【第四章 セルディア編】 帰国
騎士団の馬車に揺られて、バスティアン王国へ帰国する。
クリス先輩はマリアナ正教会に報告があるので、いったんマリアナに帰って、それからまた古竜様と暮らすんだそうだ。
勇者といっても、根っからの自由人みたいな感じ。
職業が何であれ、生き方は選べるよね。
私たちは事後報告も色々あるという理由で、王宮へ招かれた。
国王との謁見までは、王宮に滞在する。
国を出る前は騎士団宿舎に入れとか言われていたのに、扱いが良くなったようだ。
思い出したけど、私たちは学園の寮を追い出されたので、行くところがないんだった。
あの貴族評議会にはいつか仕返ししてやるもんね。
私たちは2年生になると同時に留学扱いで国外に出たけど、学園に戻れるんだろうか。
しばらく普通の学生生活送りたいなあ。
勉強もろくすっぽせずに、ガンガン実戦だけで戦ってきたので、もうちょっとちゃんと知識を整理したい。
「勇者エヴァリスト・ディ・ベルジュ。勇者ルイーズ・デイモント、及びそのパーティーメンバーよ。よくぞ無事帰還した。このたびの魔神討伐、よくやってくれたぞ。高く評価する!」
「恐悦至極でございます。国のため、責務を果たして参りました」
おおお。いきなり勇者呼びです。
覚悟してきたので、それほど心のダメージはないけど。
国王陛下、満面笑顔です。
「宰相、報奨を読み上げろ!」
「はっ。ベルジュ家は伯爵位より一階級陞爵、侯爵位とする。合わせて、現在国が所有している3つの領を新たに領地として与えることとする。デイモント家は二階級陞爵、子爵位とする。アデル村より南部の未開地をデイモント領として与える。ルイーズ・デイモント他、未成年のメンバーは全員騎士爵位とする。ただし、成人後は準男爵位に昇位するものとする。報奨金は、等しくひとり1億2千万ダルを与える」
1億2千万!
リリト国王が1億出したから、ちょっと上乗せした感じかな。
これで合計2億2千万。
予想はしていたけど、パーティーメンバーは全員騎士爵となった。
将来的に第一騎士団や魔導士団へ囲い込むために、そうなるだろうってエヴァ先輩が言ってもんね。
エヴァ先輩なんて、実家が侯爵家!
先輩、長男だから次期侯爵様だよね。すごい。
それにしても、うちのお父さん、いきなり子爵になっちゃった。
びっくりするだろうなあ。
もう連絡いってるんだろうか。
リリトでは忙しくてほとんど状況を知らせてなかったんだけど。
「それと、オーグスト・プルマン。前へ出よ」
「はい!」
「このたび、隣国リリトの神官と協力し、ゾルディアク教団跡に大結界を築いたと報告を受けている。誠に大儀であった! 学園卒業後は、我が国初の大神官として、バスティアン正教会幹部に任命する。年金額は侯爵位相当とする」
「謹んで拝命いたします!」
オーグストは王宮が用意してくれた、高位神官のローブをまとっている。
もうすっかり神官っぽくなっちゃったな。
「さて、国からの報奨は以上だが、それ以外にも望むものがあればできる限り用意しよう。宝物庫にある財宝などでもいいぞ。欲しい物があれば順に申せ。遠慮は要らぬ」
そんなこと言われても、国王陛下にあれが欲しいとか言える人なんていないよね。
みんな無言だ。
でも、私はもう遠慮しないと決めたから、言いたいことは言う!
「国王陛下、パーティーメンバーを代表してお願いがございます!」
「よいぞ、申してみよ」
「はい! 実は私たち、貴族評議会の決定で学園の寮から出ていくように言われたんです。私たちがいると、他の生徒が危険だとか言われて、帰るところがありません! どうか住むところをお世話いただけないでしょうか」
「なんと! そのようなことがあったのか? 宰相よ、報告は受けておるか?」
「はっ、それが本年度は学生に侯爵家の子息がいて、貴族会がうるさく……」
「騎士学園の学生相手になんという評決をくだしているのか! ええい、もうよい。後ほど賛成した貴族の名簿を提出せよ!」
ふっふっふ。
賛成した貴族たち、国王陛下に怒られてしまえ!
プチ仕返し。
「そうよのう……確か、爵位返上した元伯爵家の家が王宮の近くにひとつあったな。あれを、お前たちにクランハウスとして進呈しよう。好きに使うがよい。それでどうだ? 冒険者パーティーにはクランハウスがあった方がいいだろう?」
「はい! ありがたく使わせてもらいます!」
「それと、言い忘れておった。そなたたちのパーティーは、国よりSランクと認定する。これで世界各国へ自由に行けるようになるだろう。国より活動資金も出すことにする。今後も活躍を期待しておるぞ」
さすが、バスティアンの国王は冒険者に理解がある!
騎士団の宿舎に入れと言われるかと思ったけど、まさか家まで用意してもらえるなんて、ラッキー!
「それでだ。早速だが、王宮の庭園にて勇者パーティーの帰還慰労会をとり行うこととする。これは第一騎士団と魔導士団の慰労会も兼ねておる。その時に勇者とSランクパーティーについては紹介することにするぞ。国王から紹介したとあれば、今後貴族たちも少しは大人しくなるだろう」
まあ……これは避けられないよね。
もらうものだけもらって逃げるわけにもいかないし。
大規模のパーティーみたいだから、どうせ顔なんて見えないよね。
変装していこうかな。
「疲れたであろう。今宵は王宮でゆっくり休むとよい。報奨は後ほど届けさせる」
ようやく謁見が終わった。
国王陛下と話をするなんて、何度経験しても疲れる。
だけど、レアナとマルクはうれしそうだ。
やっぱり、お金よね。一番報われるのは。
マルクは実家を建て替えようか、なんて話してる。
「まずい……僕としたことが、この可能性を見落としてたなんて……」
ニコラくんは、何かぶつぶつつぶやきながら、考え込むような顔をしている。
どうしたんだろう。
そういえば、ニコラくんの実家は陞爵しなかったよね。
次男だからかなあ。継承権がないから?
それが何かまずいんだろうか。
「どうかしたの? ニコラくん」
「いえ……ルイーズさんって確か次女でしたよね?」
「うん。お姉ちゃんはもう結婚しちゃったけど、妹がいるよ」
「三人姉妹……ですよね。やっぱり」
「それがどうかした?」
「いえ、あっ! 僕は用事を思い出したので、スワンソン先生のところへ行ってきます!」
ニコラくんはあわてたように、パタパタと行ってしまった。
確か継承争いには興味がないって言ってたと思うけど、やっぱり実家で色々あるのかなあ。
うちは女ばっかりだから、そういうのとは無縁だけどね。