古竜様と再会
翌日、森を抜けてバルディア山を目指す。
野営場所で、騎士さんたちは馬車を守りながら待っていてくれるようだ。
毒のカエルが出てきたら、オーグストが浄化してアオガエルにしてくれる。
前回はそれを知らなかったので、いちいち面倒だった。
マッドモンキーが石を投げてくるのを、スワンソン先生は器用に剣で叩き返している。
久しぶりに剣を握るので、訓練してるそうだ。
みんなも真似をして、石を叩き返しながら進む。
私たちがしばらく野営をしていた場所から、バルディア山のふもとまでは、マルクとニコラくんが作ってくれた道が残っていた。
同じ冒険でも、二度目は楽だ。
知らない魔獣に怯えることもないしね。
「帰りの道を残しておいたのは、正解ですね。こういう場所で、道に迷わないように軌跡を残していくのは冒険の基本ですからね」
ニコラくんは褒められてうれしそうだ。
私たちのパーティーは、ニコラくんの慎重さに助けられてるなあ。
偽聖女様のときも大活躍だったし。
「あっ、先生! 見えてきました。あれが竜の巣です!」
あの時と同じように、ワイバーンがキィキィと鳴きながら、竜の巣のあたりを飛んでいる。
もしかしてあのワイバーンは、古竜様の仲間なのかなあ。
山のふもとへ向かって歩いていると、竜の巣から古竜様が飛び立つのが見えた。
こっちに向かって飛んでくる。
頭の上に何か乗ってると思ったら、クリストフ様だ!
よくあんな不安定なところに乗ってるなあ。恐ろしい。
「古竜さまあ! クリストフさまあ!」
「お前たちだったか。よく来たな! 上ってくるがよい!」
古竜様はあいかわらず鼓膜が破けそうな声量だ。
許可をもらったので、急いで山を登り、ようやく岩棚に到着した。
「クリストフ様、ここにいらっしゃったんですね!」
「ああ、今は古竜殿のところで暮らしている」
竜の巣の奥にある財宝の洞窟のあたりに、クリストフ様の生活用品が散乱している。
こんなところで暮らせるなんて、ターザンみたいな人だ。
話を聞いてみたら、クリストフ様はやっぱりマリアナでの暮らしが合わなかったらしい。
正教会が色々とうるさいので、逃げてきたそうだ。
ここなら、人は近づけないもんね。
途中で買ってきた果物の籠をプレゼントしたら、古竜様もクリストフ様も喜んでくれた。
食料調達はどうしているのかと聞いたら、古竜様の背中に乗って探しに行くらしい。
まさに野生児。
「皆、元気そうじゃの。今日はわざわざどうしたのだ。こんなところまで、遊びに来たわけではなかろう?」
「古竜様、初めてお目にかかります。私はこの子たちの教師をしております、スワンソンと申します。生徒たちが大変お世話になったこと、感謝しております。実は、今日はお願いがあって参りました」
「瑠璃の宝珠じゃな?」
「はい、おっしゃる通りです……ですが、なぜそれを?」
「最近瑠璃の宝珠を探しにくる者が多くてのう。追い払うのが面倒でかなわん」
「それは、どのような者たちでしょうか」
「盗賊のような者もおれば、人間ではなさそうな者もおったぞ」
「その者たちは、宝珠を持って帰ったのでしょうか?」
「いや。宝珠はここにはないのだ。人があれを探しに行くのは無理じゃろう」
「ここにはないのですか……」
「あれが見つかるのは、このバルディア山の頂上付近じゃ。ちょうどあの封印の祠がある下あたりじゃのう」
古竜様の説明では、前回クレール神官に渡した宝珠は、封印の祠周辺の崖を崩しているときに、偶然見つかったものらしい。
瑠璃の宝珠は育つのに時間がかかるらしく、ひとつ見つかると、次が見つかるまで数十年かかるそうだ。
数十年ということは、前回の宝珠が見つかってから、また育っている可能性はあるかも?
「魔神がこの山の頂上に転移してきたのは、偶然ではなかったということですね……宝珠の力があったから、この世界への入り口ができたと考えられます。だとすると、次の宝珠をやつらの手に渡すことは、絶対にあってはなりません。探しに行きましょう」
「でも、先生……封印の祠ってあそこですよ?」
ニコラくんが祠のある断崖絶壁を指差す。
しかも、その断崖絶壁のどこにあるかは、わからない。
「あのあたり一帯を破壊すれば、出てくるかもしれんのう」
「いや、祠を破壊するのはまずいですよね? あそこには死霊の半身が封印されているので」
こっちで祠を破壊してしまったら、ポルトの森の魔獣の祠でオブジェたちが蘇ってしまうと、オーグストは主張する。
「場所さえわかれば、対策が考えられるかもしれませんが……」
「近くまで行ってみるといいじゃろうて。異世界の者が3人も揃っていれば、宝珠は反応するやもしれん」
やっぱりそういう話になりましたか。
しかもクリストフ様とエヴァ先輩と私は必須ということですね。
「古竜様、厚かましいお願いかと存じますが、私たちをあそこまで連れていっていただけないでしょうか」
「よいぞ。この者たちが力を持てば、クリストフの助けになるじゃろう」
「私もそなたたちへの協力は惜しみませぬぞ」
とりあえず、全員古竜様の背中に乗って、あの断崖絶壁を目指すことになってしまった。
想像しただけで怖いけど、行かないわけにいかないので、覚悟を決めた。