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クリストフ様がやってきた

 名残惜しいけれど、私たちは急いで王都に戻らなくてはいけない。

 今日は古竜の巣で野営をして、皆で食事をしようということになった。

 古竜様とクリストフ様は、バーベキュー用の獲物を取りにいってくれた。

 生きたベアファングをくわえて戻ってきたときは、ちょっとびっくりしたけど。

 マルクが今夜はステーキだと行って、さっそく解体してくれた。


 皆でクリストフ様の100年前の話を聞いたりして、楽しく食事をしていたときのこと。


「私はそなたたちと出会ってから、少し魔法の練習をしてみたのだ。しかし、小さな火ぐらいしか出すことができない。どうすればそなたたちのような攻撃魔法を覚えることができるのだろうか」


 クリストフ様は手のひらに、リンゴぐらいの大きさの炎を出して見せてくれた。


「クリストフさまあ! それぐらい出せたら最初は上出来ですよっ。私なんて最初の頃は、ろうそくの火ぐらいだったもん。それでも、一日に何度か火魔法使ったら魔力切れしてたし」

「そうそう、レアの最初の頃って、指先に火が灯るぐらいだったよね!」

「なんと、それがあのように強大な炎を出せるようになったのか」

「毎日特訓して、1年ぐらいかかっちゃいましたけどね!」

「なるほど。そうであったか。私はまだ鍛錬が足りぬのであるな」


 クリストフ様は納得したように、手のひらに炎を出したり消したりしている。


「クリストフ様は、まだ自分に合った魔法を見つけていないのかもしれませんよ。私はスキルを覚えるのにすごく時間がかかったんです。火魔法は向いてなかったみたいで」


 私は岩場に向かって、小さく雷撃を放ってみせた。

 エヴァ先輩も、アイスブレイクを放ってみせる。


「同じ聖騎士であっても、覚える魔法は人それぞれなのであるな」

「そうですよ。私も最初は図書館で色々勉強したんです」

「その図書館というのはどういう場所だろうか」


 なんと、クリストフ様は本を見たことがないらしい。

 字もあまり読めないんだそうだ。

 私達が学園で勉強を習っているということが、あまりイメージできないようだった。

 クリストフ様の時代の学校と言えば、聖職者が子どもを集めて、世の中の理を話してきかせるというものだったらしい。

 大神官は古代文字を扱ってはいたけれど、文章を読み書きする人は多くなかったとのことだ。


「古竜殿。私は彼らと一緒に、リリト王国へ行ってみたくなりました。鍛錬でこれほどの力を持てるのなら、私もまだ強くなれるかもしれません」

「そうじゃな。色々なところへ行って、経験を積むのがいいじゃろう。お前もまだ若い。思う通りにやってみるがいいぞ」


 気になったのでクリストフ様の年齢を聞いてみたら、まだ18歳だった。

 びっくり。

 しゃべり方とか立ち振舞いが貫禄ありすぎて、アラサーぐらいだと思ってました。ごめんなさい。

 エヴァ先輩と同い年だったのね。

 


 翌日私たちは山を下山して、夕方には森の入り口まで戻った。

 そこから夜通し走って、翌朝にはリリトの王都まで帰り着いた。

 途中で馬に何度も回復魔法をかけたので、馬がちょっと気の毒だったけど。


 予定外にクリストフ様がついてきてしまったので、驚いたのはリリト王国の王宮だ。

 なんせ、世界を救った英雄なんだから、最上級のもてなしをしないといけない。

 リリトの国王は世間体気にする人だからね。

 さっそくクリストフ様は、私たちのいる離宮の、最上級の部屋へ案内された。

 いわゆる、スイートルームというやつです。


「わ、私はなぜこのようなもてなしを受けるのだろうか……」

「そんなの当たり前じゃないですか! クリストフ様は勇者様なんですから」


 クリストフ様は最上級のもてなしに困惑しているようだ。

 マリアナではロクな扱いを受けていなかったんだろうな。想像するに。


「しかし、それならそなたたちも勇者なのではないか? 聖騎士もいるであろう?」

「私たちはですねえ……勇者様と一緒に戦う仲間ですっ!」

「そうです、そうです! 皆クリストフ様の仲間ですっ!」


 レアナとオーグストが誤魔化してくれて助かった。

 聖騎士=勇者、だという理屈が通ってしまうとなにかと困る。


「クリストフ様、私はこれから騎士団と打ち合わせがありますが、クリストフ様の魔法の勉強は午後から時間をとりましょう」

「これはかたじけない。どうか手のあいた時にでも、教えていただけると助かる」


 スワンソン先生は、瑠璃の宝珠探しを手伝ってもらったお礼に、クリストフ様の面倒を見ることにしたようだ。

 私たちも暇なときはできるだけ、クリストフ様の練習に付き合うことにした。

 マルクは剣の稽古相手ができたと喜んでいる。


 私とエヴァ先輩の剣の作成は、最速でも1週間はかかるようだ。

 本当はバスティアンのガルディア武器屋に頼みたかったんだけど、急ぐためにリリトで腕利きと名高い鍛冶職人に無理を言って頼むことになった。

 万が一にも盗まれないように、その鍛冶職人には騎士団の護衛が常についているらしい。

 私たちの剣のために申し訳ないような気もするけど、ルディアの剣の完成は楽しみだ。

 新しいスキルもまだ試せてないしね。


 午後になって、打ち合わせから戻ってきたスワンソン先生から新しい情報を聞いた。

 リリト王国騎士団がゾルディアク教本部の周辺を偵察していたところ、不穏な動きがあったらしい。

 ゾルディアク教本部はリリト王都の西のはずれにあるらしいんだけど、そこから大勢の人が船にのって、移動しているのが目撃されているそうだ。

 行き先はリリトの最西端にあるオクラマ島。

 元はリゾート地として人気があった島だけれど、最近は魔獣が増えて、だんだんと行く人が少なくなったという。


「島に行くイベント、あったよね……」

「先輩、何か覚えてます?」

「敵の拠点に忍び込んで、そこのボスを倒したと思う」


 確かに、ゲームで船に乗って移動した記憶がある。

 着ぐるみを着て、魔獣に化けて忍び込んだんじゃなかったっけ。

 ヘンな着ぐるみだったので、かえって目立つような気がしたのを覚えている。

 スワンソン先生は、偵察はリリトの騎士団に任せておけばいいと言っていたけど、満月が近いので何か起きそうな気がして不安だ。

 

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