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ニコラくんの発明品

「話はわかった。で、どうするよ?」

「今んとこ大きな被害はないし、様子見?」

「一応ギルドの依頼だしねえ」

「ただ単にあの人が男あさりしてるっていう可能性もあるよ」

「実はさっき、僕、ちょっとしたものをあの人の部屋に仕掛けてきたんですけど」

「何?」

「これです」


 ニコラくんが取り出したのは、転移メモだ。


「前に自動書記機能つきのメモを開発してたんです。メモをとれないときに役に立つかと思って、持って歩いてたんですよ」

「何それ? 自動書記?」

「聞こえた単語を勝手にメモしてくれる機能です。まあ、精度は低いんですけど」


 ニコラくんが実演して見せてくれた。

 聞こえた、単語、勝手に、メモ、機能、精度、低い、などと次々に単語が勝手にメモされていく。

 

「それを聖女様の部屋に仕掛けてきたの?」

「一定時間が立つと、僕の転移メモに転送されてきます」


 ひとりでそんなことやってたなんて、ニコラくんは本当に天才!

 録音という概念がないこの世界では、唯一の盗聴手段かも。

 みんなで感心してニコラくんの転移メモを見ていたら、さっそく一枚のメモが届いた。


「魔導士 逃げられた 大丈夫 明日 例の場所 必ず 気付かない 酒場 地下 拠点 」


 うわあ。怪しさ満載。真っ黒じゃん。

 例の場所っていうのは、明日行く病人の家だろうか。

 酒場 地下 拠点っていうのはなんだろう。


「今しゃべってるってことだよね? 部屋に誰かいるのかな?」

「扉を開けたらわかるように、魔力感知の糸を張ってきたんですけどね」


 もしかして、鍵穴のぞいてたのはそれだったのか。

 探偵になれそう。

 あ、次のメモが来た。


「失敗 許されない 満月 集会 間に合わない 生贄 聖女 無理やり 薬」


 なんだか最後の方に物騒な単語が並んでいる。

 なんの薬だろう。


「部屋に行ってみようか。お茶でもどうですかあ?みたいな感じで」

「こんな夜中に?」

「じゃあ、私たちの部屋だったら、声聞こえるかもよ? 壁薄いし」

「よし、行ってみようぜ」


 全員でこそこそ移動しようとしていると、聖女様の部屋から男が出てきた。

 あわてて隠れたのでちらっとしか見えなかったけど、黒装束だった……

 嫌な予感しかしない。

 男を追いかけようかとも思ったけど、聖女様を泳がせて拠点とやらを突き止めた方がいいとエヴァ先輩がみんなを止めた。


 夜中に何か起きるかもしれないので、その晩は全員私達の部屋で寝ることにした。

 狭いけど仕方ないので、男子たちは床で寝てもらおう。

 

 

 そして翌朝、聖女様はしれっとした顔で現れた。


「おはようございまーす。皆さんどこに行ってたんですかあ? 探しちゃいました」

「ああ、ごめんね。僕らはいつも早朝から打ち合わせをしているんだよ」

 

 エヴァ先輩がにこやかに返事をする。

 何かをごまかすときの先輩のキラキラ笑顔は本当に役に立つなあ。さすが貴族。

 本人もわざとやってると思うけど。

 

 私たちは何も知らない演技をしているが、顔に出やすいのはマルクとオーグストだ。

 聖女様を見ただけで、複雑な表情をしている。

 そりゃあそうだよね、ニコラくんを騙して誘惑しようとしてるんだし。

 

 今日の聖女様対策。

 ニコラくんは『状態異常耐性の腕輪』を身に付けている。

 全員『解毒の腕輪』を身に付けている。

 これは、バルディア山に行く前に、ニコラくんが作ってくれたやつだ。

 昨日の転移メモに、『薬』という単語があったので、念のため。

 

 メンバーが魅了されてしまう可能性もあるんだけど、聖女様の目を直接見なければ大丈夫だとニコラくんが言っていた。

 そういえば、なんか目を見ると石にされるとかいう化け物がいたような。

 メデューサだっけ?

 玉ねぎ大嫌いなニコラくんが美味しいと感じてしまうぐらいだから、地雷女が大嫌いな私でも危ないよね。気をつけないと。


「今日は、病人のいる家に行くんだよね?」

「えっと、それがあ……行かなくてもよくなっちゃったんですぅ」

「え? なんで?」

「病気の人が昨日死んじゃったらしくてえ。間に合わなかったみたい。えへへ」


 まったく、どういう神経してるんだろう、この女。

 そこ、笑うとこ? 患者さんが亡くなったのに。

 こんな人が聖女様だったら、世も末だ。


「それは残念だったね。じゃあ、1日早いけど帰れるんだね?」

「あっ、えっと、皆さん観光してるって言ってたから、今日は観光でもどうかなって。せっかくこんなところまで来たんだし」

「うーん。僕らは依頼を受けてる最中だからね。観光は遠慮しておくよ」

「ええーそんなこと言わなくても。ちょっとぐらいいいじゃないですかあ! ねえ、魔導士さんだけでも行きましょうよ」


 またしてもニコラくんの腕に絡みつく聖女様。

 昨日はちょっとイラっとしたけど、ハニトラだとわかってたら冷静に観察できる。

 バカっぽい女を演じてるみたいだけど、目が笑ってない感じだ。


「僕は行ってもいいですよ」

「お、俺も……別にいいぜ」

「私とレアは観光よりショッピングの方がいいかな」

「俺は観光に興味ねえから武器屋に行くぜ」

「じゃあ……僕たち3人だけでもいいかな?」

「もちろんですぅ! じゃあ、マリア、支度してきますねっ!」


 ニコラくんと聖女様がふたりきりにならないように、オーグストとエヴァ先輩が護衛。

 これも打ち合わせ済みだ。

 病人の家に行くのに6人も護衛は要らないと言われたら、そうするつもりだった。

 全員魅了されても困るしね。


 ニコラくんたちが観光に出発したのを見届けて、私たちは情報収集することにした。

 昨日のメモにあった『酒場 地下 拠点』の下調べだ。

『満月 集会』も気になるが、次の満月はまだ先なので、とりあえず保留。

 

 この近辺の酒場で、地下がありそうな場所を探す。

 それと、ゾルディアク教の支部がないか探ってみることにした。

 宿屋で聞いてみたところ、旅行者にオススメの比較的安心な酒場は2軒。

 ショッピング街の中にあるという。

 それと、旅行者があまり行かない方がいいという地域も教えてもらった。

 いわゆるダウンタウンで、浮浪者や犯罪者の多い地域だ。

 そのあたりにも、酒場は何軒かあると言う。

 どっちかというと、そっちが怪しいよね。


 ショッピング街の方の2軒は昼間でも営業しているというので、まずは行ってみることにする。

 外から見た感じ、お洒落なカフェ風だし、全然怪しそうな雰囲気はない。

 入ってみて昼ごはんを食べながら、中も観察してみたけど、地下などなさそうだ。

 こういう時、索敵ができたら便利なんだけどな。

 ニコラくんに教えてもらっとくべきだった。


 もう1軒の方にも入ってみたけど、やっぱり地下などなさそう。

 となると、やっぱりダウンタウンの方だ。


「ねえ、魔導士を狙う理由って、なんだと思う?」

「聖女様をさらいすぎていなくなっちゃんたんじゃねえの?」

「てことは、魔力があれば別に聖女様じゃなくてもいいってことだよねえ」

「魔導士は攻撃魔法使えるからなあ。単純に聖女様の方がさらいやすかった、ってことかもな」

「となると、やっぱり敵の目的は古代魔法陣かあ」


 レアナの言う通り、ゾルディアク教が魔力持ちを集めている理由は、古代魔法陣を起動するためだと考えるのが自然だ。

 一度大聖堂で失敗しているので、魔導士が不足しているのかもしれない。

 聖女様って、魔力は持ってるけど、魔力量少ない人も多いしね。

 

 それと、昨日のメモにあった生贄という単語。

 古代魔法陣に生贄とくれば、魔神召喚だ。

 それがゾルディアク教の教義だと、スワンソン先生も言っていた。

 満月に魔力が高まることを考えると、満月の日に集会があると予想できる。

 魔神召喚の儀式で、この世界に魔物を呼び込んだということは、文献にも残されている。

 その時に、多くの聖女様が生贄として犠牲になったという話は有名だ。


 できることなら、さらわれた人たちの居場所を突き止めたいけれど。

 ここはリリトだから。

 いざという時に助けてくれる、騎士団や先生たちがいるわけじゃない。

 私たちだけで、何ができるんだろう。


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