、古竜様が住んでるんです。私たちはそこへ行ったときに、全員加護をもらったんだけど、それが火魔法だったんです」
「そうなのですね……私の水魔法のようなものでしたか。私もセルディアに住む水神竜様の加護を頂いているのです」
話を聞いてみると、セルディアの王家のダンジョンがある山には、水神竜様という竜が住んでいるらしい。
その竜が王家のダンジョンを守っているんだそうだ。
王女様の2人の兄は火属性だったため、王女様だけが水神竜様の加護をもらったとのこと。
「アナ姫様も、古竜殿の加護をもらえばいいのではないか?」
「水神竜様は水の神。火の神である古竜様とは相反する性質です。両方の加護を受けると、打ち消し合ってしまうのではないでしょうか」
「なるほど、そういうものなのか」
「でも……厳密に言えば、これ、古竜様の加護っていうより、ルディアの剣にかかっている加護だよね?」
「そうであるな。我らはこの剣がなければ、火魔法を使うことはできぬからな」
「それはどういうことでしょうか?」
「この剣をつくるときに、古竜様の名前を頂いて作ったので、剣に加護がついてるんです。なので、この剣を手放すと、私たちは火のスキルを使えないんです」
「つまり、その剣を使えば、私でも強力な火魔法が使えるのでしょうか?」
「理屈でいえばそうなんだけど……この剣、貸してあげることができないんです。その、勇者以外が使うと危ないので」
「それなら古竜殿に頼んで、姫様の剣をつくってもらえばいいのではないか?」
「そんなことができるのですか? バルディア山というのは、遠いのでしょうか?」
「私が呼べば、古竜殿はすぐに飛んできてくれるぞ」
「いやいや、クリス先輩ちょっと待って! いきなり古竜様が学園に飛んできたら、大騒ぎになっちゃう!」
王女様がどうしても古竜様に会ってみたいというので、スワンソン先生に相談しに行った。
そして、なるべく目立たないように、ポルトの森あたりに降りてもらうように、と許可をもらった。
王国騎士団の方には一応連絡しておいてくれるらしい。
そして、全員でポルトの森に向かった。
「おお、皆元気じゃったか。して、今日は何用じゃ? またどこかへ飛んでいきたくなったか?」
「古竜殿! お呼びたてして申し訳ありませぬ。 実は古竜殿にどうしても会いたいと申すものがいまして」
「ふむ、見慣れぬ顔は……お前じゃな?」
「はい。私はセルディア王国第一王女、アナスタシア・ミラ・セルディアと申します。古竜様にご無理を申しましたこと、お詫び申し上げます」
「セルディア王国とな。それはまた遠いところから来たものじゃのう。氷の大陸と呼ばれているところじゃな」
「その通りでございます。訳あって、この国の学園に留学しております」
私たちは皆で王女様の状況を古竜様に話した。
セルディア王国の国王が病気で、第一王子が行方不明になったこと。
探しに行くにはホラス山脈にある王家の洞窟に行かないといけないこと。
王女様は火魔法が使えず、洞窟の魔物と戦えないこと。
「ふむ。事情はわかったが、お前はワシの加護が欲しいと言うのか? 見たところ、すでに水属性の加護を持っているように思うが」
「はい。私は水神竜様の加護を賜っております」
「なんと! 水神竜……生きておったか。あやつは山から降りんでのう。長く会ったことはないが」
「はい。我がセルディアの守り竜となっておられます」
「なるほどのう。そういうことであれば、やはりワシが加護を授けることはできんのう。水神竜に失礼じゃからな」
古竜様が加護を授けると、やっぱり水属性の加護は消えてしまうということだった。
古竜様は最古の竜なため、加護の強さも最上級だそうだ。
そういえば竜王だもんね。