F
「乾杯!」
音頭を取ると同時、私を取り囲む1.5万人のファン達は口々に叫んだ。私はみんなを煽り立てるように、更に叫ぶ。
「みんな、最後の晩餐は用意したか!」
我先にと、今年の最後を飾るツマミを私に紹介し、薦めてくるファン達。私は、優越感に浸った。マスクの下の表情筋は緩み切っている。目の前の光景、1.5万人とちょっとの私を慕う人々が眼前に群がっている光景は、私に確かな満足感を与えた。
「私はこれで、今年を締めくくるとするよ!」
そう言い、私はお気に入りの牛乳プリンを光に照らして見せた。220円。税込み。
と、その時ふと視界の端に、数人で盛り上がっている男女のグループが映り込んだ。目の前のスマホに示される、11時59分。新年を嬉々として待ち構えている、いわゆる仲良し組ってやつなのだろう。新しい4ケタのカチューシャなんかをもうかぶっちゃって。
......羨ましくないさ。羨ましくない。
なんせ私には、1.5万人のFがいるんだから。
「ハッピーニューイヤー!」
私はそっと、ツイートボタンに添えた指に力を込めた。