オクラマ島の戦い
「よし、じゃあ行くぞ!」
ワルデック先生が全員の背中を叩いて、気合いを入れる。
順番に古竜様に登る。
相変わらずクリス先輩は、古竜様の頭の上に座っている。
案外頭の上の方が安定がいいのかな。
真似してみたいとは思わないけど。
ワルデック先生はみんなの緊張を解こうとして、冗談を言ったりしているけど、内心はみんな緊張している。
いつもにこやかなエヴァ先輩でも、今日は顔がこわばっている。
むしろ、エヴァ先輩はストーリーを知っているだけに、緊張するのかも。
ゲームと違ってやり直しはできないもんね。
「エヴァ先輩、教団本部で出てきそうな魔物って、わかります?」
「多分、幹部クラスって死霊系じゃないかなあ。前に封印の祠にいたやつも神官みたいな死霊だっただろう?」
「死霊系だとやっかいですね……」
物理攻撃が効かない相手は面倒だ。
一番攻撃力のあるワルデック先生が役に立たない。
おまけに、私たちはオーグストと別チームだ。
聖騎士なんだから聖結界ぐらい使えたらいいのに、といつも思う。
今更だけど、聖魔法って攻撃スキルないんだろうか。
いや、そんなのあったらオーグストが使えてるか。
となると、死霊系と戦えるのはレアナの火魔法だ。
私とエヴァ先輩も、一応古竜様から加護をもらったから、炎のブレスが使える。
それでなんとかなったらいいんだけどな。
目立たないように、広場や施設から離れた場所で、古竜様に降ろしてもらう。
さすがに緊張していて、高所恐怖症が出る暇もなかった。
打ち合わせ通り、二手に分かれて目的地を目指す。
草原には真っ黒な野犬のような魔獣がたくさんいた。
ヘルハウンドといって、気性の荒い魔獣だとワルデック先生が教えてくれた。
こいつが繁殖しているから、この島は人が寄り付かなくなったんだそうだ。
できるだけ近づかずに、遠距離から攻撃魔法で倒しながら進んだ。
建物が見えてきたので、今から潜入すると、ニコラくんに連絡を入れた。
入り口は一箇所で、2人見張りらしき人が立っている。
「お前ら、ここで待ってろ」
背後からワルデック先生が近づいて、一瞬でふたりとも気絶させた。
『行くぞ』という合図を送ってきたので、建物の中に入ってみる。
古びた旅館のような建物だ。
元は土産物売り場や食堂だった場所が、そのままホコリをかぶっている。
物音はしていなくて、静かだ。
自分たちの足音が気になる。
部屋を一部屋ずつ確認していくと、1Fの端の部屋から話し声が聞こえてきた。
そっと近づいて様子を伺うと、人間がふたり。
剣を持っているので、見張りの交代要員かもしれない。
「ゾルゲ様は今日戻ってくる予定だよな」
「もう間もなくだろう。そろそろ休憩も終わりだな」
ふたりが立ち上がって部屋から出ようとしたところを、ワルデック先生とエヴァ先輩が殴り倒す。
私とレアナは剣を奪って、用意していたロープで手足を縛った。
ふたりまとめてぐるぐる巻きに縛っておいたので、しばらくは部屋から出てこれないだろう。
しかし、ここにいる人間って、本当にゾルディアク教の信者なんだろうか。
なんとなく、洗脳されているようには見えなかった。
普通のゴロツキみたいな感じ。
もともとそういう奴らが、自ら魔神の手先になるのかも。
1階にいたのは、そのふたりだけだった。
2階へ上がる階段が2箇所あったので、二手に分かれて上がることにする。
私とワルデック先生、レアナとエヴァ先輩に分かれる。
階段を登りきったところで、もう一方の階段のあたりにレアナとエヴァ先輩の姿を確認した。
2階は、バケツや雑巾が置いてあったりして、人が生活している痕跡がある。
信者たちの宿泊部屋だろうか。
一部屋ずつ静かに扉を開けて確認していくが、人がいる様子はない。
何部屋か確認したときに、廊下の向こうでレアナとエヴァ先輩が、ある部屋を指さしてこちらに合図を送っている。
急いで駆けつけてみると、その部屋だけは他の部屋と違って、立派な扉だ。
明らかに特別室という雰囲気で、幹部部屋なのかもしれない。
中からコトン、と物音がした。
誰かいる。
バンっと勢いよく扉を開けて、ワルデック先生を先頭に突入した。
黒マントを着て、手に鎌のような武器を持ったやつが振り向いた。
やっぱり死霊だ。
「誰だ、お前ら」
「うぐっ……がはあっ」
黒マントの目が赤く光った瞬間、ワルデック先生が胸を押さえて倒れた。
「獄炎の舞!」
「ハイヒーリング!」
レアナが火魔法で相手をしてくれている間に、ワルデック先生を助ける。
回復魔法は効いたようだ。
「気をつけろ! ソウルリーパーだ。生命力を奪われるぞ」
黒マントはレアナの火を明らかに嫌がっている。
獄炎の舞は、つきまとう炎だ。
マントが燃えて、死霊が姿を現した。
私とエヴァ先輩も、炎のブレスで加勢する。
「先生! これ以上やると部屋が燃えちゃう!」
「いいぞ、この際燃やしてしまえっ!」
「いいんですかあ? じゃあ、みんな外へ出てください!」
全員扉の外へ退避して、レアナがファイアーストームを放った。
部屋は一瞬で火の海だ。
死霊が悶えながら倒れるのを見て、扉を閉めた。
「エヴァ先輩、今の、ボスだと思います?」
「いや、違うな。簡単すぎる」
「ここにはもう敵はいないな。だとしたら、スワンソン先生たちが危ない。広場に行くぞ!」
ワルデック先生が駆け出したのを追いかけて、私たちは広場を目指して走った。