表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

100/192

復活

「黒マント……」


 あの時の黒マント2体だ。

 全員臨戦態勢に入る。

 剣を置いたテーブルを守るように、マルクとエヴァ先輩が前へ出た。


「ほほう。新しい勇者ですか。ちょうどよいところに来てくれました。その剣も頂いていきましょう」

「お前ら、何者だ!」

「我らはゾルディアクを統べる者。愚かな人間たちよ、我が配下に下るのであれば、命は助けましょう」


 一歩、また一歩と、黒マントが近づいてくる。

 マントの隙間から、死霊のような顔が見える。

 目が赤く光っていて、明らかに人間じゃない。


「その剣をこちらに渡すのです」

「断る!」


 エヴァ先輩に向かって手を伸ばす、黒マントの片割れ。

 マルクがエヴァ先輩をかばうように、大剣でなぎはらうと、2体の黒マントは部屋の入り口まで吹っ飛んだ。

 が、すぐに何事もなかったように立ち上がる。

 マントが切れて、ハラリ、と落ちた。


 死霊だ。

 それも、元高位の聖職者だったような服装だ。

 首には禍々しい邪神のようなペンダントを下げて、手には黒光りする杖を持っている。

 もう一体は魔導士のような服装の、こちらも死霊だ。

 ミイラのような顔がぶきみに笑う。


「無駄な抵抗はやめるのです。今こそ長き封印が解かれしとき」

「魔神グスタロフよ、眠りから覚めなさい」


 元聖職者の方の死霊が杖から閃光を出し、クリストフの剣の宝珠が砕け散った。

 部屋一面に大きな魔法陣が現れ、テーブルにあった剣が宙に浮かび上がる。

 魔法陣の中心にゆらゆらと何かが現れ、それはゆっくりと形を成していく。

 天井まで届きそうな大きさの魔物が出現した。

 頭に角があって、太った鬼みたいな姿だ。


「誰だ、ワシを呼び出したのは……」


 ……と、次の瞬間、魔神と私たちの目の前に、ドサっと人が落ちてきた。


「え?」

「誰っ?」


 衝撃的すぎて、魔神よりそっちが気になる。

 そのギリシャ神話から抜け出てきたようなお姿は……


「クリストフ⁉」

「そ、そなたたちは……?」


 驚いたようにきょろきょろ周囲を見回しているのは、間違いなくクリストフだ。

 なんと、魔神と一緒に蘇った!


「しぶとい男よ、クリストフ。まだ続きをやりたいか」


 鬼豚のような魔神がペロリと舌を出し、手に持った巨大ハンマーのような武器を振り上げる。


「氷紋剣!」

「斬撃剣!」

「雷撃剣!」

「ぐわーーーっ! なんだこの人間たちは!」


 あれ?

 なんか物理攻撃、効いてるっぽい。

 鬼豚魔神の体は切り裂かれたが、すぐに修復を始める。

 回復持ちか。

 でも、腕がぶるぶるしてるから、雷撃ちょっとは効いてるみたい。

 

「その剣は……そなたも聖騎士なのか?」

「私は隣国の聖騎士、エヴァリスト・ディ・ヴェルジュ。あなたは勇者クリストフ様ですね?」

「我が名は聖騎士クリストフ・エヴァン。その勇者というのは……」

「あなたは今は勇者と呼ばれているのです。ここは、あなたが封印されてから100年後の世界です」

「なんと100年たったというのか……」


 クリストフの視線は、エヴァ先輩の剣に向いている。


「ぶしつけだが、その剣をどうか私に貸してはくれまいか。魔神グスタロフと決着を付けなければ」

「ダメですっ! クリストフ様っ! その剣はっ」


 オーグストが駆け寄って、エヴァ先輩を隠すように割って入った。


「斬撃剣!」

「雷撃剣!」

「獄炎の舞!」


 なんだかよくわからないけど、クリストフ様たちがお取り込み中なので時間を稼ぐことにする。

 レアナの獄炎の炎が、魔神につきまとって、ジュウジュウと肉が焦げては再生している。

 なんか、拷問みたいなんだけど。


「熱いっ! なんなんだ、お前たちも魔神なのかっ」

「残念でした、人間でーす! 爆裂剣っ!」

「みなさん、避けてください! 高速魔法陣、ニードルショット!」


 ニコラくんの大きな魔法陣から繰り出される鉄針が、魔神の全身に突き刺さる。

 ニコラくん、ニードルショットを強化したのね。すごい。


「ルイーズさん! 今です! 雷撃を!」

「あ、そうか! いかづちっ!」

「ぎゃあああああああ」


 魔神はひっくり返って、ぴくぴく痙攣している。

 電気治療みたいな感じね。

 

「兜割りっ兜割りっ兜割りっ」


 マルクが魔神の腕と足を切り落としている。

 再生するのかな、と様子を見ていたけど、生えてこない。


 なんか……魔神、弱くない?

 どう見てもAランクぐらいなんだけど。

 もしかして、アレかな。

 一度死んでからおもむろに第2形態に進化するとか?


「うわあぁん、クリストフさまああ! もう俺たちに任せて休んでてくださいぃ!」


 あ、オーグストが崩壊してる。

 クリストフ様は、すがりつくオーグストと、手足がなくなって息も絶え絶えの魔神を見て、困惑している。


「そなたたちは、ずいぶん強いのだな……」

「強いです強いです、だから、もう魔神は封印してはダメです! 倒しましょう!」

「しかし……」

「勇者クリストフ様。今こそ、とどめをさしてください。終わらせましょう!」


 エヴァ先輩がうやうやしく聖剣をクリストフ様に渡すと、瑠璃の宝珠が反応するように青い光を放った。

 エヴァ先輩は、どうぞどうぞ、という身振りで、クリストフ様にとどめを譲っている。

 先輩、逃げましたね。

 

 クリストフ様が剣を手に、魔神に近づく。

 魔神はもう胴体と首だけになって、戦意喪失中。

 マルクが足で急所を踏んで押さえつけている。


「クリストフさん、やっちまってください!」

「やっちゃえ、やっちゃえ!」

「皆、かたじけない……魔神グスタロフ! 覚悟!」


 クリストフ様が聖剣で魔神の心臓を一突きにすると、魔神はあっけなく息絶えた。

 そして、シュウっと音を立てて、姿が消えた。

 第2形態、なかったのね。


「四大魔神にまでのし上がったというのに、哀れなことよ」

「しょせんグスタロフ程度では、ゼルゼア様の配下はつとまらないということです」

「四大魔神の席がひとつ空席になりましたな」

「手土産にあの聖剣でもいただいていくとしましょう」


 しまった! 聖剣は床に突き刺さったままだ。

 

「そうはさせるかっ! 煉獄浄化!」


 オーグストが部屋を赤黒い炎の海にする。

 

「む、高位神官か……」


 黒マントたちは、オーグストの放った炎に動揺した感じで後ずさっている。


「ここはいったん引くとしましょう」


 黒マントたちの後ろに転移魔法陣が浮かび上がる。

 やつらが転移陣へ飛び込もうとした瞬間。


「行かせるもんかっ! 聖結界っ!」


 バチバチっと音がして、転移魔法陣が光を失った。

 通り抜けようとしていた黒マントたちは、頭と片手を魔法陣に突っ込んだまま、下半身だけジタバタしている。

 マルクが大剣でお尻をつつくと、余計にジタバタして面白い。


「……どういう状態だよ、これ」

「いやこいつら、俺たちが祠の封印を解除するのを待ってたんだろ? だから、聖結界を通れないんじゃないかと思って、転移魔法陣に聖結界を重ねがけしてみたんだけど……」

「転移中にはさまった、と」

「上半身はどこに行ってるのかなあ? あっち側どうなってるんだろ」

「あっち側には頭だけだから、動けないんじゃない?」

「これはもらっておきましょう」


 ニコラくんが、魔導士の方の死霊の手から、無理やり杖を奪い取っている。


「……このまま建物ごと封印して帰ろうか? こいつら、ここに封印しといた方がいいかも」

「うん、そうだね。 一応、魔神は倒したし」


 ここは、オーグストの言葉に、従うことにした。

 想定外の出来事なので、どうしていいかわかんないし。

 放置プレイということで。


 全員祠の外へ出て、オーグストが建物ごと封印する。

 任務完了。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ