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裏通り

 宿屋の人が言っていた、『近づいてはいけない地域』に行ってみる。

 まあ、マルクが一緒なら大丈夫だよね。

 揉め事は避けたいけど、万が一戦闘になったとしても10人や20人なら、マルクがふっ飛ばしてくれる。

 だいたいマルクが大剣を背負ってる姿を見てケンカを売ってくる人がいたら、よっぽどツワモノか頭の悪い人だ。

 

 私の雷撃とかレアナの火魔法とかは、下手すると相手が即死してしまうので、人間相手には使いにくい。

 レアナのニードルショットなんかも、拳銃を隠し持ってるのと同じだしなあ。

 私も指先からちっちゃいエアスラッシュを出す練習でもしようかな。


「確かにこのあたりは、治安が悪そうだな」


 あたりを見回すと、浮浪者が多く、道にはゴミが散乱していて酷く汚い。

 並んでいるお店や家を見ても、貧民街なんだろうな。

 前方から酔っ払いのようにフラフラ歩いてくる男の人がいる。


「よう、兄ちゃんたち、薬いらねえか? 頭ぶっ飛ぶやつだぜ。嫌なこともみーんな忘れられるってえやつだ」


 あ、マルクに絡んでくる頭の悪い人がいた。

 ひょろひょろしていて、全然強そうな人ではない。

 手に薬の瓶を持って、見せびらかすように振っている。

 マルクはいきなり、その男の首をつかんで、片手で持ち上げた。


「く、苦しい……何すんだよう」

「ちょ、マルク! やめなよ!」

「どこで手に入れた! その薬は!」

「は、離してくれ……教えるから……」


 マルクが手を離すと、男はドサッと地面に崩れ落ちた。

 呼吸がぜいぜいと苦しそうにしている。


「お前はヤクの売人か?」

「ちげえよ。その辺を歩いてるやつに配れって言われただけだ」

「誰に?」

「この先の裏通りにガープってえ酒場があんだよ。薬配ったら酒飲ましてくれるんだよう」

「適当なこと言ってんじゃねえだろな?」

「嘘じゃねえよう……酒くれよ……」


 マルクが小銭を道に投げると、その男は小銭に飛びついた。

 道端に座り込んで、立ち上がる気もなさそうだ。


「行ってみるか?」

「うん……そうだね」


 あんまり行きたくない気がするけど、仕方ない。

 マルクの後ろについていく。

 女が歩いているだけで目立つのか、道にいる浮浪者たちがジロジロ見ている。


 男に言われた通り、裏通りに入ってみると、ぽつぽつと店の看板が出ている。

 安っぽい食堂らしき店や、生活用品を売っている店のようだ。

 酒場らしき店もあったが、まだ開店前なのか、営業している様子はない。


「ここじゃねえか? ガープって書いてあるぜ」


 狭い入り口の横に小さな看板があって、確かにガープと書いてある。

 店名の下には悪魔のような絵が描かれている。


「見てこれ。黒マントの片割れがこんなペンダントつけてなかった?」

「ほんとだ。この邪神の顔みたいなやつ、似てるよね」

「怪しいな」


 悪魔っぽい絵がみんなゾルディアク教とは限らないけど、わざわざ入り口にこんな絵があるなんて、きっとロクな店じゃない。


「開店まで待ってみるか」

「あ、ちょっと待って。ニコラくんからメモが来てる」


『お酒 いい店 知ってる ガープ 今から いいよ そこで マリア 案内』

 

 お酒を飲むならいい店知ってるよ。ガープっていうんだけど今から行ってみない?

 いいよ、そこで。マリアちゃん案内してよ。

 ……っていうような会話かな。推測するに。

 どこがいい店なんだと言いたいけど。


「どうやらこの店みたいだね」

「来るんなら、どっかで待つか」

「待つって言ってもねえ……」


 あたりは浮浪者だらけだし、そろそろ暗くなってきた。

 店の中に入って待つわけにもいかないしなあ。


「あそこ、骨董屋みたいじゃない? 時間つぶしに入ってみる?」


 レアナが道の向かい側に、ちょっと変な店を見つけた。

 壺とか置物とかが並べてあるのが見える。

 他に案もないので、入ってみることにした。


「いらっしゃい」


 中から怪しい雰囲気の老婆が出てきた。

 フード付きのマントをはおっていて、いかにも魔女だ。

 マルクの大剣を見つけた盗品屋のおじさんも怪しかったが、あっちの方がまだ商人っぽかった。


「何かお探しかい」

「いえ、別に。もしかしたら武器とか装備品とかないかなって……」

「あんたたち、このへんのもんじゃないね。誰に聞いてきたんだい」

「たまたま、です。その、ちょっと迷ったというか」

「ふん。まあ、いいさね。金持ってるなら、なんか買っていきな」


 なんかと言われても……

 置いてあるものは、古くて何に使うのか用途のよくわからない道具ばかりだ。


「若いお嬢さんにはとっておきの薬もあるよ。これが目的じゃないのかい?」


 老婆は頼んでもいないのに、棚から薬瓶のようなものを取り出して、ニヤニヤしている。


「なんですか、これ?」

「媚薬だよ。そっちのお兄さんに飲ませたら、たちまちアンタに夢中さね」

「び、媚薬っ?」


 レアナは引いてるけど、ちょっと気になる。

 さっきの酔っぱらいが持ってた薬瓶に似てるような気もするけど。

 ちょっとカマかけてみようかな……


「アタシは欲しいかもー。落としたい男がいるしねえ」

「ちょっと、ルイ……」

「おや、いい男がいるのかい? これはよく効くよ」

「効き目はどれぐらいもつの?」

「そりゃあ、一度飲んだら一生アンタの虜さね」

「ほんと? じゃあさ、もしその男に飽きたらどうしたらいいの?」

「そんときゃあ、こっちの解毒薬を飲ませりゃいい。きれいサッパリ元通りさ」


 うーん、一生効果が続くなんて怪しいけど、解毒薬の方が気になる。

 あったら何かの役に立ちそうな。


「アタシねえ、気になる男が何人かいるんだけど、在庫はたくさんあるの? 解毒薬もセットで」

「おやまあ、お盛んだねえ。在庫はあるよ。買うのかい?」

「うーん。どうしよっかな。それ、体に悪かったりしない?」

「元気になることはあっても、体に悪いことなんかないね。何でも言うことを聞くようになるってだけさ」

「わかった! 買っちゃう」

「ありがとうよ」


 老婆は無造作に薬瓶を紙袋に入れた。

 思ったより値段は安い。

 マルクとレアナは、私がお芝居をしていることには気付いているみたいで、黙って見ている。

 他にめぼしいものもなさそうなので、お金を払って店を出た。


「ルイ、なんでそんなもの買ったの? ほんとに使うつもり?」

「まさか。欲しかったのは解毒薬の方だけなんだけどね」


 敵が薬を使ってるっていうことがわかってるから、何かあったときの保険だ。

 何でも言うことを聞くようになるって、口をすべらせてたけど、それって媚薬じゃなくて洗脳だよ。

 後でニコラくんに調べてもらおう。



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