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留学生

 慰労パーティーが終わって数日たち、私たちは学園に戻った。

 ちょうど夏季休暇が終わって、後期の授業が始まるところだ。

 学生寮にいた頃は朝ギリギリまで寝ていられたんだけど、クランハウスからの通学はちょっと距離がある。

 王宮の前から学園方面行きの乗り合い馬車があるので、私たちはそれで通学することになった。

 マルクは体がなまらないように学園までランニングするみたいだけど、さすがに朝っぱらから汗だくになりたくないし、他の4人は馬車だ。


 私たちは復学するにあたって、特AクラスではなくSクラスとなった。

 以前と変わったのは、教養科目の授業もAクラスとは完全に別になったことだ。

 私たちは学園を離れていることが多いので、一般のクラスとは進度が違うという配慮のようだ。

 それと、制服も新しく支給された。

 今まで騎士科はブルーの襟、魔導士科は赤い襟だったんだけど、S クラスは白い襟だ。

 

 Sクラスができたのは、私たちを特別扱いするためというわけではなく、理由がある。

 騎士なのに攻撃魔法を使える人や、レアナのように魔導士だけど剣や体術も得意という生徒は、一般クラスだと中途半端な訓練しかできない。

 そのため、今後もそういった生徒が出てきたときのために、Sクラスができたらしい。

 基本的に団体戦に向かない人向けクラスだ。


 久しぶりに登校して、白い襟の私たちが固まって歩いていると目立つ。

 校庭にいた生徒たちがザーっとよけて、道が開かれるぐらい注目されてしまった。

 『あれが大神官様』とヒソヒソ噂をしている女子たちがいて、オーグストはここでも有名人のようだ。

 まあ、魔導士科の女子はほとんど聖女様だもんね。


 視線が多くて動物園のクマにでもなったような気分だけど、なんだかもう最近慣れた。

 王宮や騎士団で気を使う大人の相手ばっかりしていたので、学園の生徒の視線ぐらい怖くない。

 

「勇者様! 私は騎士科1年A クラスの、アリス・ベレットといいます!」

 

 突然、一人の女子生徒が私のところに駆け寄ってきた。

 そうか。私たちもいつの間にか上級生になったんだ。

 今年も騎士科に女子が入ったんだね。


「私に何か?」

「はい……あの、お聞きしたいことがあって。勇者にはどうやったらなれるんでしょうか!」


 おお、ど直球の質問だ。

 周囲がざわざわして、めちゃくちゃ注目されている。

 難しい質問だなあ。

 異世界から転生してきたらなれるけど。

 

「私、Sクラスを目指したいんです! 攻撃魔法を使えるようになりたいです」


 事情を聞いてみると、今年の1年生で騎士科の女子はひとりなんだそうだ。

 私はレアナがいたからよかったけど、想像するとちょっとかわいそうな感じ。

 

「ごめんね、話してあげたいけど、勇者に関することは国家機密だから話せないの。だけど、勇者を目指さなくてもSクラスに入れる可能性はあると思う。ね? レア」

「うんうん。私も騎士科だったけど、学園に入ってから攻撃魔法覚えたよ!」


 アリスちゃんはがっかりした顔をしていたけど、レアナに励まされて少し希望がわいたようだ。

 私を目指すよりも、レアナを目指す方がいいかもしれないね。

 魔導戦士って、めずらしいけどいないわけじゃないし。

 頑張れば将来、上級職に転職できる可能性もあるだろうし。


「まずは図書館でスキルの勉強をして、使えるものを探すといいよ。何が自分にできるのか、色々やってみないとわからないから」


 そんな無難なアドバイスをして、アリスちゃんを見送った。

 何かもっと気の利いたことを言ってあげられたらよかったんだけど。

 私たちがしてきた経験は、簡単な言葉で説明できることではなくて。

 あんな可愛い子が魔神と戦ったりしなくて済む世の中になったらいいなと思う。



 Sクラスの教室には当然だけど誰もいなくて、私たち5人だけだ。

 これ、学校に来る意味あるの?って気もするけど。

 他のクラスはどうやら学園祭の話題で盛り上がってるらしいんだけど、そんな話もSクラスには入ってこない。

 

「おう! お前ら、揃ってるな!」


 ぼんやり待っていると、やっとワルデック先生がやってきた。

 Aクラスと兼任なので、私たちが後回しになったようだ。


「早速だが、転入生を紹介するぞ。留学生だ。入ってこい」

「クリス先輩‼ どうしたんですか?」

「学園というものにどうしても通ってみたくなったので、国に頼んで留学生にしてもらった」


 クリス先輩はニコニコしている。

 先輩って18歳だったよね?

 世界の勇者様が、学園に通う必要なんか全然なさそうだけど。

 

「ああ、クリストフは勉強したことないらしいからな。お前ら、読み書き教えてやれよ」

「私は今の時代のことがよくわからないので、よろしく頼む」

「ああ、それからもうひとり。セルディア王国からの留学生だ」


 絶世の美少女という雰囲気の女子が、しずしずと教室に入ってきた。

 ブルーブロンドの髪に、真っ白な肌。

 外にお付きの女性らしき人が2人控えている。

 なんだか、高位の人っぽい。


「セレンディア王国第一王女、アナスタシア・ミラ・セルディアと申します。半年間の短期留学の予定ですが、どうぞよろしくお願いいたします」


 なんと王女様!

 なぜバスティアンに留学?

 見聞を広めるため、とか?


「おい、ルイーズ、レアナ。女子どうし仲良くするんだぞ。仲間はずれにしたりするなよ」


 いやいやいや、先生!

 異国の王女殿下とどうやって仲良くするのか、全然わかりません!

 まずは、国賓に対する敬語と礼儀作法から教えてほしい。

 

「この学園には女性の勇者様と戦士様がいらっしゃると聞いて、私の願いで留学させてもらいました。どうぞ、私のことはアナと気軽にお呼びください」

「あ、私はルイーズです。よろしくお願いします」

「私はレアナです……あの、よろしく」


 先生に言われて、アナ王女様は私とレアナの間に座ることになった。

 そして、後列のマルクの隣にはクリス先輩が座って、そこだけ威圧感がすごい。


「セルディア王国とバスティアン王国は、国交がない。まあ、別に国同士仲が悪いというわけではなく、遠いからな。なので、詳しいことは俺もよくわからん。せっかくの機会なので、色々話を聞いてみるといいぞ」


 ワルデック先生が簡単な地図を描いて、セルディア王国の場所を説明してくれた。

 バスティアンから北東に位置する島国で、『氷の大陸』と呼ばれている土地らしい。

 周囲を山に囲まれているため、陸路が開けず、閉鎖的な国なんだそうだ。

 王女様は船旅で、2週間かけてバスティアンに来たと言う。


 どう見ても戦う雰囲気じゃない王女様が、わざわざ騎士学園に来たというのは、訳ありなんだろうな。

 バスティアンには文官向けの貴族学園もあるから、勉強ならそっちに行った方がよさそうだもん。



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