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勇者の帰還

「助けていただいて、かたじけない」


 まだわけがわからない様子のクリストフ様が、皆に頭をさげた。


「何言ってるんですか! クリストフ様がいたから、世界は救われたんですよ!」


 オーグストがクリストフ様に、現状を簡単に説明した。

 剣の封印は100年しかもたなかったこと。

 剣が劣化して、魔神が復活する可能性があったので、私たちが来たこと。


 クリストフ様は、魔神と戦っている最中に封印をしようとしたところまでは覚えているけど、そこで記憶が途切れているようだ。

 これからどうするんだろう。

 浦島太郎状態だよね? 知ってる人もいないだろうし。

 とにかく、事情を説明しないといけないので、私たちと一緒にマリアナ正教会へ来てもらうことにする。


 じゃあ、帰ろうかというときに、クリストフ様がニコラくんの持っている古竜の呼笛に気付く。

 懐かしいものを見るように、笑顔になった。


「それは、竜笛であるな? 古竜殿は元気なのであろうか?」

「元気ですよ。僕たちここまで送ってもらったんです」

「それはよかった。その竜笛は討伐前に私が古竜殿にお返ししたものだ」

「そうなんですね。では、これはクリストフ様にお返しします」


 ニコラくんが首にさげていた笛をクリストフ様に差し出すと、クリストフ様はうれしそうに受け取った。


「生きて古竜殿にまた会えるとは……」


 クリストフ様が笛を吹くと、古竜はすぐに飛んできて、目の前に舞い降りた。


「クリストフよ! 生きておったのか!」

「古竜殿! この者たちが封印を解いてくれたのです」

「そうかそうか。よかったのう。お前たち、魔神は討伐できたのか?」

「はい! 討伐しました! あ、いえ、クリストフ様が!」


 エヴァ先輩は『クリストフ様が』を強調している。

 もうこの筋書きでいくわけね。

 実際、とどめをさしたのはクリストフ様だし。

 クリストフ様だって、因縁の相手を討伐できたんだから、溜飲が下がったんじゃないだろうか。


 古竜様はクリストフ様に顔を寄せると、涙をこぼした。

 本当に仲がよかったんだね。

 クリストフ様にも知り合いがいてよかった。

 

「では、ふもとまで送っていこう。皆、背に乗るがよい!」


 うえええ。

 気が進まないけど、仕方がない。

 クリストフ様は慣れているのか、意気揚々と古竜に登っていく。

 そして私たちは、再び古竜に乗って急降下して、吐いた。



 古竜はいったん巣に戻って、私たちに金銀財宝を分けてくれた。

 クリストフ様を助けたお礼だそうだ。

 封印の祠に向かうときは、余計な荷物は持たないようにしていたんだけど、今回は遠慮せずにもらうことにする。

 私とレアナは、とにかく宝飾品っぽいものをマジカルバッグにつめこんだ。

 どんな効果があるかは、帰ってからゆっくりニコラくんに調べてもらうことにして。

 マルクたちは武器や防具を物色している。

 金銀や食器のような装備品以外のものもたくさんあったけど、そういうのは置いていくことにした。

 クリストフ様が、これから暮らしていくのに、お金は必要だもんね。


 古竜は、これからも祠に人が近づかないように守っていくらしい。

 まあ、近づけと言われても、あの断崖絶壁じゃ無理だと思うけど。

 私たちには、またいつでも遊びにきていいと言ってくれた。

 なんならバスティアン王国まで送っていこう、と言われたが、それは丁重にお断りする。

 私たちは、クリストフ様と一緒に徒歩で山を降りて、マリアナ正教会を目指すことにした。


 道中、クリストフ様から100年前の話を色々と聞いた。

 100年前は、私たちのように個人で魔法を使ったりしていなかったそうだ。

 魔法といえば、神官が数人がかりで魔法陣を使って行うものだった。

 人が使える魔法は、回復魔法とちょっとした生活に使う火魔法ぐらいだったらしい。

 

 クリストフ様が魔神討伐に選ばれたのは、魔力量が人よりも多く、単独で封印できるのはクリストフ様しかいなかったから、という話だった。

 そして、念のため大神官が付き添っていたらしい。

 その大神官の行方はもう知る術はないけれど。

 扉に封印がかかっていたことを考えると、封印して逃げたのかもしれない。

 

 クリストフ様は、私たちが攻撃魔法を使えることに、かなり驚いていた。

 100年の間に魔法はずいぶん研究されて、進化したみたい。

 そして、100年前は魔神もそれほど強くなかった、ということが判明した。


 当時の正教会が、クリストフ様を意図的に犠牲にしたのかどうかはわからない。

 あまり魔法の研究が進んでいなかったようだから、単に聖剣の制作に失敗したのかもしれないし。

 だけど、今回のマリアナ正教会は、私かエヴァ先輩のどちらかを意図的に犠牲にしようとした。

 絶対いつか仕返ししてやる。

 あの枢機卿の古狸め。


 

 マリアナ正教会へ戻ると、教皇は驚いていたが、クリストフ様の帰還を喜んでいた。

 これで、マリアナ正教国に正式な勇者が誕生したんだもんね。

 しかも、全世界の英雄の帰還だ。

 さっそく国をあげて、クリストフ様の帰還パレードを行うことになったようだ。


 私とエヴァ先輩は教会に聖剣を返して、『魔神を討伐したのはクリストフ様』を強調しておいた。

 この筋書きに、教会側も納得したようだ。

 多分、私とエヴァ先輩が勇者だったことは、なかったことにするんじゃないかな。

 マリアナ正教国にしたらクリストフ様がいる以上、勇者が何人もいない方がいいはず。

 物語って、こうやって創られるものなのね。


 ところで、戻ってからスワンソン先生に連絡をしたら、意外な事実がわかった。

 黒マントたちの上半身の行き先は、ポルトの森の魔獣の祠だったようだ。

 騎士団が調査中に突然現れたらしく、壁から顔が生えているので『死霊のオブジェ』と呼ばれているらしい。

 今はスワンソン先生が絶賛拷問中だって。

 下半身は聖結界に挟まれたまま、封印してきたことを説明したら、オーグストはすごく褒められていた。

 転移魔法陣を無効化する研究の足がかりになったみたい。


 ようやく帰れる。

 せっかくの国外旅行だし、帰りはのんびり帰ろう。

 それぐらい許してもらえるよね。

 行きはちょっと悲壮感があったけど、帰りは楽しい旅になりそう!


 

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

マリアナ編はここで終わりです。

まだまだ続きますので、もしよかったらブックマークしていただけるとうれしいです。

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