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ご褒美をもらった

 死んだように寝て、起きた。

 うん、今日から私は勇者だ。

 昨日そう決めたので、このことで悩むのはやめよう。

 

 って、あれ? ここどこ?

 レアナは?

 部屋を見回して、昨晩のことをよーく思い出してみたら、ここ、ニコラくんの部屋だ!

 あのまま寝ちゃったんだっけ。

 ニコラくん、どこで寝たんだろう。


 みんなを探していたら、もう揃って昼食をとっているところだった。

 そう言えば、昨日何も食べずに寝たから、お腹ぺこぺこだ。

 ダイニングルームには豪勢な食事が並べられていて、みんな猛然と食べている。


「ニコラくん、あの……昨日はごめん、寝ちゃって」

「いいですよ。疲れてたんでしょ」

「ニコラくんは寝るとこあった?」

「僕はスワンソン先生の部屋で朝方まで仕事してたので」


 よく見ると、目が充血してる。

 ほとんど寝られなかったんだね。お疲れ様。

 回復魔法をかけてあげたら、ニコラくんはちょっとだけニコっと笑った。

 

 何も変わらない。

 昨日死にかけたことなんて、何もなかったように。

 みんな笑って、食事をしている。

 ああ、この日常があれば、もうそれでいいかと思えた。


「昨日遅くまでスワンソン先生と話してたの? 戻ってこないから心配したよ」

「ううん、ニコラくんと話してたら、疲れて寝ちゃったの」

「え? ニコラくんと寝たの?」

「違う違う! ニコラくんはスワンソン先生の手伝いで朝方まで仕事してたんだって」

「なんだ……すごい急進展したのかと思っちゃった」


 急進展……したような。

 なんだか、あれも夢だった?という気がしないでもないけど。

 ニコラくんは聞こえてるのか聞こえてないのか、涼しい顔してご飯食べてる。


「あのね、私、勇者になることに決めたんだ!」

「うん、ていうか、ルイは前から勇者だよね」


 驚くかと思ったのに、レアナはあまり気にもしない様子でご飯をもぐもぐ食べている。


「そういうんじゃなくて……勇者だということを隠すのをやめたんだ」

「そんなもん、いくら隠してもいずれバレるぞ。マリアナの正教会の連中は知ってんだしよ」

「そうかな……」

「おう、隠し事なんてない方がスッキリするぜ?」


 マルクの言う通りかも。

 今日の私は、不思議とスッキリしている。

 別に悪いことしてるんじゃないから、隠す必要なんてないか。


「皆さん、今日は午後からリリト国王に謁見の予定が入っています。きちんと着替えて集合してくださいね」


 ニコラくんはバタバタと食事を終えると、スワンソン先生の後を追いかけていった。

 オーグストはクレール神官と何か打ち合わせをしながら食事をしている。

 なんだか、大人になれていなかった自分が恥ずかしい。

 みんないつの間にか、自分の役割を受け入れているというのに。



「このたびの魔神討伐、大儀であった。勇者たちとそのパーティーの者よ。お陰で我が国のゾルディアク教は滅び、聖女たちも戻ってきた。心から礼を言うぞ」


 国王の前にエヴァ先輩とクリス先輩と私。

 その後ろに、メンバーと先生たち。

 なにげに『勇者たち』になってるし。

 ものすごくあっさりと、勇者認定されてしまった感じ。


「そなたたち全員に報奨金を出そう。1人あたり1億ダルじゃ。本当はもっと出してやりたいんじゃが、我が国は国庫が厳しくてのう」


 1億ダル!

 後ろ向けないけど、きっとレアナは今、心の中でガッツポーズしてるだろうなあ。

 平民の身分としては、これで質素になら一生食べていけるかも。


「特に、勇者の3人よ、そなたたちのお陰で世界は救われた。報奨金以外にも欲しいものがあれば、何でも申せ。できる限り便宜をはかろう」

「いえ、此度のことは、私ではなくこちらの2人の勇者の働きでございます。私は、謹んで辞退させていただきます」


 クリス先輩はこともなげに辞退してしまった。

 まあ、竜の巣で暮らしていて、金銀財宝もいっぱいあるから、欲しいものなんてないのかもね。


「では、2人はどうじゃ? 何か欲しいものがあれば申してみよ」

「陛下。実は私の姉がこの国の王都に嫁いでおります。リリト騎士団のリッツ・グランセ騎士爵にございます。もし可能であれば、私の甥っ子たちにも未来を授けていただけたら、と」

「なんと、勇者ベルジュの親族がリリト王国に! そうかそうか。勇者と縁続きであれば、陞爵を考えねばならぬな。早急に男爵位の席を用意しよう。もちろん、領地つきじゃ」

「ありがたき幸せにございます」


 へえ……貴族って、こうやって爵位を手に入れるんだ。

 エヴァ先輩、抜け目ないなあ。

 お姉さんに頼まれたのかな。

 まあ、リリト王国で私たちが爵位をもらうわけにいかないもんね。


「デイモント嬢であったか。そちは何か望みはないのか? 宝石やドレスなどを望んでもよいのじゃぞ?」


 うーん、それは別に要らないなあ。

 売るの面倒くさいから、お金で貰ったほうがいいし。

 でも、勇者なんて面倒なこと引き受けるんだから、私も遠慮するのはやめた。

 せっかくだからなんか貰おう。

 

 あ、そうだ。

 いいこと考えた。


「では、私たちパーティーがまたリリト王国を訪れた際は、また離宮に滞在する権利をいただけないでしょうか?」

「おお、そなたたちはこの城の離宮が気に入ったのじゃな。よいよい、そんなことは褒美でもなんでもない。当然のことじゃ。いつでもそなたたちがこの国に来たときは、離宮に泊まるとよいぞ」

「ありがとうございます!」

 

 やった!

 実はあの夢のような離宮にちょっと未練があったんだよね。

 これが私には一番のご褒美かな。

 いくらお金があっても、王宮に泊まれるチャンスなんてそうそうないもの。

 学園の休みに、みんなでリリト探索に来るのもいいなあ。


 リリト国王は、本当は私たちに勲章を授与しようとしたんだそうだ。

 だけど、バスティアン国王よりも先に目立ったことをできないので、報奨という形にしたようだ。

 まあ、勲章なんて要らないけどね。貴族じゃないんだし。


 意外と勇者って稼げる商売かもしれない。

 国から仕事もらえるんだし。

 こうなったら今のうちに稼げるだけ稼いで、将来遊んで暮らすのもいいな、と思えてきた。


 長かった旅もようやく終わりだ。

 みんな揃ってバスティアン王国に帰れる。

 帰ったらちょっとのんびりしたいな。ほんとに。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

ここで、リリト編は終わりです。

バスティアンに戻って次の冒険を目指します。


もしよかったら、ブックマーク、評価など入れていただけるとすごくうれしいです。

いつも手を叩いて喜んでます!

応援いただいた方に心から感謝しています。

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