道具屋カフェ
「お前ら、学園祭の出し物は決まったのか?」
ホームルームの時間にワルデック先生が聞いてきた。
ていうか、学園祭があることすら、私たち聞いてなかったんですけど。
「はい! 私たちは道具屋をやりまーす!」
「道具屋? なんだか地味だな。何を売るつもりなんだ?」
「えっと。ニコラくんに錬金してもらってアクセサリーとか、マジカルバッグとか」
「ニコラがひとりで作るのか? 他のみんなは何するんだ」
「私とレアナは、ブレスレット編んだり、巾着作ったりするんです」
「そういうことであれば……私の方からセルディアの織物を提供しましょう。土産物にでもと思って、たくさん持ってきていますから」
アナ王女様がスカーフのような織物を見せてくれた。
美しく染められた、絹のように繊細な布地だ。
「セルディアは寒冷地で産業が少ない国ですが、衣服や装飾品などは美しいものが多いです。それが人々の楽しみなのでしょう」
「こんな高級なもの、売っちゃっていいんですかあ?」
「私が買いたいぐらいなんだけど……」
「皆様には差し上げます。お世話になっておりますので」
これは、貴族令嬢が飛びつくだろうなあ。
バスティアン国内には売ってないし。
王女様に申し訳ない気もするけど、まあ、Sクラス特権ということで。
「アナ王女様は、他に特技とかないんですか? お裁縫……はしないですよね。王族なんだし」
「私は趣味らしい趣味もないのですが……氷魔法は得意ですよ」
王女様は目の前で氷の塊を出して、それを花の形に変えてみせてくれた。
氷でできた薔薇の花だ。
「すごいっ! これ、売れないかなあ」
「氷ですからね……すぐに溶けてしまいますけど」
「そうだ! いいこと考えた! 私にアイデアがある」
この世界は氷が貴重なので、飲み物を冷やして飲むという習慣がない。
でも、冷たい飲み物があったら、絶対売れそう。
たとえば、アイスミルクティーとか。
簡単だし、お茶は作って置いておけるし。
そのアイデアを話したら、みんな賛成してくれた。
薔薇の花が浮いたドリンクなんて、すごくオシャレ!
「僕にもできるかなあ……簡単なのだったら。僕は美的センスはありませんけど」
ニコラくんは王女様の真似をして、氷の塊を出した。
四角とか丸とか簡単な形は作れるみたい。
「ハート型は作れる?」
「それぐらいなら」
「じゃあ、絶対女子に売れるよ! 男子だったら丸とか四角でいいんじゃない?」
王女様とニコラくんが氷を作る担当になった。
セルディア産のお茶も提供してくれるらしい。
これで、私たちが売る方を担当したらいいよね。
「じゃあ、道具屋カフェっていうことにしとこうか。ちょっとは地味さがマシかも」
「地味じゃないよ! 絶対人気出ると思うなあ。アリスちゃんに言っておけば、下級生がいっぱい来てくれそう」
「俺、思うんだけど、勇者グッズとか売れば?」
「何それ」
「俺、クリストフ様グッズいっぱい持ってるけど、あれ高いんだぜ?」
久々に出た。
オーグストのクリストフ様マニア。
「私のグッズというものがあるのか?」
「ありますよ。バスティアンの教会で、クリストフ様の姿絵売ってます」
「ふむ……見てみたい気もするな」
「図書室にクリストフ様の伝記っていうのもありますよ」
オーグストはクリストフ様の肖像カードを売りたいんだって。
本人がいるのにそれを売るのはどうよ、と思ったけど、これもいいことを思いついてしまった。
サイン入りにしたら、売れるんじゃないだろうか。
オーグストみたいな隠れファンがいるかもしれないし。
クリス先輩、イケメンだから、ブロマイドみたいなもんだよね。
「勇者グッズを売るなら、ルイーズのやつも作ったらいいんじゃねえのか?」
「や、やだ……それは絶対に嫌!」
「僕、記憶保護できるんで、転写しましょうか?」
ニコラくんが面白がって、私の顔をノートに転写してしまった。
写真というほどではないけど、肖像画みたいなやつ。
「嫌だああ! 勘弁して」
「クリス先輩だけだったら、不公平じゃない。ルイも売上に貢献しようよ!」
「絶対売れないって」
「売れるかもしれないじゃない! Sクラスって結構人気あるみたいだよ」
「じゃあ、100歩譲って全員やるならやる」
私だけというのは不公平だ。
みんな、やってもらわないと。
「え? 俺たちも? 誰が買うんだよ、そんなの」
「わかんないけど、剣豪になりたい人がお守り代わりに買うとか」
「さすがに王女様はダメだろ?」
「構いませんよ。生徒の皆様に私のことを覚えていただけたら、この先国交につながることもあるでしょう」
さすが王女様。
肖像画販売許可しちゃった。
これは絶対売れる。男子が買う。
というわけで、全員のブロマイドも作成することになってしまった。
ニコラくんの仕事が多くて大変。
「だいたい決まったかあ? 決まったら後で何をいくらで売るのか書いて提出しろよ」
「ちなみに他のクラスは何をやるんですかあ?」
騎士科Aクラスは、演劇をやるらしい。
騎士科Bクラスは串焼きの屋台。
魔導士科は合唱とか、魔道具販売とかだって。
そもそもこの学園には女子が少ないので、カフェをやろうという発想はないみたい。
喉が乾いた人がたくさん来るかもなあ。