ブラックホール
午後からは実技訓練の時間なんだけど、訓練場に行くとエヴァ先輩がいた。
スワンソン先生が、メテオの解析をしたいので呼んだらしい。
リリトで偶然魔神を討伐できたけど、あれ以来メテオは使ってないし、正直どういう魔法なのかもよくわかっていない。
使い方によっては危ないので、スワンソン先生としてはもう一度見たいようだ。
王女様の火魔法はニコラくんとレアナが面倒を見ることになった。
マルクとオーグストはAクラスに混ざって剣の訓練をするようだ。
勇者3人組はスワンソン先生と外で実験。
訓練場の中でメテオを使うのは危なすぎるので、ポルトの森まで行くと言う。
クリス先輩はいまだに魔法がうまく使えないみたいだけど、理屈で言えば聖剣を持っているので、メテオも使えるはずだ。
「エヴァ先輩、次のフラグがやってきましたよ」
「うん、さっき聞いた。王女様だって?」
「セルディアの北の山にあるダンジョン攻略するみたい」
「だとしたら、僕は行けないだろうなあ。国交のない国に行くのは許可が降りないよ、多分」
「クリス先輩は乗り気みたいだけど」
「僕とルイちゃんが揃って国を出るのは、国王が多分反対する。バスティアンにもしものことがあったときに、セルディアだと簡単には帰ってこれないし」
「そっか……そうだよね」
これ、もしかしたら今回は私とクリス先輩が行くことになるんだろうか。
もしフラグだとしたら。
今までエヴァ先輩の氷紋系と私の雷攻撃がワンセットだったので、ひとりだと心許ない気がする。
セルディア王国の問題なんだし、なんとか王女様に火魔法を覚えて帰ってもらうわけにはいかないのかなあ。
「エヴァ殿! 私は、エヴァ殿の部屋を貸してもらうことになった。しばらくの間世話になる!」
「ん? 何の話?」
「あ、クランハウスのエヴァ先輩の部屋なんですけど、クリス先輩が学生寮でひとりっていうのもアレなんで、貸すことにしちゃいました。勝手にごめんなさい」
「僕の部屋なんてあったの?」
「もちろんです! 先輩はパーティーメンバーだもん。アンナさんのご飯、とってもおいしいから先輩もたまには来てください」
「それは楽しみだな。じゃあ、クリスの留学祝いということで、今日にでも行こうか」
クランハウスに全員が揃うのは初めてだ。
クリス先輩の歓迎パーティー、楽しみ。
3人で話しながらあっという間にポルトの森についた。
「このあたりなら立ち入り禁止区域なので、誰もいないでしょう」
魔獣の祠周辺はロープが張ってあって、今でも立ち入り禁止になっているようだ。
死霊のオブジェたちは、特に危険ではないらしいけど、知らない人がうかつに近づかない方がいいよね。
スワンソン先生は、マジカルバッグの中から人間の身長ぐらいの大きさの的を出して、地面に置いた。
そして、その的を中心に、魔法陣を展開した。
「それは何を調べる魔法陣なんですか?」
「追跡です。魔法陣の中にあるものが移動したら、移動先を追跡できるんです。では、誰でもいいのでメテオでこの的を撃ち抜いてくれますか?」
「じゃあ、僕が」
私は2回めのメテオを放ったときに魔力切れになって倒れたので、エヴァ先輩がまず実験台に。
先輩のメテオが的にあたると、掻き消えるように上半分が消えた。
魔法陣が光ったので、移動を感知したようだ。
「やはり……物体が完全に消失したのであれば、魔法陣は反応しないはずなのです。どこかへ移動してますね。追跡しましょう」
スワンソン先生は、追跡先へ移動できる転移魔法陣を展開する。
すると、突然宙に円形の黒い入り口のようなものが浮かびあがった。
魔法陣の向こう側は、真っ暗だ。
「これは……危ないのでちょっと離れていてください」
スワンソン先生が、小石を拾ってその中に投げ込むと、吸い込まれるように消えてしまった。
木の枝を差し込むと、差し込んだ先だけが消えてしまう。
枝を抜いても、消えた部分は戻ってこなかった
「ブラックホールみたいですね。これ以上の追跡は無理でしょう」
「ブラックホールって、どこにつながってるんですか? 異空間収納みたいなもの?」
「確かに異次元空間につながっているようですが……異空間収納は転移先の異空間を指定できるのです。だから、入れたものをまた取り出せるんですよ」
「ということは、僕たちがリリトで討伐した魔神は、どこかの異空間に移動しただけで、生きているかもしれないということでしょうか」
「可能性はありますね。ただ、向こう側からこっちへは出てこれないと思います。異空間から移動先を指定するのは、かなり困難なので」
よくわからないけど、メテオって、異空間へ飛ばす魔法だったんだ。
うかつに使えないよね……危なすぎて。
スワンソン先生が魔法陣を消すと、ブラックホールも消えた。
「こんなことを聞くのは申し訳ないのですが、クリストフさんは封印されていた間の記憶はあるのですか?」
「いや、まったく記憶はない。戦っている最中に、一瞬気絶していただけという感じだ」
「恐らくですが、封印をかけるときに異空間先を指定してあったのでしょう。それで戻ってこれたのだと思います」
「難しいことはわからぬが、戻ってこれたのは幸いであったな」
「しかし……これはちょっと実験してみるわけにいきませんね。中から何が出てくるかわかりませんし」
スワンソン先生は、リリトで私が最初にメテオを使ったときに、魔神の脇腹に穴があいたのを覚えていたそうだ。
それが不自然だったので、異空間に飛ばされたのではないかと推測していたらしい。
「あなたたちは、異世界から来た記憶があると言っていましたね。どうやらその瑠璃の宝珠は、異次元とこちらをつなげるような力があるのでしょう。ですから今後もし、新しいスキルや攻撃魔法を覚えた場合は、気を付けてくださいね。よくわからないスキルが出たときは、相談してください」
メテオは、剣に魔力をためてから発動するようなスキルだ。
たぶん、これだけが勇者特有のスキルだと思う。
古竜様の加護のスキルとかは、ほとんど魔力なんて消費してないし。
「私もメテオというのを覚えようかと思っていたが、うかつに覚えないほうがよさそうであるな」
「もう少し他の魔法に慣れてからの方がいいかもですね!」
スワンソン先生に、転移魔法陣がある近くではメテオを使わないように、と言われた。
ブラックホールが開いてしまう可能性があるらしい。
怖い怖い。
ニコラくんが索敵をかけたとき以外は、使わないことにしよう。
他にも調べたいことがあったみたいなんだけど、きっちり準備しないと危ないとのことで、メテオの検証はお預けになった。