ココア飲めず
なんか、どっかにネタだけは上げたやつです。
どこだったかは思い出せない……。
とある冬の東北の片田舎。
ハラハラと雪が降る夜、家の中でドテラを着て受験勉強に明け暮れているのが……俺、佐久間 冬だ。
志望高校には、おそらく……というかほぼ受かるのは確定の学力はすでに有しているのだが、形だけでも受験勉強をしていないと家族に心配される。
特に母さんが心配する。
今日も少しTVを見てただけで『受験勉強だいじょうぶ?』と聞いてきた。
……心配しているのは分かるのだが、少しはゆとりを持たせて欲しいものだ。
こうも休憩をせずに、夜遅くまで勉強ばかりだと逆に効率も落ちてしまうのだが……。
「まあ、文句を言っても仕方ないか。受験まであと1ヶ月を切ってるし、それまでは我慢して大人しく勉強に勤しむとしよう」
そう呟き、一通り問題を解き終わった問題集から目を離し、背中を伸ばす。
くうぅ〜〜。やっぱり長時間座ったままだとかなり身体にくるなあ。少しだけ休憩しよう。
椅子から立ち上がり、部屋の中にあるケトルを手にしてキッチンへと向かう。
すでに11時を過ぎており、家族は皆んな眠りについているので、音を立てない様に廊下を通り、キッチンでケトルに水を汲んで、自分のコップ、スプーンを棚と引き出しから取って部屋へと戻る。
部屋に着いたら、コップとスプーンを机の上に、ケトルを台に置いてスイッチを入れた。
すぐにケトルにランプが点き、段々と温度を上げていく。
その間に僕は、部屋にストックしてあるココアのスティックを手に取ってコップの中へと入れて、空になったスティックをゴミ箱へとポイっと投げ捨てる。
あとはお湯が沸くのを待つだけだ。
と、いっても直ぐだな。ほら、もうこぽこぽ音を立て始めたし、蒸気も間からこぼれてきた。
「……よし、沸いたな。このお湯をここに注いで……スプーンで粉がダマにならないようにかき混ぜて……っと、出来た。うん、いい匂いだ」
作り始めてから数十秒で俺の大好きなココアの完成。
冬の寒さが厳しい夜中のいまは、やっぱりホットココア。これ一択だ。
この暖かさと甘さが、勉強疲れした自分には最高の癒しになる。
じゃあ冷めないうちに、いただき……!?
「ガッ……!?ハッ……!?」
急に胸へと痛みが走り、呼吸が苦しくなる。
突然のできごとに対応できず、左手で胸を押さえたまま膝から崩れ落ちた。
当然、右手に持っていたコップは途中で手放してしまい、ココアがカーペットを汚した。
が、そんな事を気にしてはいられなかった。
「ガハッ……!?や、やば……い、き……」
全く呼吸ができず、しだいに目が霞み、手足に力が入らなくなっていく。
何とか机のスマホを取ろうとしようにも、立ち上がれない。
苦しくて音も出せない。
「死ぬ、のか……?」
もはや、意識が朦朧として力も抜けていく中で、自分の死を悟る。
よもやこんな呆気なく自分が死ぬとは思っていなかった。死ぬにしても、早くて40代、50代程度だろうと思っていた。
それなのに……早すぎだろ。
くそ……せめて、せめて……!
「さい、ごに……ココア……飲みたかっ……た」
佐久間 冬。享年15歳。
ココアがぶち撒かれた部屋で死亡。
最後の言葉は『ココア飲みたかった』である。
……自分のことだが、ひでぇ。