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「ったく、飯時に襲撃たぁ野暮な奴だぜ。飯粗末にすんな、勿体ないお化けが出るぞ!」


 飛んでくる土塊からイリアを庇い、距離が近いから弓ではなく鉈を構える中、濛々と上がる土煙の中心で此方を見下ろす馬に乗った騎士っぽい奴。

 あの兵士達見てると何も考えずに派手に登場した傍迷惑な馬鹿なだけの気もするが、流石に無いよなあ……。


「お父さん、今はそんな事言ってる場合じゃ無いと思うんだけれど……」


「だよなっ! 俺も動揺してるわっ!」


 イリアが被った土埃を手で払ってやりながらの悪態を止め、敵だろうと認識した奴から視線を外さず睨み合っている時、最初に動いたのはリオンだった。


「誰かは知らないけれど名乗るっしょっ!」


 リオンが杖を振れば吹き荒れる突風が土煙を吹き飛ばすが騎士(取り敢えず騎士呼び)、土煙が完全に晴れて姿をハッキリ見たルミテスが声を上げた。



「そんなっ! どうして魔神がこんな所にっ!?」


「……お父さん、まじんって何? 美味しいの?」


「いや、美味しい物では無かっただろ。えっと、確か……」


 取り敢えず敵なのは確定として、姿見ただけでマジン? ってのだって分かる以上はあの嬢ちゃんには何か見えてんのかねぇ?


 マジン……魔神かっ!


 イリアが勇者だって分かった後、リアムから重要そうな事は教えられたんだが、確かその中に有ったな。


「そもそもモンスターを増やしている石版ってのは人間の邪悪な部分が集まって生まれた魔王ってのが作り出してて、魔神ってのはその手下……だったか?」


「……へー」


「分かってねぇだろ」


「うん!」



 俺がイリアを庇いつつ相手について考えていると、向こうも俺を通り越してイリアの方に視線を向けた。


「我々が相手をする勇者は子供か。私だけで来て正解だったな」


「……女?」


 ロビンが相手の声を聞いて呟く。

 フルプレートにフルヘルム、顔も体型も分からないが声からして若い女だ。


 まあ、エルフだって長命だし、魔神の実年齢とかわからねぇけど。


「女が敵なのが不満か? 私とて矜持に反するからと軍を率いず来たが、倒すべき宿敵が子供だと知って不満だとも。だが、倒さねばならぬ。我等が世界を支配する為にもな」


「要するに未熟な内に勇者を倒しに幹部自らお出ましって事かよっ! そりゃ英雄譚じゃあるまいし、弱い順に敵が来ないよな!」


「私達も居るのを忘れない事です!」


 不愉快そうな声を出す魔神の体を周囲から伸びる金色の光が巻き付いて動きを止め、頭上に巨大な火の玉が現れた。


 恩恵スキル”天使”を持つルミテスと”魔術の極み”を持つリオンによる連係攻撃は見事に決まり、動きを封じられた魔神を巨大な火球が飲み込んだ。


「……やったか?」


 ポツリと呟いたロビンの言葉を否定するように燃えさかる炎は消え失せ、全くの無傷の魔神と馬が姿を現す。



「随分と温い炎だ。勇者の仲間としての力を十全に扱えていないらしいな。故に今此処で始末する。……ふんっ!」


 気合いと共に腕を広げて鎖を粉々に砕いた魔神はランスの柄を掴み、切っ先を俺達の方へと向けると馬の腹を蹴り、普通の馬の数倍の速度で突っ込んで来た。



「死ね、勇者」


 突き出されるランスの先が向かうのはイリアの胸、その前に俺は飛び出して自分の腹で受ける。

 服だけ穴を開けられ、体は全くの無傷。

 それでも突進が乗った突きを食らったんだ、ぶっ飛ばされない様に足に力を込め、相手が咄嗟に引こうとしたランスを掴むと一歩踏み出す。

 空いた手が向かうのは馬の口、突っ込んだ指をかみ切ろうと力を込めるが当然俺の指は傷一つ負いはしない。



「テメェ、今イリアを殺そうとしたよな? ぶっ飛ばすっ!」


 下顎をがっしりと掴み、そのまま馬を片手で持ち上げると地面へと叩き付けた。


「ぐっ!」


 咄嗟にランスを手放して待避しようとした魔神も間に合わず馬の下敷きになって叩きつけられた瞬間、俺の背後でイリアが構えた杖が強く輝いていた。



「これでも……食らっちゃぇええええええええええええええええっ!」


 そのまま振り下ろせば先端から出た光の波動が魔神と馬を飲み込み、地平線の向こうまで突き進む。



「……今度こそやったか? しかし、勇者の力が此処までとは……」


 再びのロビンの呟きだが、此奴にはその手の事を言わないで欲しいと思っちまったよ……生きてる魔神の姿を見ちまったらな。


 馬は消え失せて鎧はボロボロ、兜も砕けて鋭い目つきの顔が見えている。

 一見すればボロボロだが……さっきまでより強くなった気がするんだが。




「魔神四天王が長オーディ、それが私の名だ。名乗れ、勇者」


「えっと、イリアだけれど……」


「そうか、感謝するぞ、イリア。……お陰で全力で戦えるのだからな」


 砕け残った鎧が崩れ、オーディの力が増していくのを感じる。

 あー、ちぃっと面倒そうだ。



 オーディがゆっくりと一歩踏み出す、それだけで地面に足が触れる直前にヒビが入り、触れた瞬間にそれは広がる。

 同時に腕には裂傷が現れて、それが即座に修復した。


「己でも制御不能な程に膨大な魔力、己の身や周囲の味方すら傷付けるこれを抑え込む枷こそが貴様が今し方壊した鎧だ。全く、常時回復魔法を展開し続けるのは楽ではないと……」


「もう一発っ!」


 予定が狂ったのが気に入らないと苛立ちすら見せていた所にイリアが叩き込むさっきよりも強そうな攻撃。

 それは完全な不意打ちとしてオーディに再び直撃した。


「へへーん! 私が強くなる前に倒そうとしたんだし、自分だって会話の途中で攻撃されても文句無いよねー!」


 腰に手を当て、悲しい位に平らな胸を張って得意そうなイリアだが、俺はちょいと後悔している。



「獲物の気配を探る練習をもうちっとさせておくべきだったか……」


「……やったのでは無いのか?」


 おい、ロビン。

 三回目になると洒落にならねぇよ。




「そうだな。私とて文句は無いさ」


 光が晴れて姿を現したオーディは結構な怪我こそ負ってるが直ぐに治っていっている。

 ものの数秒で元の通り、反対にイリアは慣れない魔法使って息が少し上がっていた。


 もう少し慣れてたら平気で戦えたんだろうが、それを防ぐ為に襲ってきたのが目の前の此奴何だよな……。



「わわっ!? そんなの反則だよ、反則!」


「いや、遊びじゃねぇんだから反則も糞も無いだろうが。……下がってろ、俺がやる」


 この距離じゃ弓を構える暇なんざ与えてくれねぇだろうし、それ程得意じゃねぇんだが……。


 後ろを見りゃ不安そうな娘の姿、急に勇者になって力を得たり、元から猪突猛進の山猿だったりさっさと世界を救って家族で村に戻りたいとかで気が高ぶっちゃいたが、結局は十四の子供だ。



 そう、子供だ、俺の娘だ。





「此奴には指一本触れさせねぇぞ!」


「ぬっ!?」


 鉈を抜いて切りかかるが、寸での所でランスを差し込まれて止められる。

 衝撃で先端が歪んだランスを押し込もうとするんだが力は拮抗……いや、向こうの方が少し上か。

 僅かだが押し返され始めた俺が必死に堪える中、オーディは笑っていやがった。


「はは、ははははははっ! 良いぞ貴様! この状態の私とほぼ互角とは一体何者だ?」


「強いて言うなら娘を守る為に頑張る親父だな。それ以外は思い当たらねぇ」


「ふんっ。しらばっくれるのは程々にしておくのだな」


「んじゃあ、猟師?」


「……ふざけているのか?」


「じゃあ、超絶凄腕の猟師兼娘の為に頑張るお父さんって事で。……それが不満なら残り三人の若者を守ろうとする年長者ってのも物のついでに適当に加えておいてくれや」


 え? 酷くないかって?

 いや、つい先日知ったんだがモンスターとかと戦うのもあの三人の元々の仕事らしいし、その活動資金は税金やら寄付金なんだし、もうちっとしっかりして貰わないとな?


 俺、税金は結構払ってるし。



「……もう良い。貴様にも分からぬという事だろう。今はこの時を楽しもう!」


「いやいや、娘を守るって事は危険な目に遭ってるって事だし、守る必要のある状況を楽しめるかよ。話聞いていたか? お前、馬鹿だろ」


 あっ、ヤベェ、挑発効きすぎた。


 オーディは反動が大きくなって傷が深くなるのも気にせずに俺を押し込もうとして来る。「



「そのまま押さえ込め。首を斬られれば再生は出来ないだろう」

 

「四天王の長……此処で倒します!」


「任せておきなっ!」


 俺との戦いで無防備になった首に向かって振るわれる剣。

 ルミテスとリオンの補助が加わり、火と光を纏う剣になって首に叩き込まれ……弾かれた。







「忘れていたとでも思ったか。相手をする価値も無い……それだけだ!」


 俺との鍔迫り合いをしながら首だけで三人の方を向いたオーディの瞳から放たれる二筋の光線は三人の体を貫き通し、今度は至近距離から俺に放たれた。



 ぐっ!



「これでも傷は負わぬのか。……だが、弱点は分かった」


「はっ! 俺だってテメェの弱点をりかいしたぜ。……おい、イリア。ちょいと面倒だろうが三人連れて先に帰ってろ。俺は此奴の相手をしてから帰る」


「え? でも、お父さん……」


「約束だ。絶対に帰る」


 後ろを向く余裕は無いし、最初の声は不安そうだったが、次の言葉を掛ければイリアが迷わず俺の横を走り抜けて三人を担ぎ上げる後ろ姿は視界の端で捉えた。




「じゃあ、約束だからね!」


「ああっ!」


 さっきの光線でも放とうとしたのか後ろを向こうとするオーディの顔を掴んで邪魔をし、光線が俺の手の中から僅かに漏れる中、イリアの姿は遠ざかって行く。




「よーし! 逃げた逃げた。……痛たたたたた」



 片腕を離したから押し込まれたが、叩きつけられた勢いで距離を取り、光線を受け続けた手を振るう。

 ぶっちゃけ痛くて痛くて堪らない、涙が出そうだ。



 さっきまでは平気な顔をしちゃいたが、指摘された弱点ってこれだよ、これ。

 怪我は負わないけど痛みは有るし、ぶっちゃけ光線やらランスやらで体を貫かれた痛みは凄かった。


「はっ! 良くもまあ堪えていたものだ。貴様、本当に只の猟師ではないだろうに」


「だから子供を守りたい父親だって言ってるんだろが。娘庇って攻撃受けて、それで痛みで叫び回るとか情けないだろ。父親ってのは見栄張りたいんだよ」


「魔神である私には分からぬ考えだな。それ程に娘を守りたいとは……ああ、世界を守る為か、一族の名誉の為か」


「……はっ!」


 納得した様に言うオーディだが、俺は思わず笑っちまった。

 世界の為? 一族の名誉?






「だから娘を守るのは父親だからって言ってるだろ。馬ー鹿!」


「……もう良い。傷を負わずとも心が死ぬまで攻撃を続ければ良い。覚悟しろ、人間」


「テメェこそロビンが言った通りに首切り飛ばすか、それ以外なら魔力が切れるまで攻撃すりゃ良いよな? 俺の精神かテメェの魔力か、どっちが駄目になるか勝負と行こうや! まあ、約束をしたんだから俺の勝ちは確定だ。飲み過ぎた時にリアムの奴が怒る位分かりきってらぁ!」


「約束? それがどうした。それが貴様が私に勝てる理由になる筈が無かろう!」


 俺の言葉を安い挑発と受け取ったのか随分と怒った表情でランスを構え、魔力を高めてるもんだから余波で周囲の木やら地面やらが吹っ飛びそうだ。


 だがなあ、本来なら只の田舎の猟師の俺じゃあ普通はビビって逃げ出すか命乞いするんだろうが、ついつい笑みを浮かべちまう。

 なーんで簡単な事がわからねぇんだよ、この女は。




「親父が破って良い約束ってのは”欲しがった物を今度買ってやる”とか”酒はもう一杯だけ”とか、そんなのが幾つかだ。必ず帰るって約束したんなら、必ず帰るんだよ、親父なんだから!」


 鉈を構え、ランスを突き出して突進して来る。

 相手の方が戦いの技術が上だ、だったら当たるまで武器を振るい、相手の攻撃は耐え続けるだけだ。

 簡単簡単、イリアに嘘吹き込んで騙くらかすより簡単だよな!




「んじゃ、今夜は家族三人で初めての旅行先での飯なんだ。さっさと終わらせて帰るとするかねえ!」










 ……っと、まあ粋がってはみたものの相手は魔神四天王の長とやらだ、強い強い。

 結局、相手がボロボロになっても回復が出来なくなったのは翌日の夜遅くだ、途中で川近くで戦ってついでに水飲んだりしなきゃどうなっていた事やら……。






「お父さん!」


 フラッフラになった状態で街まで戻れば一直線にイリアが飛びついて来て、リアムもその側で微笑んでるが……無茶するなって感じで怒ってるよなあ。




「ほいほい、ちょいと休みたいから部屋に行かせてくれな。その前に飯だな、それと酒……」


 正直倒れそうな位に疲れてるんだが、こんな所でぶっ倒れるのは親父として情けないよな?

 朦朧とする意識を根性で保ち、イリアを抱き上げて肩車をしてやる。



 さてさて、もう少し根性見せますか。

 遠目にロビン達の姿が見えるが、今はどーでも良いや。



「お父さん、私もっと強くなるね!」


「おうおう、頑張れや。俺も強くなるから守ってやるのは変わらないけれどな」


 娘の決意に成長を感じて嬉しいやら寂しいやら。


 まあ、此奴の成長も、ついでに世界を救う為の冒険もこれからだ。

 父親として頑張るか。



 大変だが、世界一可愛い娘の為だ、親父として立派な所を見せないとな!





 ……にしてもオーディが去り際に”お前みたいな猟師が居てたまるか!”とキレながら言われたが、普通の猟師なのは事実なんだけれどな……。

 

漸く終わった


他のもよろしくお願いします

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