歓迎会
授業が終わってクランハウスに戻ってから、アンナさんに頼んでクリス先輩の歓迎会の準備をしてもらった。
クリス先輩は、自分の部屋ができてすごくうれしいみたい。
今まで竜の巣で洞穴に寝てたんだもんね。
クリス先輩は孤児だったから、家族と一緒に暮らしたことがないらしい。
神殿にあった職員用の粗末な部屋で育ったんだそうだ。
ここにいる間は、楽しく暮らしてほしいなあと思う。
私たちは学園に入ってからすぐにいろんなことに巻き込まれたので、ほとんど学生らしい生活を送っていない。
今なら大きな事件もないし、たまには王都で遊びに行ったりしたいな。
せっかくだから、クリス先輩を王都見学に連れていってあげるといいかも。
そんな話をしながら、みんなでにぎやかにご飯を食べた。
「そういえば、王女様の火魔法の練習はどうだったの?」
「そうですね……半年もあれば使い物になると思います」
「あの王女様、すっごく賢いみたいだよ! ニコラくんが教えた魔法陣、すぐに覚えてたもん」
「そうなの?」
「古代語を勉強したことがあるみたいですね。だから理解が速いです」
絶世の美女な上に賢いんだ。さすが王女様。
ま、でも、王女様が早く火魔法を使えるようになってくれたら助かる。
私たちがわざわざセルディアまで行かずに済むかも。
私も以前、ニコラくんに魔法陣の出し方を教えてもらったことがあるんだけど、なかなか文字の配列を覚えることができない。
できたとしても、瞬間的に思い出せないと、戦闘には使えないので諦めた。
「ニコラくんは、あんなにいろんな魔法陣をどうやって記憶してるの?」
「僕はね、実は大賢者になってから記憶保護のスキルを習得したんです」
「記憶保護って?」
「保護をかけた記憶は、100%確実に思い出せるんです。たとえば……」
ニコラくんは、急にテーブルに背を向けて、壁の方に向いた。
「一番右にベリーが6個。その隣にエヴァ先輩のステーキが半分、その隣のサラダボウルに……」
すごい。
テーブルにいっぱい並んでいる料理の、場所と残りの数まで正確に記憶してる。
「……とこんな感じで、見たものをそのまま絵のように記憶できるんです」
「すごいねえ、大賢者のスキルって」
「別に大賢者のスキルではなくて、たぶんスワンソン先生も持ってますよ。言わないだけで」
ニコラくんがいつもスワンソン先生を天才だと言ってたのは、複雑な魔法陣でも瞬間的に記憶できるからだったみたい。
やっぱりふたりは似た者同士なのかも。
「オーグストは? マルクと一緒にAクラスの訓練に出てるんでしょ?」
「うん、まあ、体がなまるからさ。気分転換に」
「大神官って、結界以外にはどんなスキルがあるの?」
「最近忙しくてあんま勉強できてないけど、鑑定眼で人の職業見ることはできるようになった」
「職業だけ?」
「今はね。人のスキルとかも見えるようになったらいいんだけど、それはもうちょっと複雑なんだ」
「それは私の職業も見ることができるのか?」
そういえば、クリス先輩は学生証まだつくってないのかな。
自分の職業がどうなっているのか気になっているようだ。
「できますよ。クリストフ様の許可があれば」
「それはぜひやってもらいたい」
じゃあ、と言って、オーグストは広い場所にクリス先輩を連れていって、床に魔法陣を展開した。
その上にクリス先輩が乗ると、職業がわかるんだって。
「あ、やっぱり職業勇者になってます!」
「そうか……では、もう私は聖騎士ではないのだな。ずっと人から勇者と呼ばれることが気になっていたのだが、これですっきりしたぞ」
「クリス先輩も学生証つくってもらったらいいんじゃないですかあ? そしたらスキルとかも見れるようになるし」
「なるほど。明日にでも学園にお願いしてみるとしよう」
「ついでに、冒険者登録もバスティアンでしておくといいかも! 王都見物とか買い物もかねて」
「おお、それも楽しそうだな!」
クリス先輩は、ちょっと時代遅れというか、変わった私服を着ている。
今の時代の普段着を買った方がいいかもね。
「クリスの部屋の家具は、僕が用意するよ。実家にたくさんあるし、明日にでも運ばせる」
「さすがエヴァ先輩! お金持ち! 本棚とかあまってたら私にもくださーい」
「ははは。わかったよ、レアナちゃんも必要なものがあったらいつでも言って」
私も新しいベッドが欲しいけど、それは新品がいいから自分で買おう。
お金に困ってるわけじゃないしね。
「そういえば、もうすぐ学園祭あるんだよね?」
「そうらしいな。去年はなかったよな?」
「学園祭って2年に1度らしいよ。私たち、何するんだろ?」
「僕らのときは、クラスで演劇やったよ」
「エヴァ先輩が演劇? もちろん王子様役だよね!」
「まさか。僕は立ってるだけの騎士役」
「騎士だったら全然演技じゃないじゃないですかあ!」
クラスで出し物をするらしいけど、Sクラスは7人しかいない。
何ができるんだろ?
「なんか作って売るのがてっとり早いんじゃねえか?」
「食べ物とか?」
「食べ物だと、僕たちは手伝えませんよ」
「みんな、それぞれ作れるもの作ったらいいんじゃない? たとえば、あのニコラくんが作ってた解毒の腕輪とか」
「あーあれは売れそう!」
「きれいな紐で編んで、ニコラくんに錬金してもらったらいいよね」
「いいですよ。素材さえ用意してくれるなら」
それぞれ、何を売るのか作れるものを考えておくことになった。
小さいマジカルバッグも売れそうだな。
かわいい布で巾着をつくって、女子の化粧品入れに。
趣味の裁縫も、学園に着てから一度もやってないし、たまには刺繍とかしてみようかな。
そんな時間があれば、だけど。
学園祭は2週間後。
それまでどうか事件が起きませんように。