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次元の裂け目

「……イっ、ルイっ、しっかりして‼」

「……レア? あっ、私っ」

「よかった、無事でっ」


 レアナが泣きながら抱きついてきた。

 私、倒れたんだっけ。

 頭が酷く痛い。

 魔力切れだ。

 レアナが差し出してくれた魔力回復ポーションを一気飲みする。

 周囲は混乱していて、人が皆逃げていく。


「死霊は? どうなった?」

「やっつけたよ。エヴァ先輩がもう1回さっきの攻撃魔法で」

「よかった……でも、この騒ぎは何」

「それが、魔法陣が起動してしまって、次元に裂け目ができたみたいで。そこから魔物がいっぱい湧いてきてる」


 聖女様たちがいた舞台の方を見ると、光の輪が空に向かって伸びかけている。

 まだ不完全なのか、形がいびつだ。


「オーグストとクレール神官が大結界を張る準備をしてるから、みんなその援護に行ってる」

「私たちも行かなきゃ!」

「大丈夫? 休まなくても」

「大丈夫。行こう!」


 走ると少し頭がフラフラするけど、体は大丈夫だ。

 すぐに魔力回復ポーションが効いてくるはず。


 舞台にたどり着くと、聖女様たちが大勢倒れている。

 先生たちは、魔法陣から次々と出てくる魔物と戦っていた。

 スケルトンやヘルハウンドなどのザコだけど、数が多い。


 オーグストとクレール神官は、魔法陣を取り囲むように光の柱を立てている。

 10本の柱で囲めば、大結界が完成するらしい。

 それまで、オーグストたちを守らないと。


「デイモントさん、無事でしたか」

「スワンソン先生! 大丈夫です、魔力切れ起こしてただけで」

「よくやってくれました。死霊はあの後倒せましたよ」

「でも、魔法陣が……」

「これは仕方がないのです。聖剣が近くにあったから力を与えてしまったのでしょう」


 そうだったのか……まだ満月まで数日あると思っていたのに。

 瑠璃の宝珠は諸刃の剣だと言っていた、古竜様の言葉が浮かぶ。

 でも、ルディアの剣がなければ、死霊王は倒せなかった。

 考えても仕方がない。


「もう少しです。もう少しで大結界が完成するので、そうすれば一時しのぎになるでしょう」


 それから1時間ほど、魔物との戦いが続いた。

 手のあいている人は、気が付いた聖女様に魔力回復ポーションを飲ませて回る。

 残念ながら、死んでしまった人もかなりいるようだ。


「できました! 最後の一柱です。みんな、よけてください!」


 オーグストの声で、全員魔法陣から離れた。

 オーグストとクレール神官が、柱をつなぐように結界を張った。

 魔法陣から出てきた魔物は、結界に触れると消えてしまうようだ。

 魔物が湧くのを止めることはできないが、結界の外には出てこれない。


「プルマン、クレール神官、お疲れ様でした。これでしばらくは大丈夫でしょう」


 スワンソン先生の話では、魔法陣からは今のところ弱い魔物しか出てきていないので、次元の裂け目は小さいと考えているらしい。

 ただ、もしそこから魔神級の魔物が出てきたら、大結界でも破られる可能性があるということだ。

 裂け目が広がる可能性があるのかどうかはわからないけど。


「では、全員撤退します。残っている人のことは騎士団にまかせて、船に向かいましょう」


 よかった。帰りは船だ……と思ったら、クリス先輩が古竜様を呼んでしまった。

 船よりそっちの方が速いと言って。

 古竜様に『全員乗るがよい』と言われてしまって、結局古竜様にリリトの王都まで送ってもらうことに。


 オーグストはよほど疲れたのか、古竜様の背中でスヤスヤ眠っている。

 疲れ果てていると乗り物酔いってしないのかな。

 今は古竜様の背中の上が、とても安全で、心休まる気がする。

 空までは魔神も追ってこないよね。




 王宮の離宮に戻り、全員解散した後に、私とエヴァ先輩はスワンソン先生に呼び出された。

 部屋に行ってみると、ワルデック先生、スワンソン先生、モルガン騎士団長が待っていた。


「疲れているところ、早く休ませてあげたいのですけど、手短に話しますね。私たちはこれからリリト・バスティアン両国に今回のことを報告しなければなりません。その前にあなた達ふたりには確認しておかなければならないことがあるのです」


 ああ……。例の死霊を倒した時のスキルのことかな。

 私は倒れてしまって最後は覚えていないけど、かき消すように魔神の体を消したんだっけ。

 あのスキル、どういう効果だったんだろう?

 そんなことを考えていたら、スワンソン先生の話は、まったく別の件だった。


「あの時、あなたたちふたりが死霊を討伐してくれたことには、本当に感謝しています。あの死霊王ゾルゲというのは、間違いなく魔神級です。それを討伐したことは、あの場にいた者全員が目にしたでしょう。その上、あなたたちふたりは聖騎士として知られているのです。その……言いづらいのですが、バスティアン国王はふたりを勇者として国民に公表するでしょう」

「えっ……国民に公表って、そんな……」

「悪いけどな。国としちゃあ、クリストフ様と同じ働きをした勇者を放っておくわけにはいかないんだよ。諦めてくれ」


 エヴァ先輩は無言だ。

 だけど、覚悟はしていたような顔をしている。

 モルガン騎士団長がいる以上、先輩は命令には逆らえない。

 

「あの……もし、勇者として公表されてしまったら、私はどうなるんでしょうか」

「ゾルディアク教団はいったん解体されましたが、魔神はまだどこかにいる可能性がありますし、大結界もいつまで持つかわかりません。何かあれば、あなたたちには今後王国から討伐要請が出るでしょう」

「そうですか……」


 なんだか、疲れていて頭がよく回らない。

 今後討伐要請って、どうせ出るよね。

 勇者だろうがそうでなかろうが。

 私とエヴァ先輩が倒しちゃったんだから。

 前回はクリストフ様が倒したということにして逃げたけど、もう逃げられない。


「このような事態になった以上、国民には希望の光が必要なのです。もし今後魔神が現れても、我が国には勇者がいると、バスティアン国王は明言するでしょう」

「それはもう、私が何て言っても、変わらないんですよね……」

「守ってあげられなくてごめんなさい。でも、困ったことがあれば、私やワルデック先生が全力でサポートします。あなただけを戦地に放り出すようなことは絶対にしませんよ。約束します」

「勇者だろうが何だろうが、お前はまだ俺たちの生徒だからな。忘れんなよ」

「……わかりました」


 なんだか終わりの見えない話に疲れてしまった。

 いくら頑張っても、明るい未来が見えないような気がして。

 私、いつか魔王と戦うのかな。

 死霊王ですらあんなに強かったのに。


「エヴァ先輩は、いいんですか? 嫌じゃないんですか?」


 スワンソン先生の部屋を出てから、先輩に聞いてみる。


「いいとか悪いとか以前に……僕はあの時もう死ぬと思ってたんだよ。ルイちゃんがメテオを放つまでは」

「もうダメかと思いましたよね……ラッキーでした」

「ただのラッキーかな? 僕たちが勇者だったから助かったんじゃないの?」

「まあ、そうとも言えますけど」

「認めたくなくても、僕たちは最初から勇者なんだよ。だから、ここまで来てしまった。そうじゃない? あの時、決めたよね、勇者に関係ある場所へは必ず一緒に行くって。どこかの時点で逃げることもできたのに、僕たちは逃げなかった。それが答えじゃないかなあ?」


 エヴァ先輩が言っているのは、マリアナ王国へ向かうときの約束のことだ。

 どうせ逃げられないなら、ふたりとも勇者になろうと決めた。

 私が逃げられなかったのは、大事なメンバーたちが勇者パーティーの一員になることを望んでいたからだ。

 

「僕は王国の騎士だ。呼び方が変わったとしても、国のために働くことに変わりはない。だけど、ルイちゃんは女の子だし、学生だからね。面倒な交渉事は、僕が全部引き受ける。だから、そんなに心配しないで。今日はもう、何も考えずに眠るといいよ。また明日」


 エヴァ先輩は、私の頭をぽんぽんと叩いて、戻っていった。

 そうだ。私は強烈に眠い。

 今考えてもロクな考えは出てこないから、とにかく寝よう。

 

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