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離宮は天国だった

 私たちが滞在を許可された離宮は、それはそれは素晴らしい施設だった。

 中庭には色とりどりの花が咲き乱れ、噴水やガゼボがある。

 私とレアナが1部屋、マルクとオーグストとニコラくんが1部屋。

 部屋には温泉と呼んでいいぐらいの広さのお風呂がついていて、高級な石鹸やら化粧品やらが並べられている。

 男子にはあまり興味ないかもしれないけど、私とレアナにとっては天国だ。

 メイドさんたちが着替えを用意してくれるし、高級なお菓子やお茶を持ってきてくれる。

 食事はいつもフルコース。

 食事中には、1人につき1人の配膳人がついている。

 これぞ貴族の生活なんだろうなあ。

 ニコラくんなんかは平然としてるけど、あとのメンバーは態度がぎこちない。

 

 リリト王国は西側が海に面しているので、海産物も豊富だ。

 魚料理が毎日出てくるので、マルクは喜んでいる。

 肉屋の息子なので、肉には飽きてるんだって。

 こんな怠惰な生活をしていたら絶対に太ると思うけど、この際太ってもいい!

 

 エヴァ先輩はリリトの王都に親戚がいるらしく、なかなか会える機会はないので、しばらくそちらに滞在するという。

 このまるで夢のような宮殿を、私たち5人で貸し切り状態だ。

 部屋はまだたくさんあるので、調査団が到着したら、一緒に滞在できるらしい。

 今はリリト王国の騎士団が警備してくれている。

 外に出るときには護衛をつけなければいけないので、観光に出歩くことはできないんだけど、この離宮なら何日でも閉じこもっていたい。

 国王からは別途報奨もいただいたんだけど、私たち平民にとっては、この離宮滞在が一番のご褒美だ。


 滞在中の着替えも用意してくれていて、私とレアナは若い人向きのドレスのようなワンピースだ。

 せっかくだから、レアナとふたりでとっかえひっかえファッションショーをしている。

 全部もらって帰ってもいいらしいんだけど、こんなのどこへ着ていくのって感じ。

 古着屋に売ったら高く売れるかも。


 ガゼボでのんびりお茶を飲んでいると、マルクとニコラくんがやってきた。

 オーグストはクレール神官と一緒に、神殿に行っているらしい。


「お! お前らもそうしていると、女に見えるぜ!」

「失礼ね! いつもは女に見えないっていうの!」

「怒るなよ。カワイイって褒めてるんだぜ?」

「私は……最初からカワイイもん」


 レアナはふくれっ面で反論しながら、ちょっと赤面している。

 マルクがよしよし、と頭をなでようとするのを、ペシっと振り払った。

 この2人の仲のよさは、時々あれ?っと思うことがある。

 考え過ぎかもしれないけど。

 

 前世の記憶で、年頃の男女がずっと一緒にバスに乗って旅行をするテレビ番組があった。

 何組かのカップルが誕生したり別れたりするのを覗き見するという、下世話な番組だ。

 私たちは寝ても覚めてもメンバーと一緒なので、あんな感じかもしれない。

 他に出逢いもないし、メンバー同士恋に落ちても不思議じゃないよなあ。

 まあ、マルクとレアナだったらお似合いだから応援するけど。


「ルイーズさんもよく似合ってますよ」

「ありがとう。お世辞でもうれしいよ、ニコラくん」

「僕はお世辞は言いませんよ」

「ニコラはあのとんでもない聖女様みてえのが好みかと思ったぜ!」

「全然好みじゃないです。僕は頭の悪い女の人は嫌いです」

「へえ、ニコちゃんは頭のいい女の人が好みなんだ!」

「そうですね。悪いよりは」

「それから? 頭がいい人なら誰でもいいの?」

「誰でもいいわけじゃないですよ。そうですね……強い人も好きです。剣が使える人とか」


 レアナにのせられて、ニコラくんが女の人の話をしている。

 ニコラくんのプライベートな話ってめずらしい。

 やっぱりみんな少しのんびりして気が緩んでるのかな。

 それにしても、賢くて強い人が好みなのかあ。

 うん、ニコラくんにはそういうご令嬢が似合うかも!

 

「そうなんだあ。でも、ニコちゃんぐらい頭がよくて強い人なんて、なかなかいないと思うけど」

「そんなことないですよ……その、いると思います」


 あれ、ニコラくん誰か想い人いるのかな?

 ちょっと顔が赤いけど。

 マルクとレアナがちょっと不思議そうな顔をして、顔を見合わせた。


「きっといるよ、ニコラくんに似合う人。 そんな人がいたら私も応援するからね!」

「え? あ……まあ。別に僕は一生独身でもいんですけど……」

「ニコちゃん、私にまかせて! 私が応援しちゃう!」


 レアナがなぜかニヤっと笑いながら、ニコラくんの背中をバシバシ叩いた。

 なんだろう。

 マルクがなんとなく憐れみの視線を向けているような気がするけど。

 

 私たちがお茶に誘うと、ニコラくんは持ってきた本を開いて勉強を始めてしまった。

 マリアナの骨董屋で見つけた古本だ。


「ニコラくんは、本当に勉強熱心だねえ」

「僕は大賢者にならないといけないですから。責任重大です」


 ニコラくんが言うには、生きている大賢者は、世界でひとりだけなんだって。

 知らなかったけど、それは責任重大だ。

 勇者ですら3人いるのに。

 大神官だって世界レベルで言えば今10人いる。


「そっか。確かにそれは責任重大かも。でも、あんまり無理しないでね」

「いえ。勇者の方がもっと大変です。僕はその隣にいるんだから、頑張らないと」


 うわーん。

 なんて健気なニコラくん。

 私ってなんて恵まれてるんだろう。

 こんな優しくて真面目で賢い仲間がいるなんて!

 


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