リリト国王
リリトの国王と謁見するために、王宮から迎えが来た。
クレール神官と私たちパーティーの7人だ。
クレール神官は大神官なんだけど、リリトではまだ正式に大神官とは名乗っていないので、一応まだ神官。
全員ややこしい身分の私たち。
一応、エヴァ先輩はバスティアン王国騎士団の正式な騎士なので、国王との話は任せてある。
こういうときに、パーティーにエヴァ先輩がいてくれて、本当によかったといつも思う。
学生5人だけだったら、頼りなさすぎる。
リリトの王宮は、柱に美しい女神の彫刻があったりして、なかなか芸術的な建物だ。
芸術がさかんなのかもしれない。
そういえば王都に着いたときに通った住宅街も、家がそれぞれ個性的で、美しい街並みだった。
「バスティアン王国の方々、このリリト王国へよくぞ足を運んでくれた。神官クレールを連れてきてくれたこと、人さらいを討伐し聖女を救ってくれたこと、心から礼を言う。働きに見合った褒美をとらせることにしよう」
「恐悦至極でございます、陛下」
「聞けば、そなたたちのほとんどがまだ学生だそうじゃな。真にバスティアン王国の教育制度は優れているのであろう。我が国も見習いたいものだ。ところで、今日わざわざ来てもらったのは、他でもない。昨年起きた我が国の大神殿襲撃について、聞きたいことがあるのだ」
「はい。私たちにわかることであれば、何なりと」
リリトの国王陛下は、貫禄があり落ち着いた雰囲気のお年寄りという感じだ。
すでに白髪まじりだけど、精悍な顔つき。
話し方から私たちへの好意が感じられて、マリアナのときみたいに利用しようとしているわけではなさそう。
今回の謁見は、私たち聖騎士が目的ではなく、国王はニコラくんに関心を持っている。
「そなたが大神殿で古代魔法陣の痕跡を発見した魔導士か」
「はい」
「して、その魔法陣は何をする目的だったのだ?」
「それはまだ……バスティアン王国の魔導士団が解析中でございます」
「しかし、そなたには予想がついているのではないか? 思うことがあれば申してみよ」
「あくまで、僕の予想でもいいのでしょうか」
「構わぬ。見つけた者の率直な意見を聞いてみたいのでな」
「僕は、あれは転移魔法陣の一種ではないかと考えています。あれだけの大きさの魔法陣を用いたのは、よほど大きなものを移動させようとしたか、もしくは大神殿の結界を破るのに、あのぐらいの力が必要だったのかもしれないです」
「では、大神殿の破壊が目的ではないと?」
「結果的に破壊してしまった、と考えています。恐らく魔法陣の起動に失敗したのではないかと」
「なるほどのう。起動に失敗するということもあるのか」
国王はニコラくんの淡々とした説明に感心しているようだ。
色々と質問をしては、説明に満足したようにうなづいている。
「次に、エテリ領の1件についてだが。魔物が人間に化けていたというのは、本当なのか」
「事実でございます」
「ふうむ……魔物が人間の姿に化けるなど、ゆゆしき事態じゃのう。それは、見分ける方法はないのか?」
「今のところは。今回の魔物は、あまり賢くなかったので、自分から正体を現したのです。攻撃してみれば正体を現すかもしれません」
「しかし、人間の姿をしているものを、むやみに攻撃するわけにもいくまい。困ったものよのう」
国王は、魅了のスキルを持っているものの洗い出しをして、そこからゾルディアク教との関連を調べるつもりだと教えてくれた。
『接客業ギルド』というのを作って、サービス業に従事している人を登録制にするという。
歌手や踊り子、水商売など、人気商売をしている人に登録証を作らせて、その時に魅了のスキル持ちを洗い出すということだ。
悪いことをしていない魅了持ちの人にとっては迷惑な話かもしれないが、いい案だと思う。
私たち冒険者だって、武器や攻撃魔法を持っているだけで登録制なのだ。
物騒なスキル持ちは登録制にしておくのがいいかもしれない。
面倒事を嫌う国王だとエヴァ先輩は言っていたけど、いざというときの行動力はあるみたい。
ただしこの案は、今回のように魔物が聖女様に化けていた場合なんかには通用しない。
聖女様は回復魔法を使えるというだけで、ほとんどノーチェックでどこへでも入り込める。
特に今なら聖女様不足が深刻だしね。
「いずれにせよ、我が国はゾルディアク教を国家反逆組織だと認め、解体させる必要がある。バスティアン国王にもお願いしておいたが、どうか力を貸してくれまいか」
「もちろんです。世界の平和のためですから」
「ところで、クレール神官よ。そなたがこのタイミングで我が国に赴任してきたことには、何か事情でもあるのだろうか」
「はい。私は聖剣の守り人であったため、勇者クリストフ様が帰還されたことで、その任務を解かれたのです。ちょうどよかったので、リリト王国への転任を申し出ました」
「そうか。クリストフの復活は事実であったか。しかし、そなたがこの国へわざわざ転任を希望したのはなぜだ」
「それは、私はもともとリリト王国の出身なのです。孤児になり、マリアナ中央正教会に拾われたのです」
「なんと、そのような事情であったか! 祖国への忠義、うれしく思うぞ。そなたには色々聞きたいこともある。枢機卿は秘密主義だからのう」
「私の知ることであれば、なんなりと」
どうやら、リリトの国王も、枢機卿にはあまり好感を持っていないようだ。
大神殿が破壊されたというのに、マリアナ正教会はまったく支援をしてくれなかったらしい。
それどころか、大神殿の警備がなっていないと、枢機卿からお叱りを受けたんだと。
バスティアンとリリト、マリアナは、3大大国として一応表面上は友好関係にある。
しかし、バスティアン国王に支援要請を送ったことを考えると、マリアナよりもバスティアンの方が友好国なんだろう。
「そなたたちの中には、聖騎士もいるのであろう?」
「はい、私たち2名は聖騎士です」
「中央正教会が他国の聖騎士を取り上げたという話を聞いたときは、なんということをするのかと思っておった。クリストフが生還したことは、幸運であったな」
「はい。私たちは必要なくなったので、国に帰るところでした」
「よいよい。騎士は自国のために働くのが仕事だ。せめてこの国でゆっくりしていくといいだろう。そなたたちは、王宮に滞在できるよう手配しておく」
私達は、調査団が到着するまでは、王宮内にある離宮に滞在することになった。
国賓が滞在するための施設だ。
国内の治安が悪化しているため、王宮で保護してくれるという。
スワンソン先生にもおとなしくしているように言われているし、めったにできない王宮ライフを体験してみるのもいいかもね。