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調査団到着

 一週間ほど楽園生活を過ごして、精神が伸び切ったパンツのゴムみたいになった頃、バスティアンから調査団が到着した。

 久しぶりに気持ちを引き締めて、騎士服に着替えると、確実に太ったのがわかる。

 そろそろ訓練再開しないとまずいよね。

 学園に入って以來、緊張感のない日々を過ごしたのは始めてだった。

 なんせ王宮の離宮だもん。

 騎士団の警護付きで、完全に守られていて、なんの不安もない毎日。

 貴族の女の人ってずっとこんな生活してるのかと、うらやましく思ったりもしたけど。

 そろそろ退屈してきたかも。


 バスティアンからは、結構な人数の調査団がきた。

 第一騎士団はほぼ丸ごと50名ほど来たし、魔導士団はクロード団長含め10名ほど来た。

 第一騎士団は大神殿の復旧を手伝いつつ、細かいところを捜査するらしい。

 エヴァ先輩は、今日から騎士団に戻るそうだ。

 ちょっと寂しいけど、また私たちが重要な任務につくときには、護衛としてパーティーに戻っていいと言われているらしい。

 

「スワンソン先生!」

「皆、おとなしくしていましたか?」

「はい! 王宮から一歩も出てません!」


 もう肌艶ぴかぴかの、健康優良児です。

 ちょっと栄養過多ですけど。


 しばらく離れていただけなのに、スワンソン先生の顔を見ただけで、泣きそうだ。

 学園にいた頃、どんなに守られていたのか実感する。


「あなたたちを国外に出したら、また何かやらかすのではないかと心配していましたが、案の定でしたね。報告してもらわなければいけないことが山積みですよ」


 はい! 山ほどやらかしました!

 今はもう、スワンソン先生の小言ならいくらでも聞きます。

 小言にすら愛を感じる。


 スワンソン先生は学園があるので、来られるかどうか直前までわからなかったんだけど、なんとか都合をつけて来てくれた。

 古代魔法の第一人者といえば、スワンソン先生だもんね。


「私は取り急ぎ大神殿の方を見に行ってくるので、デルビーとプルマンは同行してください。あとの3人はモルガン騎士団長とクロード魔導士団長と一緒に、人に変化するという魔獣のところへ」


 私もスワンソン先生の方に行きたかったなあ。

 あの偽聖女様の顔はあんまり見たくないんだけど。

 レアナは久しぶりにクロード団長に会えてうれしそうだ。


「よっ! ちびっこ騎士たち。元気にしてたか?」


 モルガン団長はごきげんな様子だ。

 エヴァ先輩はおとなしく団長の後ろに控えている。

 第一騎士団は王宮の警護が多いので、普段めったなことでは国外に出られないらしい。

 今回調査団を派遣するという話になったときに、エヴァ先輩がいることを理由に、無理やり第一騎士団をねじ込んだと聞いた。

 表向きは調査団だけど、心の中は海外旅行気分かもね。


 リリト王国の騎士に連れられて、魔獣を管理しているところへ連れていってもらう。

 一般の牢屋ではなく、捉えた魔獣を訓練や研究用に入れておく場所があるらしい。

 ブリザードウルフのように魔法を使う魔獣もいるので、建物に魔力を遮断する結界を張ってあるんだそうだ。


「魅了のスキル持ちなんだろ? おっかねえよなあ」

「まずはこの目で見ないと、どのように変化するのか信じられないですね」


 クロード団長がすでに解毒薬の解析をして、作れるようになったそうだ。

 解毒薬というよりは、状態異常回復ポーションらしい。


 ウルフやマッドモンキーなどの檻に囲まれて、ひときわ大きな檻の中に偽聖女様はいた。


「あっ、冒険者さんたち! 待ってたのよ! 寂しかったあ」


 目にはサングラスのようなものを取り付けられている。

 なるほど、直接目を見なければ大丈夫ということか。


「普通の人間じゃないか……」

「見た目ではわかりませんね。これ、自在に変化させられるんですか?」

「少しお待ちください。メガネをはずさせるので、目を見ないようにしていてください」


 リリトの騎士が、檻の中に入ってサングラスをはずさせた。

 変化するたびに壊れたらもったいないもんね。

 『大猿になれ!』という掛け声で、偽聖女様は素直にメリメリと大猿姿に変化する。

 さすがにモルガン団長もクロード団長も、呆気にとられている。

 『戻れ』と言うと、またシュウウと人間に戻る。

 騎士は慣れた様子で、新しい囚人服をパサっと置いて、着替えるように命じている。


「もう、こればっかりやらされて、飽きちゃったあ。そろそろ出してって、冒険者さんたちから頼んでくれなあい? アタシ、聖女なんだからあ」

「とんだ聖女もいたもんだな」


 まったく悪びれない大猿女を見て、モルガン団長は呆れている。


「魅了と変化以外のスキルはないのですか?」

「こちらで調べたところ、回復は持っているようでが、攻撃系スキルなどはなさそうです。馬鹿力ですが」

「なるほど。討伐するのはそんなに問題なさそうですね。後はどうやって見分けるかということですか」


 リリト騎士の説明では、この偽聖女は生まれたときから、ゾルディアク教団本部で育てられたらしい。

 なので、本人も自分の出自はよく知らないようだ。

 どこからか連れてこられたのか、それとも人間と魔獣をかけ合わせて人為的に生み出したのか、クロード団長はそこが気になっているようだ。

 人為的に人間と魔獣をかけ合わせるなんて、想像もしていなかったけど、そんなことができるのだったら恐ろしい。

 偽聖女様が言うには、本部に自分と同じような大猿の魔獣はいなかったらしい。

 だけど、大猿ではなくても、魅了系のスキル持ちはいるかもしれない。


 あの時逃げた黒装束の男は、やっぱり幹部のひとりだということだった。

 つまり黒マントと同じような地位なんだろうな。

 人間の見た目だったけど、あれももしかしたら魔獣とか魔人とかの可能性あるよね。

 


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