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聖女様

 人さらいを討伐した報酬を貰えるというので、冒険者ギルドへ行ってみることにした。

 働いたんだから貰えるものは何でももらっておかないとね。

 

 そういえばマリアナ正教会は、わざわざ封印の祠まで行った私たちに、何の報酬も払わなかった。

 確かに討伐したのはクリストフ様だけど、あれだけの働きで無報酬っていうのはどうかと思う。

 古竜様からご褒美たくさん貰ったからいいけど、それとこれとは別だしね。

 バスティアン王国に帰ったら、しっかり国王様に報告しよう。

 マリアナ正教会はケチだと。

 クレール神官が言った通り、他国の者に情などないんだろう。


 ギルドへ行ってマリアナで作った冒険者証を出すと、なんと全員Aランクに昇格していた。

 マリアナでは私たちが祠へ行ったことは公表していないのに、どういうことだろうと思ったら、バスティアン王国のギルドから届け出があったそうだ。

 たぶん、黒マントたちを捕獲したからかな。

 これで、私たちはAランクパーティーになった。

 ずっと前に、学園にいる間にAランクパーティーを目指そうって、みんなで約束したっけ。

 思ったより早かった。

 卒業までにSランクを目指せたりして。

 

 エヴァ先輩はFランクからいきなりAランクに昇格だ。

 冒険者のランクなんて、実はいい加減なものなのかもしれない。

 一度昇格したら、よほどの依頼失敗とかが続かない限り、降格することはないようだ。


 冒険者証を更新するかと聞かれて、ランクのところだけ書き換えできるか聞いてみた。

 そしたら、ハンコのような魔道具で『B』を消して、『A』のハンコを押してくれた。

 別に登録さえAランクになっていれば、冒険者証がBのままでもいいんだけど、Aの方が見栄えがいいもんね。


 報酬をもらったついでに、せっかく来たので、討伐依頼を物色してみる。

 特にすることもないし、Aランクぐらいのモンスターなら、訓練がてらに引き受けてもいいかも。

 新しい装備も色々手に入ったから、試してみたい。

 王都周辺にはそれほど強い魔獣はいないみたいで、角ラビ討伐の依頼なんかもあった。

 懐かしいな。


「やっぱり聖女様の護衛が多いねえ」

「そりゃあ、あれだけ堂々と狙われたら怖いよね」

「あ! これ見て! すごく報酬いいじゃん」

「ほんとだ。貴族様かな?」


 その依頼は、ランクは問わないらしいが、妙な但し書きがついていた。

 『魔導士含むパーティーに限る。学生可』


「どういうことだろ?」

「敵に魔物がいるってことかも」

「でも学生可だよ? ランク問わずだし……敵に魔人とかいたら危ないよね」

「私たちを襲ってきた人たちみたいのだったら、楽勝なんだけどなあ」


 行き先は王都の少し北にあるエテリ領で、往復3日間の依頼だ。

 道中に魔獣でも出るのかもしれない。

 王都以外の場所も見てみたいし、引き受けてもいいかも。


「ニコラくんはどう思う? 魔導士必須みたいだけど」

「いいんじゃないですか? 学生可って書いてあるんだし」


 エヴァ先輩は気が進まないみたいだけど、他のみんながOKだったので依頼を受けることにした。

 病人が待っているとかで、すぐにでも出発したいらしく、翌日の朝ギルドへ集合することになった。

 リリトにはAランクパーティーが少ないらしく、ギルドの人は喜んでくれた。


 翌朝、ギルドを訪れると、依頼者の女の子が待っていた。

 お貴族様なら侍女とか従者とか連れてるのかと思ったら、ひとりだ。

 私達と同じような、10代ぐらいに見える。

 さすがに若い女の子がひとりで隣の領まで行くのは無理があると思うけど。

 何か事情でもあるんだろうか。


「冒険者の皆さん、護衛を引き受けてくださってありがとう! 私はマリアンヌっていいます。マリアって呼んでください」


 この話し方はお貴族様ではなさそう。

 しかし、聖女様でマリア様か。

 ま、覚えやすくていいけど。


「王都の北側は、シルバーウルフが出るっていうから、怖くってえ。でも、皆さん強そうだから、マリアうれしいっ!」


 あ、このタイプ、私苦手だ。

 いい年して自分で自分の名前を呼ぶタイプ。

 なんか、本物のマリア様を冒涜されているような気分。

 

「シルバーウルフ程度なら安心していただいて大丈夫ですよ。では出発しましょうか」


 エヴァ先輩のキラキラ笑顔に、マリア様は目がハートになっている。

 もうこの依頼人の相手は、エヴァ先輩に任せよう。

 エヴァ先輩って誰にでも優しいもんね。表向きは。


「あっ、あなたが魔導士さんね? 素敵っ! マリアのこと、よろしくね!」

「は、はあ……よろしくお願いします」


 聖女マリア様は、ニコラくんの腕にしがみついて、体をぐいぐい擦り寄せている。

 ニコラくんは、困ったように顔を赤らめている。

 ダメだ。地雷女だ。

 もしかして、魔導士好きで、婚活でもしているんだろうか。

 顔はカワイイけど、ニコラくんがこんな人が好みだったら、ちょっとヤだな。

 ニコラくんは、私たちの心の癒やしなのに。


 聖女様はエヴァ先輩とニコラくん以外には興味がなさそうで、ニコラくんの腕をひっぱってさっさと歩き出した。

 護衛対象が聖女様なので、私やオーグスト、エヴァ先輩は騎士で通すことにした。

 メンバーに3人も回復役がいるなんて知れたら、かえって狙われそうだし。

 全員冒険者風の装備なので、聖騎士とか神官がいるなんて思ってないよね。

 レアナだってそこいらの魔導士よりよっぽど能力高いけど、わざわざ自己紹介する気はなさそうだ。


 街外れの乗り合い馬車の乗り場へ行って、馬車でエテリ領まで移動する。

 エテリ領へは、毎日2便、定期馬車があるようだ。

 幌のついた大きめの馬車に、荷物と一緒に詰め込まれるように乗った。

 荷馬車だね、ほとんど。


「皆さんは学生さんなんですかあ?」

「マリアナから別の人の護衛でリリトに来てね。ついでにリリト観光しているところだよ」


 こういう誤魔化し方は、エヴァ先輩がうまい、ということはもうみんな知っている。

 余計なことを言わないように、マルクなんかは一言もしゃべっていない。

 いつもはにぎやかなレアナもおとなしい。

 ニコラくんはマリア様の隣に詰め込まれて、小さくなっている。


 はっきり言って、この護衛、先輩とニコラくんだけでよかったよね。

 6人もぞろぞろ着いてこなくても。

 お金払ってくれるからいいけど。

 


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