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リリト大神殿

 リリト王国の王都は、バスティアンの王都に比べると、静かな街だ。

 色とりどりのお洒落な家が立ち並ぶ住宅街を抜けると、大きな広場があって、その周辺に市場が広がっている。

 夕方になってしまったので、お店は閉まりかけていたけど、中心部はそれなりに活気があるようだ。


 まずは、人さらいを騎士団に預ける。

 表向きは護衛としてついてきた冒険者パーティーということにして、クレール神官から説明してもらった。

 特に疑われることもなく、簡単な書類を書かされて、後日冒険者ギルドで報酬を受取るようにと言われた。

 人さらいを討伐したら、報奨金がでるらしい。

 袋入りの6人を渡したら、騎士団の人はゲラゲラと笑っていた。

 マジカルバッグは返してもらったけど、もうこの袋はゴミ専用にしよう。

 クレール神官は、正教会が用意した職員用の宿舎に向かうというので、私たちはそこで別れて、騎士団の人に紹介してもらった宿に向かった。


 それにしても、回復魔法を使っただけで狙われるなんて、リリトの聖女誘拐は相当深刻みたいだ。

 どうやって私たちがデルフォリ村にいることを知ったのかも気になる。

 教会内部にスパイでもいるのかな。


 

 翌日は、まず壊滅したというリリト大神殿の様子を見に行くことにした。

 すでに、クレール神官が案内のために待ってくれていた。

 

 神殿へ案内してもらう途中、昨日の人さらいたちの話になったんだけど、騎士団の人の話では捕まった6人は盗みなどの前科があるわけでもなく、普段は普通に働いている人たちだったそうだ。

 酒やバクチなどの悪さはしても、人をさらうような人たちではなさそうだったらしい。

 何か弱みを握られていたり、脅されていたりする可能性もあるみたい。

 中には『なぜこんなことをしたのがわからない』と言っている人もいたそうだ。

 一瞬『洗脳』という可能性を考えたけど、洗脳だったらそんなに簡単に解けたりしないよね。


 リリトの元大神殿は、建物の一部を残して、ほぼ全壊していた。

 今はその残った部分を仮の礼拝堂にして、復旧作業中らしい。

 一番被害が大きかったという大聖堂のあった場所に行ってみる。


「ありますね、なんだかこのあたりに」


 ニコラくんが魔法の痕跡を復元すると、大きな魔法陣の跡が浮かび上がった。

 いつものように、縮小してノートに複写して、スワンソン先生に送ると言う。

 ということは、古代魔法陣だよね。


「だけどさあ。あいつらだったら聖結界、通れないんじゃないの? 大神殿なら、かなりしっかり結界張ってたはずだけど」


 あいつら、というのは死霊とか魔神の類だ。

 あの黒マントたちは、『ゾルディアクを統べるもの』だと言ってたから、ゾルディアク教には他にもああいうのがいるかもしれない。


「このぐらい大きさの古代魔法陣だと、普通、人間では扱えないと思うんです。ただし、魔力の強い人が10人ぐらい集まったら可能かもしれませんね」

「ゾルディアク教信者に魔導士が大勢いるなら、可能ということか」

「人間なら聖結界通れますしね」


 つまり、可能性としては人間が10人ぐらい忍び込んで、ここで古代魔法陣を発動させて、大神殿を吹っ飛ばしたということ?

 なんのためにそんなことするのかよくわからないけど、だとしたらその10人はどこへ行ったんだろう。

 死んだなら遺体が残ってそうなものだけど。

 クレール神官の話では、夜間だったので神殿の中に人はほとんどいなくて、怪我人が数人出ただけらしい。

 その怪我人は長年勤めている神殿の職員で、特に不審な者ではないそうだ。


「とにかく、この古代魔法陣の解析をスワンソン先生にお願いしましょう」


 ニコラくんは大神殿跡を念入りに索敵していたが、古代魔法陣の痕跡があったのは大聖堂だけのようだ。

 

「あの……マリアナの大神官たちが関わっている、という可能性は?」


 クレール神官は、古代魔法陣ということでマリアナの大神官たちを疑っているらしい。


「それはないと思います」

「どうしてでしょう?」

「あの大神官たちは、8人がかりで大神官の儀式をやっていたけれど、途中で魔力切れになってる人もいましたよね? この大きな古代魔法陣をあの人たちが起動するのは、恐らく無理です」

「しかし……大神官にもできないことをできる人間など、いるでしょうか」

「僕たちとクレール神官なら5人でもできますよ? たぶんね」


 ニコラくんはいたずらっぽい笑顔を浮かべた。

 そうだった。私たち、5人であの儀式の魔法陣使えたもんね。

 

「ねえ、ニコラくん。私たちがマリアナ正教会で古代魔法陣に魔力を注いだときって、失敗してふっ飛ばされたよね? ああいう可能性はない?」

「ああ、なるほど。本当は神殿を壊すつもりではなくて、魔法陣の失敗で吹っ飛んだという可能性は……あると思います」

「俺が思うに、聖結界と古代魔法陣の相性が悪いんじゃないかな? 失敗するとしたら」

「確かに。オーグストの聖結界と転移魔法陣も相性悪そうでしたもんね」


 あの聖結界にはさまった黒マントたちを思い出して、一瞬笑いがこみ上げた。

 魔法陣に失敗して神殿を吹き飛ばしてしまった、と考える方が自然かも。

 でないと、神殿を壊すメリットがなさそう。

 結局、聖剣はマリアナ正教会にあったしね。


「クレール大神官。僕は索敵で古代魔法の痕跡を感知できるんですけど、そのやり方を覚えておいた方がいいと思います。今後のためにも」

「わかりました、大賢者様」


 クレール大神官が茶目っ気たっぷりに微笑むと、ニコラくんは一瞬目を大きく見開いて、それから顔が赤くなった。

 もうそろそろ慣れたらいいのに。大賢者。



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