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ニャームズの記憶石

 ウッドランドの入り口に着くと大男が私たちを出迎えてくれた。


「ほお。友達が出来たか。良かったな」


 タコを思わせる男だった。

 髪の毛は一本も生えておらず、着けると視界が悪くなる意味不明な道具、サングラスとかいう眼鏡をかけていた。

 ナツキよりも背が高く、筋肉もたっぷりと付いた強そうな人間だ。


「お父さん。ナツキ君。最近友達になったんだよ。こっちは彼の飼い犬のハイン!」


 大男はハルキの父親らしい。

 名前が分からないので私は彼の事をオクトパスから取って『オクト』と呼ぶことにした。

 ハルキは『SNS?』とやらでナツキと知り合い、名前が似ている事で親しみを抱き、植物の話で意気投合し、今日会うようになったこと。

 ナツキがこの大学一年生である事をオクトに伝えた。


「ニャトソン。君は彼ら親子に会うのは初めてだったかな?」


 ニャームズが私に猫耳打ち

して来たので、そうだと答えた。

 

「そうか。君はウッドランドに来ても昼寝ばかりするからな。会ってなくても不思議ではない。彼は植物のエキスパートだよ」


ニャームズ曰く、植物の王であり、ハルキと二人暮らし。

 シングルファーザーだそうだ


「新しい猫もいるな」


 私の事であろう。

 言葉が通じずとも自己紹介はしっかりしなければと私はペコリと頭を下げた。

 

「その子はいつも見かける野良猫の友達みたい」


「そうか。猫にも植物の良さがわかるか。ナツキ君。草と花と木しかないので若者には退屈だろうが、飽きるまで遊んでいけば良い」

 

 「仕事が残っているから」とオクトは我々に背中を向けたが、顔だけ斜め後ろを見てナツキにこう質問をした。


「犬は大丈夫か? ここには人間には無毒でも動物には毒になる」


 オクトが真剣な目でそう尋ねたので、ナツキは少し緊張した声で「はい」と言った。


「トゲのある植物もあるからその辺りは犬には危ないから近づかない方がいい」


 そう言い残してオクト氏は仕事へと戻っていた。


「……おい。ニャームズ。なんで俺が警察犬でしかも嘱託だってのが分かったんだ?」


 ハインが尻尾フリフリのご機嫌モードのまま我々に話しかけてきた。

 声はかなりドスが効いている。

 中々器用な事をする犬である。

 そう言えばそうだなと私は思った。

 ハインはニャームズには自分が警察犬だとは言っていなかった。

 なぜ分かったのだろう?

 

「そもそもなんでお前らも付いてくるんだ!? 私を観察でもするつもりか!?」


 これもまたそう言えばそうだなである。

 ニャームズは森を降りてきた。

 つまり帰り道だったのだ。

 私が遅すぎたので迎えに来た? いやいや、ニャームズは私がウッドランドにあまり興味は無いことを知っていたので、私が来ないなら自分だけでウッドランドを楽しむはずだ。

 事件などに関係のない事でニャームズは私に行動を強制する事はほぼない。

 一緒に出掛けてもそれぞれ自由時間を楽しみ、その後、合流して家に帰る事が多かった。

 ニャームズはハインの質問に『ああ面倒くさいな』と言わんばかりの表情でダルそうに答えた。

 『なんでそんな簡単な事を説明しなければいけないんだ?』と彼が思っているのが私にはわかった。


「だって君は警察犬用のハーネスを着けているじゃないか。『POLICED・DOG』そう書かれているね? 直轄警察犬は君のように自由に散歩は出来ないよ。観察? 自惚れるなよ。君からは謎は感じない。落とし物を取りに」


 ニャームズは分かっていないのになんとなく分かったようなフリをしていた私にチョッカツとショクタクについて分かりやすく説明してくれた。

 直轄警察犬は警察犬の訓練所で働くエリートの中のエリートで、嘱託警察犬は『普段は一般家庭で飼われ、要請があった時だけ出動する』警察犬らしい。

 『どちらもエリートだが嘱託は直轄にコンプレックスを持つことが多い。どちらも素晴らしいのにね』とニャームズがボソリと言ったので彼は警察犬をリスペクトしているのだなと感じた。


「ふん! 自分が頭がいいと思うなよ! お前は『ズル賢い』だけだ! まぁいい。おい覚えておけよインチキ猫ニャームズ! 人間の役に立ち、共に戦えるのは我々犬だけだ! あまりでしゃばるなよ? いいか!?」


「ほら。あったよ。これだ」


 ニャームズは怒れるハインを無視して、地面に転がるたくさんの石達の中から一つ選んで毛皮の中にしまった。

 私には全く見分けがつかないのだが、この石が今日の『記憶石』らしい。

 『蝉語』を学ぶのはニャームズにとっても難しいことらしく、彼は『その日学んだことの記憶』を石に込めた。

 人間でいう『ノート』だと彼は言った。

 石を拾い持ち帰り、記憶石を額に当てると学んだことを思い出せるそうだ。

 他の猫がやっていたら信じられないが、彼がそうだと言うならそうなのだろう。

 そのおかげで自宅にある私たちの宝物入れの段ボールは草と石だらけである。

 ニャームズは額に記憶石を当てた。


「『レ・アブラゼミ』これが今日覚えた蝉語だ。どういう意味だろう? 自宅にある記憶石と照らし合わせて考えてみよう。さっ、帰ろうぜニャトソン」


 ハインはまだ敵意むき出しの目でニャームズを見ている。

 よくこの眼差しを無視して普通にしていられるなと私は感心したのだった。

  

  


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