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調査団の派遣

 黒装束の方を追っかけていったマルクが戻ってきた。

 店の裏手に倉庫があって、そこから転移魔法陣で逃げたらしい。

 オーグストに頼んで、応急措置で倉庫に結界を張ってもらった。


 袋詰の偽聖女様を騎士団にお届けしたとき、騎士団の人は最初、私たちの話を信用してくれなかった。

 とりあえず牢屋に入れてもらって、例の変身を見せてあげたら仰天していたけど。

 こんな魔獣を預けられても困るので、王都へ連れていってくれと言う。

 ものすごく嫌だけど、元々連れて帰るところまでが依頼だったので、仕方がない。

 

 しかし、人間に変身できる魔獣がいるというのは、結構衝撃だった。

 こんなのが他にも紛れていたら、スパイされ放題じゃん。


 酒場にいた男たち十数人は、結局洗脳された普通の人間だった。

 今はまとめて牢屋に入っている。

 地下の牢屋にいたのは、さらわれた聖女様が8人と、魔導士が3人。

 この人たちも、しばらくは騎士団で保護するそうだ。

 オーグストの状態異常回復を何度かかけたら、洗脳は解けた。

 相当強力な洗脳薬のようだ。

 私が買った『媚薬と解毒薬』の残りは、小さな入れ物に移し替えて、転移メモでスワンソン先生に送っておいた。

 バスティアンの魔導士団が分析してくれるそうだ。


 そんなわけで、私たちは袋入りの偽聖女様と一緒に馬車に揺られて、王都へ戻った。

 こんな依頼、追加報酬でも貰わないとやってられない気分だ。

 偽聖女様の『冒険者さあん』を聞くたびに、全員ため息をついてた。


 

 王都に戻って、まず私たちは騎士団に事情を話して、偽聖女様を引き取ってもらった。

 『騎士団の人の質問には必ず正直に答えるように』と言い聞かせておいたので、色々とゾルディアク教の情報がわかるかもしれない。

 

 それと、話し合って、リリトのゾルディアク本部には、今は深入りしないことにした。

 エヴァ先輩が、正面切ってゾルディアク教と戦うのはまずい、と言ったからだ。

 リリトはバスティアンやマリアナ正教国と違って、邪教の存在を黙認している。

 そのせいでこんなことになっているんだけど、それは国の責任だ。

 今回はたまたま偽聖女様が魔物だったが、他国から来た私たちが、リリトの一般平民であるゾルディアク教信者と戦うのはまずい。

 それは、スワンソン先生からも同じことを言われた。


 ゾルディアク教が満月に集会を開く可能性がある、というのが気になるけど、多分今のところ魔力持ちの数が足りていないんじゃないかと想像している。

 ゾルディアクの幹部だった黒マント2体は封印したから、それだけでも敵の魔力持ちは不足しているはず。

 今後またニコラくんが狙われる可能性もあるので、スワンソン先生に早く帰ってこいと言われてしまった。

 もうちょっと観光したかったのになあ。


 

 仕方がないので帰国の準備をしようとしていると、クレール神官が訪ねてきた。

 そういえば、ニコラくんが索敵のやり方を教えるって言ってたっけ。


 ……と思っていたら、クレール神官の用事は索敵魔法のことではなかった。

 大神殿の古代魔法陣の跡をニコラくんが見つけて、スワンソン先生に解析を頼んでいる件だ。

 そのことが国にも報告が上がっていて、さすがに国王も事が重大だと考えたらしい。

 よく考えたら、そうだよね。

 自国の大神殿が破壊されたのに、隣国が原因究明しているなんて、国の恥だ。

 私たちは、ゾルディアク教を追うことばかり考えていて、国交のことなんか全然頭になかった。

 それで、リリト国王がニコラくんに会いたいと言っているとのこと。

 なんでも、リリト王国には古代魔法の専門家がいないそうだ。


「僕は別に古代魔法の専門家というわけではないんですけど……」

「私は今後リリトの神官たちを教育していかなければならないのです。どうか協力してくれないでしょうか」

 

 クレール神官の真剣なお願いに、ニコラくんは嫌とは言えないようだけど。

 帰ってこいって言われてるしなあ。

 

 とりあえず、スワンソン先生に転移メモでクレール神官の話を伝えると、ちょうどスワンソン先生の方にもバスティアン国王から連絡があったみたい。

 リリト国王はきちんとバスティアン国王に使者を出したようだ。

 私たちに引き続き大神殿の調査を頼みたいと。

 

 ただ、リリト王国からの正式な調査依頼は、学生のニコラくんひとりではあまりにも荷が重い。

 それで、バスティアン王国は、正式な調査団を派遣することになったらしい。

 ゾルディアク教が魔神召喚の準備をしているというのは、例の『死霊のオブジェ』たちが自白済みだそうで、バスティアン王国の方が情報は正確に把握しているのかもしれない。


 それから、リリト国王との正式な謁見が決まり、数日後に私たちは王宮に招かれることになった。

 エテリ領での聖女様と魔導士救出の功績で、報奨もくれるらしい。

 マリアナ正教国と違って、リリトの国王は体裁を気にするようだ。

 エヴァ先輩の話では、貿易でリリトの経済状態を回復させた人で、年をとっているため面倒事を嫌う傾向はあるが、歴代国王の中では賢王だと言われているらしい。

 でないと国王なんて長く勤まらないよね。

 

 私たちの帰国は取りやめ。

 おとなしく騎士団を待っているように、とスワンソン先生に念を押されてしまった。

 


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