剣の訓練をした
午後からの実技訓練、3つのグループができてしまった。
ニコラくんとレアナと王女様の魔導士チーム。
私とクリス先輩の勇者チーム。
マルクとオーグストの騎士チームだ。
王女様のチームはスワンソン先生が担当していて、マルクはワルデック先生の愛弟子になりつつある。
ここで中途半端に宙に浮いている状態なのが、クリス先輩と私だ。
ふたりで剣の稽古をしても、私では全然歯が立たないので、クリス先輩の訓練にならないしなあ。
そんなわけで、マルクたちと一緒にAクラスの訓練に参加してみることにした。
考えたら、勇者パーティーになってから、きちんとした訓練なんてほとんどしたことがなかった。
クリス先輩はワルデック先生に体術を習いたいらしく、喜んでいる。
4人で運動場の方へ行こうとしていると、レアナが追いかけてきた。
「みんなAクラスに行っちゃうの?」
「うん、私じゃクリス先輩の訓練相手になれないから」
「私も行く!」
「王女様の面倒見なくていいの?」
「うん、今日はスワンソン先生がいるし。それに私、ニコちゃんの説明聞いてても、ちんぷんかんぷんでつまんない」
レアナは魔導士寄りの訓練が退屈なようだ。
体を動かすタイプなので、複雑な魔法には興味ないみたい。
ちらりと王女様の方を見ると、レアナが抜けてこっちに来たことなど、全然気にしていないようだ。
スワンソン先生とニコラくんと何か話し込んでいる様子。
「誰か女子が側にいなくてもいいの?」
「大丈夫だよ。ニコちゃんって男子っぽくないから、王女様も仲良くしてるよ」
そういえば、私が錬金のゼミに出たときも、教えてくれたのはニコラくんだったっけ。
出会った頃のニコラくんは、戦ったこともなくて、走れないのを悩んでいて。
ワルデック先生に『もやし』って言われちゃうような、ひ弱な少年だった。
でも、今のニコラくんは違う。
体も鍛えてるし、背も伸びたし、十分男らしくなったよね。
元々顔は美形だから、王女様の隣にいても絵になる感じ。
レアナとマルクとクリス先輩は体術に行ってしまったので、私はオーグストと一緒に剣の訓練に加わった。
サンドラお嬢様や、久しぶりのAクラスの生徒たちがいる。
と言っても、遠巻きに私とオーグストを見ているだけで、近寄ってはこないけど。
オーグストは元々魔導士科Bだったから、面識ないしね。
オーグストと対戦してみると、やっぱり剣術が好きなだけあって強い。
私の剣など軽々とかわしてしまう。
時々感じる周囲の視線が気になるなあ。
ヒソヒソと何か噂されてるみたい。
「あーあ。私なんてどこが勇者なんだとか言われてるのかなあ」
「なんだよ。人の言うことなんか気にしなくていいだろ」
「でもさあ。勇者っていうと、クリス先輩みたいな人のイメージでしょ。オーグストだって憧れてたぐらいだし」
「そりゃまあ、クリストフ様は別格だけど……お前のことだってちょっと尊敬してるぞ」
「たとえばどんなところ?」
「俺たちがマリアナへ行けて上級職になれたのって、ほとんどお前がいたからだろ? お前がどこかで諦めてたら、今の俺たちはいなかったんだからさ」
「でも、いざこうやってメンバーで訓練してると、私が一番弱い……」
「何言ってんのさ。魔神倒したのルイーズじゃん。あのへんにいる奴らは、そういうの知らないだけだよ」
まあ、メテオとかいかづちなんて、危なくて校内で使えないしね。
そういえば先生とメンバー以外には見せたことなかった。
「こっちこいよ。スキルの練習しようぜ。俺、最近剣スキル覚えたんだ」
「わ! よかったね! オーグストずっと剣スキル欲しがってたもんね」
「クリティカルっていう地味なスキルなんだけどさ。でも決まったら攻撃力1.5倍になるんだぜ」
「オーグストが覚えられたってことは、私でもできるのかな?」
「ルイーズはそんなの覚えなくても、最強の剣スキル持ってるじゃん。竜王剣とかいうやつ。あれ、練習しろよ」
そうだった。
私にも剣スキルあるんだった。
あんまり使ったことないから、忘れかけてたよ。
「竜王剣!」
的に向かって、思い切り助走をつけて斬り付けてみる。
首を狙って、上下は頭と心臓だっけ。
ちょっとズレたかもしれないけど、人形型の的に深い傷跡が入った。
「うわー、エグい破壊力。俺絶対そんなやつ相手したくない」
「そうかな」
「剣筋が3本あるんだぜ? どうやってよけるのさ」
側で練習していたAクラスの人が、ざわざわし出して、一斉にこっちを見てる。
「な? みんなルイーズの実力知らないだけなんだよ。ちょっと見せてやればナメられたりしないぜ」
「うん。そうだね。ちょっと真面目に練習しよっと」
剣スキルの練習をしていると、クリス先輩がニコニコしながら近寄ってきた。
「ルイーズ殿は、竜王剣を鍛えているのだな?」
「そうなんです。あんまり剣で戦ったことないから……よかったらクリス先輩、お手本見せてくれませんか?」
剣を抜いて構えるクリス先輩は、威厳があってかっこいい。
元が武士だからか、ちょっと普通の人とは構え方や動きが違う。
次の瞬間、助走も予備動作もなく、ザっと斜めに振り上げるように竜王剣を放つ。
人形の的はバラバラに切断されて吹っ飛んだ。
威力が違いすぎる……
Aクラスの人たちから、わっと歓声と拍手があがった。
「おっと。手加減したつもりが、的を壊してしまった。申し訳ない」
「クリス先輩、すごいです! 私もそんな風になれるように、教えてください!」
「お、俺も教えてください!」
そうだった。
剣を習うなら、これ以上の師匠はいない。
身近なところに勇者のお手本がいるんだもん。
これからは訓練のときに、クリス先輩から吸収できるものを吸収しよう。
考えたらSクラスって恵まれた環境だよね。