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ガープの酒場

 他に時間つぶしできそうな店はないかと、ウロウロしていたら、ニコラくんからまたメモが届く。


『お店 まだ遠い すぐ近く もうすぐつく 僕 お酒 飲めません』


 ニコラくんは精度が低いって言ってたけど、この自動書記は結構優秀だ。

 もうすぐ到着するみたいだから、物陰に隠れて様子を伺うことにする。

 ニコラくんに『店の外で待機中』というメモを送っておいた。

 この店の地下に、ゾルディアク教の拠点があるんだろうか。

 外から見ただけじゃわからないけど。


 しばらくすると、偽聖女様と3人が店に入っていくのが見えた。

 なんだか偽聖女様だけがはしゃいでいて、3人は渋々ついていってる感じ。

 しばらく様子を見ようと、待つこと約一時間。

 マルクがいい加減イライラし始めたときに、転移メモが届いた。


『まずい オーグスト 大丈夫か しっかり 緊急事態』


「なんかヤバいことになってそう!」

「突入するぞ!」


 店の中に入ってみると、偽聖女様もニコラくんたちも、姿が見当たらない。

 客が十数人入っているけど、みんな静かにお酒を飲んでるようだ。

 カウンターの中に店員が一人いる。

 昨晩の黒装束だ。

 

「なんだ? ここは子どもの来るところじゃねえぞ」

「あら。冒険者のお仲間さんじゃない。よくここがわかったわね」


 カウンターの奥から偽聖女様が現れた。

 ニヤリと悪そうな笑みを浮かべて、お酒のグラスを飲み干す姿は、別人だよ。別人。

 よくもあんなぶりっこ演技できたものだ。


「仲間はどこだ」

「どこだと聞かれて答えるほど、アタシお馬鹿さんじゃないのよねえ」


 ケラケラ笑っている。

 酔っ払ってるんだろうか。


「ほら、アンタたち、あの3人をやってしまいなさい!」


 偽聖女様が号令をかけると、店内にいた客が一斉にこっちを見た。

 全員目がすわっている。


「マリア様のご命令だ……」

「マリア様の言うとおりに……」


 まるでゾンビの集団みたいにぶつぶつ言いながら、こっちに向かってきた。

 これ、全員魅了されてるの?

 気持ち悪いんだけど。


「ちっ、なんなんだよ、こいつら!」


 相手が人間だからやりにくい。

 マルクとレアナが素手で相手してるけど、私は格闘技が得意じゃないんだって!

 仕方がないので、側にあったホウキで叩きのめす。

 私たちの攻撃力だと、いくら手加減しても一撃で気絶だ。


「ふうん。思ったよりやるじゃない。いいわ。アタシが相手してあげる」

「上等だ! かかってこいや」

「マルク! 目を見たらダメだよ!」

「おっと。忘れてたぜ」

「気付いてたんだ。どうりでアタシの誘惑がきかないと思ったわ。じゃあ、これならどう?」


 メリメリと音がして、突如偽聖女様が巨大化していく……

 ……大猿?

 みるみるうちに、2メートル以上ありそうな猿の化け物になった。


「ギャハハハハ。遊んであげる」


 猿女がマルクに飛びかかった。

 デカいくせに素早い。

 マルクが剣を抜いて斬りかかったが、猿女は自分に回復魔法をかけた。


「回復できるのよん。聖女様だから」


 やっぱり回復できるのか。

 マルクの通常攻撃でかなり深く切り込めたので、そんなに強そうじゃないけど……

 殺したらまずいかな?

 ニコラくんたちの居場所がわからないし。

 狭い室内なので、レアナも火魔法が使いにくそうだ。

 とりあえず麻痺させてみるか。

 

「雷撃剣!」

「ひやあああ。なにこれ。気持ちいいわあ」

 

 びくびく感電しながら、大猿は恍惚の表情になった。

 変態っ。


「雷撃剣、雷撃剣」

「うひゃひゃひゃあ」


 雷撃剣で攻撃し続けると、大猿は愉悦にまみれた表情で悶絶している。

 雷撃剣で喜ぶ魔獣なんて初めてだ。

 快楽に弱いタイプか。

 よだれを垂らしながら、床に寝そべってしまい、ぴくぴく痙攣している。

 

 そうだ。

 いいこと思いついた。

 実験台になってもらおう。

 

 口をあけて恍惚としている大猿女に、さっき買った媚薬を流し込んでみる。

 すると、大猿姿からシュウウ……と縮んで、元の偽聖女様に戻ってしまった。

 洋服裂けてますけど。

 変身する前に、そういうこと考えないんだろうか。

 偽聖女様のアラレもない姿に、マルクは目をそむけている。


「冒険者さあん? アナタ、いい女ね……」

「いや、気持ち悪いから」

「アタシ、何でも言うこときくわよお?」


 目を覚ました偽聖女様が、とろんとした表情でせまってくる。

 ヤバいヤバい。うっかり目を見そうになった。

 うわー。大猿の方がマシだったかもしれない。

 その時、カウンターの向こうで、黒装束の男が逃げようとしているのが見えた。


「マルク! 男が逃げる!」

「そっちはまかせた!」

「冒険者さあん?」

「ニコラくんたちはどこなの!」

「下よ、下。あっち」


 偽聖女様が奥を指さしたので、やっぱり地下があるようだ。

 

「ねえ、ルイ。こいつ、もういい?」

「うん、もういい」


 レアナが嫌そうな顔をして、偽聖女様を殴り倒した。

 急いで奥の階段を降りると、奥に牢屋がある。

 人が10人ほど閉じ込められているようだ。


「マリアさまあ……」


 うつろな目をしてマリアの名前を呼ぶ人たち。

 男も女もいるけど、魔導士や聖女様だろうか。

 気の毒だけど、この状態で牢屋から出してあげることはできない。

 

 牢屋の近くに床板がはがれる場所があったので、はがしてみたら、さらに地下に続くハシゴがあった。

 降りてみると、オーグストが倒れていて、ニコラくんと先輩がオロオロしている。


「オーグストっ! 先輩っ、ニコラくん! 大丈夫?」

「うん、僕たちは大丈夫なんだけど……」

「マリアちゃあん……ひっく」

「これ、どういうこと? オーグスト、洗脳されたの?」

「解毒の腕輪をどこかに落としてきちゃったみたいなんだよ」


 先輩の説明では、解毒の腕輪をしているので大丈夫だと思って、3人は怪しまれないようにお酒に口をつけたらしい。

 オーグストは腕輪を無くしたことに気付いていなかったらしく、酔っ払った上に、この状態になってしまったんだと。

 あいつらが酒に薬を混ぜて、洗脳してたのは間違いなさそうだ。

 

 さっき買った解毒薬、さっそく役に立つとは。

 効いてくれるといいけど。


「オーグスト、これ飲んで!」

「くすん……マリアちゃ……ゲホっ」


 無理やり口の中に流し込んだら、オーグストは一瞬で青ざめた顔になり、正気にかえった。


「俺……何してたんだろう」

「覚えてないの?」

「なんにも覚えてない……」


 オーグストが防御系スキル持ってるから護衛にしたのに、そのオーグストが魅了されてしまうとは。

 まあ、無事でよかったけど。


「冒険者さあん。どこにいるのお?」


 裂けた洋服をひきずりながら、偽聖女様が降りてきた。

 エヴァ先輩たちはドン引きしている。


「あの人、どうなってるんですか」

「うん、あの人っていうか……人じゃなかった」

「どういうことですか?」

「見てて。マリア、猿の姿に戻れ!」

「いいわよーん」


 メリメリと大猿姿に変化する偽聖女様を見て、3人とも目を剥いた。

 この姿を見たら百年の恋も冷めるよね。普通。


「変化できる魔物ですか……」

「そうみたい。人間の姿に戻れ!」


 シュウウと縮んで、偽聖女様に戻る。

 何でも言うこときくっていうの、本当だったなあ。

 これ、サーカスとか見世物小屋で人気出るんじゃないだろうか。

 とにかく、人さらいの重要参考人だから、騎士団に連れていかないといけないよね。

 仕方がないので、またゴミ用のマジカルバッグに袋詰めすることにした。


 1階にも十数人の洗脳された人たちが倒れてるんだけど、もうそこまで面倒見きれない。

 結局、ニコラくんに土魔法で店の入り口を封鎖してもらって、地元の騎士団に知らせることにした。

 


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