中 ②
「それで……もぐ……仲間とは顔合わせをした……んぐ……どんな人達……ごっくん」
「喋るか食べるかどっちかにしろ」
あの任命式の後、勇者を捜す為の儀式は秘匿とか言われて顔合わせをしたんだが、その後に漸く一旦解放されて遅めの食事の真っ最中だ。
クッキー少し食っただけだから寝転んでウーウー唸っていたイリアも飯食いに入った先で口の中一杯に物を詰め込んで喋ってたんだが、流石に行儀が悪いからな。
「もぐもぐもぐもぐ……ごっくん」
うん、まあ、喋るよりも食べるのを優先するよな、此奴は。
予想通りの行動に安堵感を覚えつつ俺も食事を楽しんでいた。
……見張りの兵士があれで気配を殺しているのが鬱陶しいんだけれどな。
ゲースラ辺りが食事を用意してくれなかったのかって?
あの男の用意した食事が旅行の最初の食事とかが嫌だとか家族三人の意見が一致してな、リアムが元お嬢様だって事で屋敷を一旦飛び出したんだよ。
「其処をお退きなさい! 私は夫と娘と食事に行きます!」
普段とは違う態度と言葉遣いにイリアは驚いていたが、此奴って昔はこんなのだったからな?
あれは俺が十五の時、狼に襲われている育ちの良さそうな女を助けたんだが……。
「私を助けるとはよくやりましたわ! ついでです、貴方の家に招待しなさい!」
こーんな感じで居候してきたが、慣れていない家事とかもやってくれるようになって……数年後に夜這いされて生まれたのがイリアだって所は流石に黙ってた方が良いよな?
いや、良く追い出さなかったわ、何だかんだで当時のリアムってゲースラの娘だなって感じの所が有ったもんな。
両親が死んで寂しかったからだろうな、当時の俺……。
あの頃の事は本人も黒歴史なのか記憶を捏造しているしな、別に良いけれどよ。
「所でお母さん、屋敷を出る時に少し何時もと違ったよね?」
「何の事か分からないけれど、イリアの勘違いよ、きっと」
だからイリアにその辺に突っ込まれても誤魔化しに掛かる。
本当に何を言っているのか分からないって態度で首を傾げて、イリアの方が困り顔だ。
「え? でも……」
「お母さんのお肉、一切れ食べる?」
「食べる!」
「俺のチーズもやるよ」
「やった!」
さて、これで誤魔化せたな。
飯を美味そうに食べている娘の姿にリアムは娘に受け継がせた大きさの胸を撫で下ろす。
既にこの時、娘の頭の中からさっきの疑問が消え去ったと確信していた。
「所でさっきの話の続きなんだけれど……」
「「!?」」
なん……だと……?
まさか飯で誤魔化し切れないというのか、イリアだぞ!?
世界一可愛いが割とアホの部類に入る娘の言葉にリアムは両手で口元を覆ってさえいる程だ。
俺も口をあんぐり開ける所だった。
「それでお父さんの仲間ってどんな人達だったの?」
「あっ、そっちか」
ヤベェ、焦った焦った。
そっちなら喋っても大丈夫だ。
「そっち?」
「あー、何でもねぇ。んで、俺以外だが気障ったらしい騎士に頭も態度も軽そうな坊ちゃん魔法使いに育ちの良さそうな神官の嬢ちゃんだな。……見事に役割がバラけたのは良いんだが、俺以外は若いのばっかだし箱入りって感じだったぞ。大丈夫か、あんなのが旅に出て」
なんかなぁ、どうも勉強と訓練はして来ましたって感じだし、俺の役目はイリアと数日掛けてやった狩りの時みてぇに野営のあれこれを教えてやるって所か。
得意分野だし、豚共に言われた役目よりはやる気だけれどよ……。
「えー、そんなので大丈夫なの? お父さん、やる事が多過ぎたりしない?」
「まっ、大丈夫だろ。勇者次第だけれどよ。あの豚みてぇな奴じゃなけりゃ良い」
「その勇者ってどうやって探すの?」
「ああ、確か探す儀式はしたし、其奴の手元に武器が現れるってよ。剣だの弓だの斧だの、職業スキルみてぇに才能との相性が良い奴だと」
「……ふーん。まあ、旅立つ前に私がガツンと言ってあげるね。お父さんに迷惑掛けるなよーって」
「そうかいそうかい。ほれ、良い子な娘に肉の追加……だ……」
あれ? イリアの真横で光る杖が浮いてねぇ?
しかも光る勇者の紋章が刻まれてね?
「お父さん、どうかした? それにしても邪魔な杖だね」
フワフワと自分の周囲を舞う杖をハエでも追い払うみてぇにするイリアだが、杖は離れない。
只、紋章の光が弱まってるが、確か意思があるんだっけか?
要するに武器を持っている間は完全に一人になれない上に、今みたいにj離れようとしないって可能性があるんだが、中身は男じゃねぇよな?
「イリア、お前が勇者っぽいわ」
取り敢えず教えておくか、じゃないと話が進まねぇだろ。
「ふーん。私が勇者なんだ。……えぇえええええええええええええっ!?」
最初は反応が薄かったが、意味を理解したのか大声を上げて驚いているし、俺達親が言ってやる事は決まっている。
「イリア、一旦落ち着いて・・・・・・」
「そうよ。ご飯の時は立ち上がっちゃ駄目だし、大声も出さないの。行儀が悪いでしょう?」
「いや、そっちかよ」
まさか俺だけでなく娘まで旅に出る事になるし、父親の俺が落ち着かないと駄目だと思ったら、母親の方は予想以上に落ち着いてやがる。
確かに行儀が悪いけれどよ・・・・・・。
「うふふふ。ウィムさんが近くで守ってくれるんだもの、寧ろ山の中を一人で駆け回ってる普段の方が不安よ」
「まあ、何処の誰とも知らない奴よりは守る事に迷いは無いけれどよ・・・・・・」
「イリアもお父さんなら絶対守ってくれるし、安心してさっさと世界を救っちゃいなさい。冬を越す準備の途中だし、危なくない程度に急いでね」
「う、うん。お父さんが居てくれるから安心だけれど・・・・・・」
イリアは何が何でも守る、父親何だから当然だ。
スキルが有ろうが無かろうが、可愛い娘の盾になってやるよ。
それはイリアも分かってるんだが、リアムを一瞥した後で俺の方に顔を向けたから静かに顔を横に振る。
何だかんだでリアムが一番精神的にタフなんだよな。
ぶっちゃけ、ゲースラの屋敷に一人残ろうとリアムなら大丈夫だって俺も娘も確信していた。
「じゃあ、残りを早く食べちゃいましょうか。・・・・・・あの兵士達も三流よね。イリアが勇者だって認識してから動くのに時間が掛かったし、見張りを残さずに報告に行くんだもの。部下があれなんて欲に溺れて衰えたわ」
これならゲースラの弱みを握るのは簡単そうだわ、そんな風に呟くリアムの顔は昔に戻っていた・・・・・・。